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共食いの鬼。

 うちは体調不良により今日、学校を休むことにした。

 体調不良は、風邪とかそういうんじゃないけど、あまりにも辛い。考えたくないのに、昨日の、最悪の光景がフラッシュバックする。男性を食べた、あの化け物の姿が……。

 化け物は、自分を人間といっていた……ただ、明らかに人間の姿をしてなかったし、人間が人間を食べるなんて……聞いたことない上に、気持ち悪すぎる。


 ……怖いけど、ちょっと、調べてみようかな。


 うちは部屋でパソコンを開いて、検索した。『人間が人間を食べる』って……結果、"食人鬼"と出てきた。

 ────食人鬼とは、人肉を食らう化け物や悪魔。カニバリズムを行う人間。人喰い人種など……。


 いるには、いるみたいね……人間を食べる人間。ただ、詳しく調べてみると、共食い……つまり人間が人肉を食べちゃうと『プリオン病』って病気にかかって、1年から2年で、確実に死んじゃうみたい。

 だから、昨日の化け物が本当に人間だったとしたら、1年や2年もすれば、勝手に死ん……でもやっぱり、あれは、どう考えても人間じゃなかった。


 自然に消滅してくれって期待しても、だめかな……。


 あれ? うち、生き残る希望、探してた。食人鬼に殺されたくないって、そう思ってる──。

 いや、当たり前だよ、ね。だって昨日だけでも東京で、何人も食人鬼に襲われてて……それがまだこの町、日陰にいるかもって考えたら、流石に怖い。


 ……怖いんだよ、すごく。だから、なんか嬉しいな。恐怖を感じて、まだ生きたいって思えてる。……これが、生きてる実感だったりするのかな?


 死にたくないという、ドキドキする気持ち。良き。

 ん? うちまた、楽しんでる……。やっぱり、今までこんな経験してこなかったから、だいぶ興奮してるみたい。

 怖いのに楽しいって、変なの。イカれてるぜ。



「岬祈ちゃん! りんご切ったけど、食べられるかな?」

 静かだった部屋にノックの音が響いて、ママの声がした。うちは、ドアを開けて部屋に入れてあげる。

「りんご食べられる? どう? 体調どう? 大丈夫?」

「う、うん。食べる、食べる。ありがとうママ」

 心配かけちゃってる……ごめんね、ママ。説明してあげたい……でも、なんて言えばいいのか。


「無理に喋らなくても大丈夫だからね! 落ち着いた時、話したいと思った時に、いつでも聞いてあげるから!」

 うちが顰めた表情をしたせいで、察してもらっちゃった。ただ……ママにも教えてあげないと。あの、食人鬼の存在を。ママだって、外出したら遭遇するかもしれない。

 その時に、うちが教えなかったせいで、ママにもしもの事があったら……うちは絶対に後悔するし、死にたくなる。


 だから、声を振り絞ろう────


「ねぇママ……岬祈さ、変なの見ちゃったんだ」

 不思議そうな顔をして、何?と聞いてくれるママ。

「朝テレビで、熊に襲われたってニュース、やってたの覚えてる? あれ、熊じゃなくて……化け物なの。岬祈の前で人を食べてて、すごく怖かった」


 目を見開いて、驚いてるママ。流石に話を聞いただけじゃ、信じられないよね。うちだってそうなるもん。百聞は一見にしかず、ってこと、分かってる。

 でも、この事だけは、伝えておきたい。



「もし、それに出会ったりしたら、なんでもいいから眩しい光を浴びせて。そしたら弱るから、いい? あと、目が見えなくて音に敏感だったから、それも気をつけて欲しい」

 あまりのガチトーンに、ママは、うちが巫山戯てるとは思わなかったみたい。信じてくれた。それどころか、思い当たる節があると言って、新しい情報すらくれた。


「ママ昨日ね、都会方面に出かけてたんだけど、その時に、こっそり聞いちゃったの。警察官2人が、『早く捕まえないと、人が、みんな食われちまう』って」

「やっぱり……いるんだ」

 ただ、警察も食人鬼を知ってて、そのうえ探してるんだったら、早いうちに捕獲されるよね。

 ならうちは、そんなに怖がらなくても大丈夫じゃん。遭遇しちゃっても、警察に通報すればいいし。


「よ、よかったぁ……」

 うちは恐怖から解放されて、一気に脱力した。まだ解決したわけじゃないけど、ひとまず安心。

「ママ、心配かけてごめんね。警察がそう言ってたなら、大丈夫かも。あ、けど……もし化け物に出会ったら、さっき教えた通りにしてね。眩しい光と、音だよ!」

 ママは首を縦に振り、うちの教えを呑み込んだ。



 ──また、部屋で1人になった。りんごを貪る。


 あっ、そういえば……撮ってたんだった。……化け物の写真。ど、どうしよう、見てみる? いや!……辞めとこ。せっかく体調よくなってきたのに、またぶり返しちゃう。


 うちはスマホを手に取り、撮った写真を確認しようとしたけど、躊躇って結局みなかった。

 で、そのまま布団に潜って、寝ようとする。


 ん? 足音……扉の前に、誰かいる? 多分、ママなんだろうけど……なんで入ってこないんだろう?

 うちは布団から出て、扉を開けた。ママがいる。


「ま、ママ?……どうしたの?」

「あら、ごめんね。えっと、ちょっと言い忘れてたことがあって、言ってあげた方がいいのか、迷ってたの……」

 なんだろう?……うちは、その内容を尋ねる。

「実は、確かに警察官は、ああは言ってたんだけどね。ただ、化け物とかじゃなくて……人のことっぽかったのよ。ちゃんと名前もあったみたいだし、一家の息子とも。"人間の共食い"って言葉が、すごく印象的で覚えてたの」


 人間の共食い……うちが遭遇した食人鬼は、どう考えても人間の姿をしてなかった。反対に、うちの理解できる言葉を使って、自分で自分のことを人間といってた。

 もう一旦、仮定しておかないと気持ちが安定しない。あの食人鬼は、人間である──と、決め込もう。ただ人間でありながら……何故、姿は、あんな風に?……。

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