第二十五話 最強を殺したドラゴンを倒したいと思います
作品タイトルとサブタイトル一緒だけど最終回じゃないからね?
気が付けばもうすぐ年末ですね。
また泣きながら甥っ子とかいとこにお年玉上げるんや……。
更新です。
この世には、剣を持てぬ者もいる。
この世には、立ち上がれぬ者もいる。
その者たちのために冒険者は剣を持つ。
戦えぬ者の剣となり、勇気となるために。
――冒険者の教訓より抜粋。
黒銀の竜を踏み潰し雄たけびを上げる白金の竜。
竜にとって、それは単なる威嚇だった。
人にとっては、絶望するには十分な出来事だった。
だが、今戦場に立っている者に絶望してる暇など与えられない。
「まてまてまて。落ち着け落ち着け」
ノアは自分に言い聞かせるように言葉を繰り返し、虚ろな目で白金の竜を見据えるジョーのもとに駆け寄る。
「……一旦、みんなと合流しよう」
「……はい」
その一瞬の絶望により、ノアとジョーは魔物に取り囲まれ身動きが取れなくなる。
「……戦えるか?」
ノアは気を遣うように、ジョーにそっと声をかける。
「もちろんです……悲しむのは後にします。今は冒険者として戦います」
ノアは無言で頷き、魔物の中へ飛び込んでいき、ジョーもそれを追うように駆けだす。
まるで打ち合わせをしてたかのように集まった11人と壁の上に取り残された1人の勇敢な者達。
あ、今ヴィントが壁の上に迎えに行った。
「ジョー、大丈夫か?」
「トリさんこそ血まみれじゃないですか」
「いや、今は俺のことじゃなくて……!?」
当然、鶏肉も殺される瞬間を見ていた。
だからこうして心配して声をかけたのだが、ジョーの表情を見て口を噤んだ。
闘志に満ちたその表情。
それはそうだろう。なにせ仇は目の前にいるのだから。
「あの……黒いのが何なのかあんたら知ってるのか?」
血が滴る二刀を握ったままセリクが英雄たちに近づく。
その後ろには、魔力を使い果たし限界そうなリーリエが。
「黒いの……あれは俺たちが倒したドラゴン……ギルマスだよ」
ノアがその重い口を開く。
正体を知っている英雄たち以外はみな声を上げることもなく驚き、同時にジョーの様子に納得する。
「話が見えねえ」
ステラを回収してきたヴィントが首をかしげる。
「詳しくは今の状況をどうにかしてからにしよう」
「来たよ!」
カオエンが叫ぶ。
ステラの魔法で眠っている魔物を踏みつけ新たなる魔物の大群が襲ってくる。
幸か不幸か魔物たちはシュテルクストを襲うのではなく、ノアたちを直接襲ってくる。
ノアたちはいっせいに散開し戦闘を始めるが、ステラの魔法により照らされても眠りもしない白金の竜が視界の端にちらつく。
【ノアと愉快な仲間たち】が力のすべてを出し切り、やっと倒した黒銀の翼。
それは、フリードの新たなる最強となり――敗れた。
(あいつを倒すにも、とりあえずこの大群をどうにかしなきゃ……あいつ何してるんだ!?)
白金の竜は翼を広げると、頭の上にそびえたつ一本角が雷を帯び始める。
嫌な予感がする!
ノアが他のメンバーに声をかけようとした時、それは放たれる。
逃れ得ぬ雷の鉄槌、災厄の権化。
戦意、希望、皆灼ける。
幸い全員直撃こそ避けたが、その余波で大きく吹き飛ばされる。
シュテルクストを取り囲む強固な壁が砕かれ、静かな街並みがあらわになる。
戦局はまさしく絶望、希望の欠片も見当たらない。
しかし、まだ戦えると皆が立ち上がった時、その声は響き渡った。
――――
ほんの少し時を遡り、黒銀が敗れてすぐのシュテルクスト中央闘技場。
もうおしまいだ。
あんなのに勝てるわけがないんだ。
俺たちはここで死ぬんだ。
絶望渦巻く闘技場内。
数時間前までのお祭り騒ぎがまるで夢であったかのように錯覚させられる。
実況席にて国民と同じようにスクリーンを見ていたスルヨはあの黒銀の竜が何者かの察しはついていた。
最強が死んだ。
一度ならず二度もこの国を、世界を救おうとした最強が死んだのだ。
その現実を咀嚼し、ギリギリと歯を軋ませる。
今この瞬間、スルヨは何もできない自分の無力さを嘆く。
そして、新たに魔物の大群がスクリーンに映し出され、耳をふさいでも意味がないほどの爆音と共にシュテルクスト南側の壁が崩れ落ちる。
戦況は絶望的だ。
いまだ戦う勇敢な者たちの魔力もとうに限界を超えているだろう。
スルヨは観客席を見渡す。
そこには表情に絶望という表現では生易しい。そんな表情を浮かべる観客たちが。
おそらくここ以外の闘技場でも同じような状況だろう。
いまだ希望を失わず俺たちを護ろうとしてる冒険者たちがいるのに何勝手に絶望してるんだ――。
気休めでも構わない。
焚火に薪をくべるように、気休めに気休めを重ねて、熱を失わないように何か言わなければ。
スルヨがマイクに手をかけたその時、スピーカーを介しシュテルクスト全体に透き通った叫びが響き渡る。
「勝手に絶望するなぁぁぁぁ!!!!!!」
中央闘技場の中心に一人の白髪の女性がマイクを片手に歩を進める。
「絶望する暇も与えられず、諦めずに戦ってる勇敢な者達がいます。それなのに何故、護られているだけの者が先に諦めるのでしょう」
その声はシュテルクスト全体に響き渡り、とある者達を走り出させた。
そこに向かって何が得られる?富?名声?
いいや――逃げ出した自分を捨てられる。
そして崩れた南側の壁に今大会の出場者、そのすべてが集結した。
「戦えない私たちにできることは戦ってる者を信じ、希望を忘れないことではないでしょうか?」
透き通った声につられ魔物の大群はいっせいにノアたちを襲うのをやめシュテルクストに突撃していく。
それを【喰魔】【氷晶の蝶】【ガーデン】ギルド職員たちをはじめ、およそ200名の戦士たちが迎え撃つ。
魔物たちはシュテルクストには一歩も入れさせない。
だから、あの雷の怪物をどうか。
誰かがそう叫んだわけでは無い。
でも、その想いはノアたちにしっかりと届いた。
「冒険者たちへの信頼と共に、私たちは困難に立ち向かい、再び明るい未来を築くことができるでしょう。絶望せず、共に希望を育みましょう」
リートは深く頭を下げる。
会場の国民達にどよめきが広がる。
手にかけたマイクを離し、スルヨはふっと笑う。
(俺の出る幕じゃなかったか)
吹き飛ばされた者たちは、自身の仲間や中級冒険者を信じ白金の竜に立ち向かうべく再び集合する。
何時から在るのか。何時からいるのか。何時までいるのか。
最強を殺した竜がいた。
その体に雷を纏い、まさに災厄の権化とも呼ぶべき竜。
その竜の前に人間が12人。
――お願いします。力を貸してください。
この世界の人間ではない死神の代行者が口を開いた。ただ一言。
最強を殺したドラゴンを倒したいと思います。
「当たり前だろジョー」
「わざわざ頭下げてお願いされることでもないって」
鶏肉とエニがジョーの肩や背中をバシバシ叩く。
ジョーの張りつめていた表情が緩む。
次第にジョーの背中が衝撃に耐えられず曲がる。
……叩きすぎじゃない?
「で、当然何か作戦はあるんだろ?」
ヴィントが前髪の隙間から翡翠の瞳を覗かせる。
ジョーはきょとんとする。
あ、これ作戦なんてないわ。
「まあ、でもよ?」
セリクは気怠そうな顔をしながらも口角を少し上げる。
「ここにいるメンバーで戦うんだろ? ――最強じゃん?」
その場にいる全員頷きふふっと笑顔が浮かぶ。
ノアは全員の顔を見渡し、ふぅーっと息を吐くとともに声をかける。
「それじゃあ行こう」
人間を舐めているのかその場から動こうとも、飛び立とうともせず、黒銀の死体の上に居座り続けている白金の竜に視線を向ける。
最強を殺したドラゴンを倒したい。
口で言うだけなら誰でもできる。
どんなに素晴らしい事でも、どんなに惨たらしい事でも、実際に行動しなければそれは、ただそう思ったというだけの事実の列挙でしかない。
今、12人の英傑が行動に移さんとする。
闘技場中央でマイクを構えるリートは思い出す。
なぜ歌手を目指したのかを。
自分は今までの人生、歌に救われてきた。
そっと背中を押して、手を引いてくれる歌に。
私も誰かの背中を押すような歌を歌いたくて歌手を目指したのだ。
1年前、王都の道の端で歌っているところを声がいいと声をかけられ、歌いたくもない変なラブソングを歌わされ、何が人気急上昇中だ。
私が歌いたいのはそんな歌じゃない!
リートは足を上げ地面を踏み鳴らす。
すると、疾走感あふれる音楽が響き渡る。
今この状況で私たちは冒険者達に護られている。
じゃあ、その冒険者達をいったい誰が護るんだ!
リートは頭の中で、即興で言葉を紡ぎ合わせ歌詞を生み出す。
この絶望の中にある細く頼りない希望。
その端くれを紡ぎ合わせて出来た歌。
聞こえてるかこの声が!!
ゆっくりとした曲調に変わり、リートは歌いだす。
これが勇気を与える私の剣だと――
気づいた人いるかな?
序章の一番最初と似せて書いた場所あるんです。
ちなみにリートは第一章エピローグ2でちらっと出てきてるんですよね。
次回山場です。
次回は作者が自分で考えた歌が登場します。
お楽しみに。
エピローグ含めてあと三話で終わります。




