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「セレナ。また、マルク様のところへ行っていたの?」


 母が帰ってきたセレナに言った。


「うん。あの、すこし悲しいことがあって」

「どんな?」

「お父様が、マルクとの婚約をなかったことにするというの」


 母は驚いた様子で目を丸くすると、悲しそうに眉をひそめた。


「嫌っていったのよ。でも聞いてくださらなくて」

「そう。……でもね。お父様はセレナのことを思っていらっしゃるのよ」

「だったら、マルクとの婚約を解消するなんておっしゃらないわ」

「セレナ……」

「マルクからは少し時間をおいてからお父様と話したほうがいいと言われたの! だからそうするつもりよ」


 幼げな表情でセレナは笑った。

 母はそんなセレナをみて、やはり悲しそうな表情をしていた。






 マルクの実家からマルクの父母がやってきたのはそれから数日後のことだった。

 もちろんマルクも一緒で、セレナは喜んだ。


「マルク! 来てくれたのね!」

「うん。すぐ会えたね」

「ええ! 嬉しいわっ」


 セレナは自分とほとんど変わらない背丈のマルクの手を取った。マルクもうれしそうに笑う。


 そんなセレナを、セレナの父と母が諌める。


「待ちなさい。大事なお話があるのよ」

「大事な?」



「婚約の件で………」


 セレナは顔色を変えた。


「マルクのお父様もそんなことを仰るの!?」


「セレナ」


 父が今度は囁くようにセレナに話しかける。


「マルクくんとの婚約はすでに破棄されているんだよ。だからもうどうしようもないんだ。お前がそれを拒むから、来てくださったんだ」

「変よ! だって昨日聞いたばかりよ!?」

「いいや、もっと前にも何度も言ったはずだよ」

「聞いてないわ!」


 セレナは首を降る。


「ねぇ、おかしいわよね、マルク!」


 話しかければマルクは優しく笑うのみ。


「……マルクはなんと言っているんですか?」


 マルクの母がセレナに言った。

 セレナは思わず眉をひそめる。


「何をって……今は何も……でも! ねぇマルク! マルクからも何か言ってよ!」


 マルクは何も話さない。

 昔から変わらない優しく幼い顔立ちのまま、穏やかに笑うのみだ。

 どうしてマルクは無言なのだろう。

 セレナとの婚約破棄をなんとも思ってないのだろうか。どちらの両親もなぜこちらの言葉を聞いてくれないのだろう。


「みんな変よ。私たちは愛し合ってるのよ! ずっと一緒なの!」


 マルクは穏やかに笑みを深くする。


「ずっといっしょだよ」


 マルクが言った。


「マルクだってこう言ってるじゃない!」


「マルクくんは、何も言わないよ」


「やめてよ! 変なこと言わないで!」


 セレナの叫びはどんどん高くなっていき、とうとう涙を流した。

 おかしい。おかしい。と嘆く。

 その姿に、マルクの母が涙ぐんでいた。セレナの母もだ。


 セレナは混乱する。

 何が起きているのかわからない。


 セレナはマルクの手を取ると、バッと走り出した。


「セレナ!」


 呼ぶ声を振り払って走った。











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