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人食らう、人ならざるもの?

 何かに噛み付かれた男性は、地面に這いつくばって、皮膚がえぐれた惨たらしい顔で、うちに助けを求めてる。

 ただすぐに足を持たれた男性は、股を割かれて……腕を、もがれ、首をちぎられた……バラバラにした男性の身体を、黙々と食べ始めた化け物に、うちは怯えて固まった。


 何が起きてるのか、全然わからない。さっきまで会話をしていたはずの男性が食べられてる。……食べられてる?! 人が!? な、なんで?……これは本当に現実なの?

 うっ……酷い匂い……目の前に、びちゃびちゃの血に浸った、臓物が散らばってる……耐えられない。

 逃げたいのに、体が言うことを聞かない。うちは見たくもない化け物の姿を、ずっと目で捉えてる。あれは何、熊? でも手足が長くて……例えるなら、猿。


 っ!?……う、うち、無意識に息を止めてた。いきなり苦しくなって、咄嗟に息をたくさん吸い込んだ。

 え、なに急に……化け物が、今さらうちの存在に気づいた、みたいなリアクションをした……ただ、頭をぐるぐる回してて、まだうちの居場所を確認してる? もしかして、目が見えないの? 呼吸をしたタイミングで、うちに気づいたってことはつまり、音に反応してるのね……この化け物は。


 化け物が、男性の身体を食べ終えた雰囲気を出し始めて、ようやくうちの体は動いた。次はうちが食べられる番だという恐怖が、勝手に体を動かした。

 ほんの些細な、うちの呼吸の音を辿って、化け物がゆっくりと近寄ってくる……足音なんか立てたら、すぐに襲われて、うちもあの人みたいに食べられちゃう……。

 でも、はやく逃げたい……ど、どうしようどうしよう……まだ、死にたくない……!!


 ────そ、そうだ。化け物は、音で動く……なら。


 うちはゆっくり屈んで、地面に落ちてた石を拾い、化け物の後ろの方、目掛けて投げた。

 化け物は猿のような低姿勢で、石はその頭上を越す。

 石が音を立てて地面に転がると、化け物は背後に振り返って、うちのいる方とは真逆に行った。

 これでもう歩く足音くらいじゃ、気づかれないくらいの距離感になったと思う。本当に少しずつ、後ろに、つまり来た道を戻っていけば、化け物からは逃げられる。


 なのにうちは、何故か……バッグからスマホを取り出して、化け物を正面から写真に収めたくなった。

 この命すら危うい状況を、ちょっとだけ楽しんでいる自分に、うちは驚いてる。初めて人の死を目撃して、狂っちゃったのかな?……吐き気がする。


「ねぇ!!……ハイ、チーズ!!」

 声に反応して、化け物がこっちを向いた瞬間に、うちはハイチーズとシャッターを切った。そしてすぐに走って逃げようとした、けど、うちは逃げなかった。


 てのも、化け物がフラッシュを浴びると、ただ眩しかっただけとは思えないくらい、大袈裟に怯んだから。悶え苦しんで、じたばたしてる。

 もしかして化け物は、光に弱いの? 目が悪いのも関係してるのかな? なら、おかわりでもう1枚。

 うちは計2枚の写真を撮って、急いで逃げようとする。


「……お"い"ッ!! ふざけんじゃねぇよ!!」

 ────え? なに……喋れるの?! 化け物の言葉が、理解できる……。ドスの効いた声で、かなり聞こえづらい。

「俺がなにした!!……お前らと同じ、"人間"なのに」

 に、人間?……へ?

「どうして陰に追いやられないといけないんだよ!!」

「わ、わからない……う、うちには、なにも!」


 うちは、すぐに逃げた。意味のわからない恐怖に怯えて、死に物狂いで走った。

 信じられない……あれは、あの化け物は、じ、自分を……人間だといっていた。人間を、食べてたのに……。



 家に帰ってきて早々、トイレに駆け込み、ゲロったうち。気持ち悪すぎて、もうほんと……やばい。

 あまりの顔面蒼白っぷりに、パパとママが心配してくれるけど、うちは「全然大丈夫」と言った。だって説明しても、信じて貰えるわけない。てか、うちもまだ、信じてない……信じたくも、ないし。


 今日は結局このまま、ご飯も食べずに部屋で寝た。


 ──おい!! ふざけんじゃねぇよ!! 俺がなにした!!……お前らと同じ、人間なのに。どうして陰に追いやられないといけないんだよ!! 次は、俺が……何もかも奪ってやる……!!


 目を瞑ると、あの光景がフラッシュバックして……化け物の言葉が、ずっと脳内に再生される。

 実際には聞いてない言葉も、勝手に作り上げて。まるで呪われちゃったかのように、幻聴が聞こえ始めた。

 気づくと、次の日の朝。つ……辛い。


 階段をゆっくりと降りて、パパとママに「おはよう」と顔を合わせる。な、なんか……気まずいんだけど、なんで?

 朝食が置かれた食卓。うちは何も言わずに、パパの隣に座った。昨日のうちは、明らかに様子がおかしかったはず。なのに、何も聞いてこない……気を遣ってくれてるのかな?


 吐かないか不安を抱きながら、恐る恐る食パンを1口含む。一瞬、吐き出しそうになったけど、無理やり喉を通した。美味しい……昨日の地獄が、掻き消されていく。

 黙々と食パンを食べ進める。


 テレビで、朝のニュースがやってた。

 うちは特に気にせず見てて、気づけばゲロってた。


 だってニュースで、昨日のあの場所が映ったから。化け物が、男性を食べたあの場所。ニュースの内容は、熊に襲われて死んじゃった人たち、だって。

 違う、熊じゃない……あれは、どう考えても……。

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