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ねちっこい一目惚れ。

「あの!……すみません。静かにして貰えませんか?! 煩くすると、食人鬼が来ちゃうんで……」

 うちは囁き声で、焦って注意する。食人鬼かと思って恐れていた今さっきの声は、この人の声だったみたい。


「ああぁすまん! でもよぉ踏んじまったんだよ……犬のうんこを!! って、食人鬼とはぁなんだ?」

「えっと……人を食べる化け物です。音を立てたら来るので、気をつけてくださいね」

 そう告げて、うちは立ち去ろうとする。


「お、おう。……なぁお嬢さん! ちょっともっかい、こっち来てくれないかい? ここの、明かりのある所まで」

 男性のいる街灯の下へ、来るように言われたうちは、めちゃくちゃ警戒してその理由を尋ねる。

「別にやましい事するわけじゃないぜ。ただひとつ、気になったことがあってな。少し顔を見せて欲しいんだよ」


 これは、逃げなきゃだ! 絶対にやばい人だと思ったうちは、言葉を返さずにすぐさま歩き始めた。

「わ、分かった分かった! ホントのこと言う、言うからよぉぉ!! 俺、今の一瞬で、お嬢さんの顔に惚れちまった気がするんだ。それで確認したいと思った。俺がマジに、一目惚れしちまったかどうかをな!!」


 ……ぇ、え?! そんなこと言われても余計に……いや、分からないけど。も、もういいや。さっさと帰ろう。寒いし、色々と怖いし。

 うちは元いた道に戻って、また歩き始めようとした。けどすぐに引き返して、男性のところに戻る。

 ぬか喜びする男性に、うちは「黙って!」と小さな声で怒鳴って、街灯の下に身を潜めた。

「あなたの為じゃない!……すぐそこにいたのよ、食人鬼が。もう少しでこっちに来る。だから静かにして!」

「え、あ、お、おけぇ……よく分からんが」


 うちの家がある方向、帰るためには通らなきゃいけない道の奥に、薄ら影が見えたの。明らかに人間じゃない生き物が……こっちに向かってやって来ていた。

 うちは男性と2人で静かに、街灯の下に佇んでる。食人鬼は光に弱い、ここにいれば襲われないはず。


「お嬢さん……やっぱめっちゃ綺麗だなぁ」

 男性は横で、うちをチラチラ見ながらボソッと呟いた。

「あ、ありがとう、ございます。でも、今は黙って」



 ──数分経過。未だに食人鬼は来ないし、来る気配もない。おかしいな……結局、別のところに行ったのかな?

 見ず知らずの人と、街灯の下で2人っきり。異様な空気が漂ってて、かなり変な状況……はやく帰りたい。


「なぁどこの学生なんだ?」

「"明景高等(めいけいこうとう)学校(がっこう)"、ですね」

「まぁまぁエリートだなぁ。知り合いに卒業生いるわ」

「そうなんですね」


「名前なんていうんだ?」

「西園岬祈ですね」

「岬祈さんか。綺麗な名前だなぁ、容姿に合ってるよ」

「そういうこと聞いて、どうするんですか? 生憎うちは男性に興味ないので。この場限りの関係です」


 男性はため息混じりで、「勿体ないなぁ」と吐き捨てて、再び沈黙した。容姿を褒められても困るのよ。別に努力して手に入れた訳でもなければ、誇ってる訳でもないし。

 惚れたと言われても、うちは何にも感じないから。


 ……もうそろそろ大丈夫かな? 食人鬼、遠くへ行ってくれてたらいいけど……これ以上、ここに居るべきじゃない。

 うちは、今度こそ帰ると男性に告げて、さよならをした。流石にもう引き留めようとはしてこないみたい。



 喋ってみて、意外と悪い人ではなかったように感じた。結構、純粋な人なのかも。変に包み隠さず、素直に気持ちを伝えてくる人は、割と嫌いじゃない。

 と思い馳せながら、帰り道を歩いているけど、今後関わることなんてないだろうし、思考の無駄遣いかな。


「おおぉぉぉぉおおい!!!!」

 って……また!? 背後からあの人の叫び声が聞こえた。いい加減やめて欲しいんだけど。

 てか、大きな声は駄目だって! はぁ……。

「執拗い!! もう纏わり付かないでよ!!」

「俺いま逃げてんだぁ!! 変なやつからぁ!!」


 え? ま、まさか……食人鬼? うちは目を凝らして、男性の後ろを確認してみる。

 確かに、何か生き物がいるみたいだけど。食人鬼じゃない……だってうちが遭遇したやつに比べると、だいぶ小さいから。男性と同じくらいの身長だもん。


 うちは咄嗟に、男性を無視して走り始めた。追いつかれないように、必死に必死に。足は速くないから、すぐに追いつかれそうだけど。家もすぐそこだから急げうち……!


 ……少しすると男性とは並走になって、そのまま家に着いたうちは颯爽と玄関を開けて中に入った。勢いでつい、男性も一緒に入れてあげると、玄関の鍵をしっかりとかけて何かから逃げきった。



 うちと男性は、玄関に倒れ込むようにして呼吸を整える。すると音を聞いて駆けつけてきたママが慌てふためく。

「え、なになに?! どうしたの!……み、岬祈ちゃん!! その人は、どなた?……え、えぇ?」

 うち今日、めっちゃ運動してるわ……。こんなに体動かしたの、いつぶりだろう。清々しいまで、ある。


「ぐはぁ……あ、あれが食人鬼とかいうやつなのか?」

「い、いや、違うと思う……うちが見たのは、もっとでかかった! あんなに小さくない!」

「じゃぁ……あれは一体なんなんだ?!」

「わ、分からないよ!!」

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