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あの頃、道玄坂で  作者: ちかな
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303号室

 ガタついているエレベータに乗り、鍵に書かれている303号室に向かう。

部屋に着くとそこは、まるで昭和時代にタイムスリップでもしたかのような佇まいだった。無駄な物は一切置いてなくて、なんだか実家のような安心感があった。お風呂の中は、見たことのないくらいの全面、オレンジ色の綺麗なタイルが敷き詰められていて、そこもまたかなり昭和を感じた。この中でえっちな事をしようと思うカップルは相当イカれたやつらだなと思った。


「そういえば何か買ってくれば良かったね」

「確かに」


寒さと眠気優先でそそくさと中に入ってしまったので、飲み物だとかを買ってくるのを忘れてしまった。

なんせ、まだのみ足りない私たちだ。

普通のラブホテルだと、備え付けの冷蔵庫に購入できるお酒やら色んなものがあるのだけれど、このホテルにそんなものがあるわけでもなく、なんなら冷蔵庫が正常に機能しているのかさえ分からなかった。

ラブホテルだと、一度入ってしまったら再度出入り出来ない所もあったりするので、やってしまったと思った。

恐る恐るフロントに行き、「青木さん〜、あの〜」と、話しかけ、説明した。

青木さんは「全然いいよ!寒いからあったかくしていきなね!あ、でも鍵だけはここで一旦預かるわね」と言って、快く外出を許可してくれたので私たちは調子が良さそうに「ありがとうございます!行ってきます〜」と言って、近くのコンビニに向かった。


深夜のコンビニって、無条件にテンションが上がる。つい、買いすぎてしまうようなテンション。

一通り、自分たちのお酒を買った後で、青木さん、何か食べるかな、という話になって、2人で青木さん用のピノを買って帰った。


「ただいま〜」と言って、ピノを手渡すと、青木さんは「あらやだ!良いいのにそんなお気遣い〜」と言って非常に嬉しそうに受け取ってくれた。

すると、「あ、ちょっと待っててね」と言って奥から何やら持ってこようとしていた。

フロントからわざわざ外側にまわってくれて渡されたのは、きっと部屋の忘れ物だろう、レモンサワーの6%の缶だった。それもなんと、3缶も。

「残り物なんだけど、良かったらどうぞ〜」と、ニコニコ笑顔で渡されたので、私達はその笑顔に応え、受け取った。

受け取る際、さっきコンビニで買ったお酒たちが入っているビニール袋を見ながら、「こんなにのめるかな」と思った。彼と目があい、私たちは笑った。きっと彼も同じこと思っていたのだろう。

青木さんと今度こそ、おやすみなさいを言い合って、部屋に向かった。

エレベーターが閉まるやいなや、私は「こんなに貰うことが分かっていたのなら、青木さんにピノだけ渡して、他のお酒たちは買わなきゃよかったね」と、笑いながら彼に言うと、「あげるからもらえるなんて思っちゃダメよ〜」と、ふざけながらおばさん口調で彼は言った。

「そうね〜」と、続けて私も言って、二人で笑い合った。


ようやく部屋についた。

とりあえず、交互にシャワーを軽く浴びて、ほぼ朝の4時に「3次会!」と言って乾杯した。


 私は、いつも必ず一冊、本を持ち歩いていて、ちょうどその日持ってきていた本の題名に、「明け方」と「若者」というワードが入っていた。

彼は、私のバックからチラリと見えたその題名を見てから、ほぼ色づき始めた空を見て「俺らの本?」と笑いながら言った。私は、ハッとして本を取り出し、「あ、これ?確かに、明け方の若者たちだね、今まさに」と続けた。

レトロなガラステーブルの上には、さっきコンビニで買ってきた使い捨てのコンタクトケースと、緑茶ハイ、6%のレモンサワー3缶と、起きてから飲む用の青さの味噌汁、愛読本と、ホテルペリカン303の鍵。

大きくもないそのテーブルの上はぐちゃぐちゃして見えた。そこに、段々と朝の日差しが差し込み始めていて、なんとも言えない感情になった....






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