第十九話 花畑にて疾風を 暗闇にて咆哮を
眠すぎてカクンカクンってなる頭でタイピングしてた。
更新です。
『さあ、昼休憩もはさんだ所で、準決勝からノンストップで決勝までやるから、観客のみんなはついて来いよぉ!』
『私もテンション上がってきました』
『そして、すべての試合が終わった後には歌姫によるスペシャルステージもあるから楽しみにしとけぇ!』
『よろしくお願いしますね♪』
『じゃあ、さっそく準決勝第一試合を始めるぞぉ! 選手の入場だぁ!』
前髪を揺らしゆらゆらと歩く猫背の男が入場してくる。
時折見せるその翡翠の瞳は闘志で満ちている。
『危なげない試合展開で準決勝まで勝ち上がってきたヴィントの入場だぁ! 決勝、いや優勝までそのまま突き進むのかぁ!?』
反対側のゲートから桃色の髪を揺らし、苦虫を噛み潰したような顔でエニが入場してくる。
エニ、めっちゃ嫌そう。
(あの人の魔法相性めっちゃ悪いし、勝てたとしても決勝多分ギルマスでしょ? ジョー君の言ってたことがほんとなら勝ち目無いよね?)
『そしてそして! エニ・クラシスが入ってきたぞぉ! まさに[森の魔女]の名にふさわしい魔法の数々。その魔法で決勝進出を決めるのかぁ!』
「よろしくな、魔女さん」
「うわあ!?」
エニは急に声をかけられ驚きのあまり叫ぶ。
ただ声をかけられただけではここまで驚かないだろう。
問題はその距離だ。
普通に会話が成立するような距離ではないのに耳元に声が聞こえたのだ、誰でも驚くだろう。
「ごめん、勝手に無口な人だと思ってたから話しかけられると思ってなくてびっくりしちゃった~。って私の声聞こえてる!?」
『それじゃあ行くぞ! 準決勝第一試合、試合開始ィ!』
「グロウアップ。魔食花ブレア!」
エニが試合開始と同時に魔食花を生み出す。
生み出された花々がヴィントに向かって動き出そうとしたが、その先にすでにヴィントの姿はない。
「非ず鳥の翼撃」
エニは声のした方を見上げる。
背中に翼を模した風を背負いヴィントが宙に浮いている。
そのまま放たれた突風が魔食花を粉々に吹き飛ばし、エニに向かう。
(飛ばれると私何もできないんだよね。あ~やんなっちゃう)
「グロウアップ。ブリングの大樹」
大樹を壁に突風をやり過ごし、イチかバチかの魔法を仕掛ける。
「森の嵐!」
魔食花の残骸や、大樹の葉や枝に魔力を込め宙に浮くヴィントへ向けて飛ばす。
「お前の魔法のすごい所を上げればキリがないだろう。でも俺は一言でそれを表せる」
――退屈。
「風域・嵐刃」
向かっていった葉や枝はヴィントに届くことなく霧散する。
そのままエニの周りを刃のような風が吹き荒れ、大樹が切り倒される。
切り倒された大樹はキラキラと魔力の光を残しながら消える。
(くっそ~、まるで通じないな~荊も届かないし)
エニが使える魔法の中に空中に対して通用するものはない。
ほぼ詰んでると言っても過言ではないだろう。
『エニ・クラシス防戦一方だ! さすがに飛ばれてると苦しいか!』
『風魔法はエニさんの天敵と言ってもいいでしょうね』
(もうこうなったら色仕掛けでも仕掛けてみるか~?)
「……魔女なら色じゃなく魔法を仕掛けろ」
「やば!声に出てた!」
ここで年頃の女の子なら口元をおさえキャッキャするところではあるが、エニはそのまま戦闘態勢に入る。
そこにはいたいけでかわいらしい女の子なんて存在しない、そこにいるのはただ一人の魔法使いである。
相性が悪いなんて試合が始まる前から知っていたことだ、そんなもの言い訳にはならない。
「秘密兵器出しちゃうよ~」
エニは今日初めて使う魔法を唱える。
「グロウアップ。皆尽草!」
絵本に登場する森の魔女の魔法を模倣していたエニだが、この魔法はエニのオリジナルである。
魔力量が人より少ないエニが考えたその魔法の能力とは……。
「森の嵐!」
闘技場一面に咲いた紫色の皆尽草に魔力を込めヴィントに向けて飛ばす。
「通じないのはさっき見ただろ……!?」
空を舞うヴィントだったが、急に脱力感に襲われる。
風の翼が維持できなくなり、ふらふらと地上に着地する。
「これは……俺の魔力を!?」
エニのオリジナルの魔法、皆尽草。
その魔法は対象本人の魔力を吸い上げる。
もともと魔力量の少ないエニが鶏肉に手合わせで勝つために編み出した技だ。
それでも鶏肉に勝つことは叶わなかったのだが、通常の魔力量の人間に対しては大打撃となる。
『す、すごいぞぉ! これが準決勝まで上がってきたやつらの戦いかぁ!』
『呼吸を忘れてしまいそうです』
『両者同時に動いたぞ!』
「グロウアップ。グツバミの荊!」
地面に降りたのなら荊が届く。
エニは残り少ない魔力で荊を生成し、ヴィントに向けて伸ばす。
「風域・嵐槍」
まるで槍のような風が生み出され、自身へと伸びてくる荊を貫き、そのままエニに向かって吹きすさぶ。
エニは魔力不足のためその風を受ける魔法も使えず、もう眼前まで迫った風を避けることすら叶わない。
(あ~、勝ちたかったな~)
エニは闘技場の壁まで吹き飛ばされ、そのまま意識を失う。
『け、決着ぅ! 激しい攻防を制し決勝進出を決めたのは[白疾風]ヴィント・ブリーズだぁ! 俺はぶっちゃけエニに勝ってほしかったぜぇ!』
おい実況がそんなこと言うな。
『エニさんもナイスファイトでした♪』
「……」
ヴィントはふらふら倒れそうになりながらゲートに戻る。
そして、ゲート付近で倒れてるエニだけに聞こえるように風で声を送る。
「……さすがは世界を救った魔女だ。もう少しあの花に魔力を吸われていたら結果は逆だった」
気を失っているエニには届かない声だが、心なしかエニが微笑んでるようにも見える。
『観客のみんなは叫びすぎて酸欠になるなよ? 俺スルヨも一試合目の興奮がいまだ冷めてないが、さっそく準決勝第二試合を始めるぞ! 選手の入場だぁ!』
夜のローブを揺らし、フードで顔を隠したままステラが現れる。
『きたきたきたぁ! いまだにどうやって勝ってきたか不明! [星詠み]ステラがきたぞ! 自分が勝つ未来を占ってきたかぁ!?』
「そんなの占ったら面白くないですよね」
フィクスが微笑みながら悠々と入場してくる。
「わかっますねギルマスさん」
「ええ、どちらが勝つかは時の運ですからね」
『きたぞ優勝候補! 師弟対決を制し、準決勝進出を決めたフィクス・ブライトだぁ! 英雄たちと共に世界を救った者の力が見られるかぁ!?』
「じゃあ、ステラさんよろしくお願いしますね」
そう言ってフィクスは開始位置に向かう。
ステラも軽くうなずき、開始位置に立ち、天を仰ぐ。
どうか自分に勝利を。
『よし行くぞ! 準決勝第二試合、試合開始ィ!』
刹那、闘技場が夜になる。
正確には闘技場全体が夜になっているわけでは無い。
観客からは黒い大きな半球のドームに選手が閉じ込められているように見えていて、中の様子が全く見えないのである。
ステラの魔法、夜。
自分の指定した範囲(制限あり)を決めその部分を疑似的な夜にすることによって、夜にしか使えない星魔法を行使する。
鶏肉をも超える魔力量における力技である。
夜が明ける。
『魔法が解除されたぞぉ! ……これはいったいどういうことだぁ!?』
『フィクスさんから出てるあの黒いモヤは何でしょうか?』
夜が明けると、黒いモヤを纏っているフィクスがおり、ステラは地に伏している。
『え……し、試合終了! まさかの試合開始わずか数分で決着! 決勝にコマを進めたのはフィクスだぁ! いくら救世主っていっても強すぎるだろ!?』
『フィクスさんも何か見せてない魔法がありそうですね。決勝でそれが見られることを期待しています』
「外から見たあのドームの中は夜だったんですね。すごい魔法でした」
【慈愛の恩寵】に運ばれていくステラを見送り、自然に沸き上がったフィクスコールの中ゲートに戻っていく。
「あの魔法いよいよ隠す気無いんじゃね?」
「あんなの使われたら勝てないですよね」
「でも、みんなはあれに勝ったんでしょ?」
「勝ったって言っても四対一でだよヒカリさん」
「一対一だったら全員負けてましたね」
「ふーん、そんなに強いんだ。優勝決まったみたいなもんだね」
試合に負けた英雄たちは観客席のヒカリと合流して、ただの観客の一人として試合を楽しんでいる。
『今日この時のために生きてきたといっても過言ではない! ついに今ここで! 新たなるフリードの最強が誕生するぞぉ!』
闘技場が震える大歓声が巻き起こり、ノアはとっさに耳をふさぐが意味を成さない。
鶏肉とエニは立ち上がり、ボルテージマックスの観客と同じように叫んでいる。
ジョーとヒカリはそれを若干引き気味に見ている。
エニなんて前の試合で気を失ってたのにしれっと復帰してるし……。
【慈愛の恩寵】がすごいのかエニがすごいのかわかんないな。
まあまあ落ち着いてよ鶏肉君、そんな目をギンギンさせないで、怖いから。
『じらすのはあんまり好きじゃないからさっそく始めちゃうぜぇ! 観客のみんなは瞬き厳禁だぞぉ! 最強の誕生を見逃すな!』
『わくわくしてきました♪』
『決勝戦! 選手入場だぁ!』
『準決勝では見事[森の魔女]を下し、決勝に上がってきた[白疾風]ヴィント・ブリーズがきたぞぉ! 今日、勝利の風を吹かすことができるのかぁ!?』
『まさに最強。まさに[不敵]。フリードの冒険者ギルドマスターにして、かの平和の象徴と肩を並べドラゴンという魔物と戦った救世主の一人、フィクス・ブライトだぁ! 決勝戦ではどんな魔法が飛び出すんだぁ!?』
ヴィントとフィクスが向き合い睨み合う。
いや、片方前髪で目が見えないし、片方微笑んでるだけだ、睨み合ってないわ。
「最強はもらうぞ救世主様」
「私も負けませんよ?」
『すでにお互いバチバチだぁ! 観客のテンションが爆発しそうだからさっそく始めちゃうぞぉ』
『お願いします♪』
『フリード最強決定戦決勝!!』
『試合開始ィ!』
治療を受けたステラは一人決闘都市シュテルクストの南側の壁の上に立っている。
闘技場の歓声が遠く聞こえる。
どうやら試合が始まったらしい。
「私の占いって当たっちゃうんですね。これから起こる出来事の結末は……占わないでおきましょう。未来は不鮮明で、それを決める権利は私たちにありますもんね」
ステラはフードを外し、空を見上げる。
――もうすぐ日が暮れる。
次回二章最終話。
その次最終章入ります
最終章のタイトルは[螺旋の時代]で行こうと思ってます
パパっと進んでるけど、、試合と試合の間は試合会場整備とか【慈愛の恩寵】による選手の最終確認とかいろいろやってるから結構時間空いてる。
ステラは夜を発動した瞬間、禍々しい爪に襲われた。ドラゴンは夜目がきくのさ。




