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友達と一緒に異世界転生したら、俺だけ30年後の未来でした。 ~伝説の勇者と魔法使いは親友で、魔王は討伐されている!?~  作者: 菊池 快晴@書籍化決定
クルムロフ城

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第91話:交わらない想い

 ヴェルネルが生きていたことに、アイレとフェアは、ほっと胸を撫で下ろした。つい最近までは殺したい、殺さないといけないと考えていたはずなのに

 感情はこうも簡単に変化してしまう。これが正しいのか、間違っているのかはわからなかった。


 だが、グレースは違った。まだ恨みの目でヴェルネルを睨んでいる。復讐の呪いの連鎖は、断ち切れない。


「はぁはぁ……」


 ヴェルネルが、肩で息をしながら剣の重みで腕がぐったりと垂れる。魔力がもう残り少なくなっている上に、カルムを倒すのにかなり費やしてしまった。

 このままでは、レムリを助ける前に死んでしまうかもしれない。そんなことを予感させるほど、魔力が微々たるものになっていた。


 アイとレッグは、足元を氷漬けにされていたが、特にそれに対して何かわめくこともなく、カルムが殺される瞬間を眺めていた。


 アイレが今まで見てきた印象としては、カルムに対してなんの思い入れもなさそうだと感じていた。どちらかというと、命令されるから仕方なくといった様子で、違和感を感じざるおえなかった。 魔法使いたちは、糸が切れたかのようにその場でぐったりと倒れた。これが、死霊使ネクロマンサーいの能力なのかわからないが、死体をもてあぶ卑劣な行為には違いない。


 アイレが、二人に顔を向けてから、


「アイ、レッグ、お前らは……ほんとうにフェローのことを知らないのか?」


 ふたたび、同じ質問をした。この二人が、そんなに悪いようには見えなかった。


「フェロー……」

「知らないっていってるだろ、お前もしつこいな」


 レッグは怒っていたが、アイは違う感情を現した。淡々と無感情だった顔に少し変化を見せ、下を向いて考えこんでいる。


「アイレくん、シンドラの行方は? それに、フェローさんとクリアさんから何かありましたか?」

「いや、まだ何も手がかりは掴めていない」


 フェアは、すぐヴェルネルの身体を支えるために走っていた。龍でえぐられたはずの肩は何もダメージを受けていない。


「本当に、ここに、シンドラはいるのか?」


 アイレがヴェルネルに視線を変えた。


「それは間違いない。感知が使えれば……」


 全員の頭の中に、フェローとクリアのことが浮かぶ。

 そして、レッグはタメ息をつきながら、考えこんでいるアイをチラリと見てから視線を変えて、


「……そのフェローってのは俺たちの知り合いなのか?」


 先ほどまでとは違う、丁寧な物言いで質問をした。アイレは不思議そうに、


「そうだ。というか、記憶を失ってるのか? フェローはお前たちのことを嬉しそうに語っていたぞ」


 アイレの言う通り、あの後、フェローは珍しく饒舌じょうせつに過去の話しをした。あんな笑顔は、今までみたことがないとクリアも話していた。

 仲間というのはいいもんだな、とぼそっと言った言葉が頭に残っている。


「……オレたち、昔の記憶がすっぽり抜けてるんだ。俺ともう一人アームっているんだが、アイはもっとひどい。自分の名前も時々忘れるんだよ」


 突然に、どこか性格が変わったかのように丁寧に話しはじめた。もしかして、カルムを殺したことが関係しているのかもしれない。


「会えば……何か思い出すかもしれない。俺とアイをフェローに会わせてくれないか?」


 どこかしおらし気にレッグは言った。グレースが怪訝けげんそうな顔をしていたが、インザームが、


「ふむ……。まぁよいじゃろう、じゃがワシたちはお前たちを信用しておらぬ。レムリをルチルを誘拐したのはそちらじゃろう?」

「いや……。俺たちは命令されていただけだ。うまく説明は出来ないけど……、頭の中でカルムの声が響くんだ。それで動いていたような……気がする」


 その言葉に補足するように、ヴェルネルが口を開いた。フェアが身体を支えてくれている。


死霊使ネクロマンサーいは、文字通り死人を操ることができる。おそらく、その可能性はあるだろう」


 死人、自分たちに向けられた言葉に気づいて、レッグとアイが表情を曇らせる。何か事情がありそうだと、アイレもインザームに同意して、


「わかった。なら、そのアームってやつにも話を聞いた上で、フェローたちと合流しよう。ここの感知を遮ってる魔法具があるはずだが、場所わかるか?」


 するとここで、ようやくアイが口を開いて、


「……屋上、城のてっぺんに設置してたはずだよ」


 小さな声で、淡々と答えた。やはりアイも少し変わった気がする。感情の変化が乏しいのは、記憶がないと言っていたレッグの言葉と関係があるかもしれない。


「なら、俺たちもそこに向かおう、アイ、レッグ、何か変なことをしたら、容赦なく殺す」


 少しだけぶっきらぼうに、アイレは冷徹に注意した。もう仲間が殺されるのは見たくない。

 二人は頷くと、アズライトが脚を封じ込めていた氷だけを破壊した。

 グレースはやはり不機嫌なままで、納得していないようだったが、渋々了解してくれた。


 そしてアイレたちは、フェローたちを探しに、上に続く階段を探して走り出した。



 しかし、フェローたちはすでに城のてっぺん付近にたどり着いていた。城の瓦のような、少し平坦な場所で、二人の男と対峙している。


 一人は、アイレたちもよく知る人物。シェル。 フェローとクリアはその姿を見るやいなや、複雑な感情を抱いた。

 もう一人は、アイとレッグの仲間である、アームという少年。フェローの元戦友だが、やはりそれは覚えてない様子。


「シェル……」


 クリアが立っているその場所はとても高く、数メートル先を歩けば落下して死ぬ。その前には、シェルが立っている。

 その横でフェローもアームと対峙していて、少しだけ会話したが記憶はなく、お互いに戦闘態勢を取った。


「クリア、すまない。僕は……君を傷つけるつもりはなかった」


 シェルの言葉が、クリアの心を揺れ動かす。それならいっそ、ぶっきらぼうに冷たくしてくれるほうが、気持ちを切り替えることができた。

 そして、


「罠のことも、僕は知らなかったんだ。ただあそこで時間を稼いで、レムリさんを……誘拐しようとした。リンさんを殺したのも、ルチルを誘拐したのも、僕は……したくなかった」


 そのまま少しシェルは黙った。おそらく本当は本位ではなかったかもしれないが、事実は変わらない。


「だけど、僕はアクアを生き返らせたい。わかってくれとは言わないが、そのために全力を尽くすつもりだ」

「シェル……。私は、あなたを許さない。絶対にその行動は間違ってる。アクアさんが喜ぶはずがない」


 クリアは覚悟を決めて、魔法の杖をぎゅっと握りしめた。その横で、フェローが二人のやり取りを黙って見ていた。


「おーい! 俺のこと見えてるか?」


 赤髪の短髪、いかにも活発そうな声で、フェローの視線を集めるために手をぶんぶんと振る。レッグと比べても、少しだけ子供っぽく見える。

 しかしその姿は、フェローが知っているアームそのままで、昔からこうやって元気で皆に笑いを与えてくれた。過酷な環境の中でも、アームは皆の士気をあげてくれる人物だった。


「……お前、覚えてないのか?」

「はぁ? だから、さっきから何の話だ?」


 とぼけてるといった様子ではなく、本当に知らないといった呆れ顔だった。

 フェローもそれに驚くことはなく、こんなこともあるかもしれないと少しは想定していた。それに、戦う覚悟も決意も、はじめから持ち合わせている。


「なら、余計なことはもういいな、そこの魔法具に用がある。シンドラのお使いと話してる時間はねえ」


 フェローの視線の先には、少しだけ大きな蒼い宝石なものが先端についた、砂時計のようなものが置いてあった。おそらくアレが魔法具。


「はっ、まさか城の外を登ってくる奴がいるとはなぁ、シェルが想像した通りだぜ」


 アームは嬉しそうに笑って、腕をぶんぶんと振り回した。その魔力は計り知れない。


「無駄口を叩くのは昔から変わらないな」

「だから、知らねぇっつてんだろ――」


 アームは、危険な足場をものともせず、フェローに突進した。

 そして、その隣で、


「シェル、私はあなたを倒す。絶対に間違ってる」

「すまない、クリア。僕も、自分のために戦う」


 二人も、覚悟と決意を決めた。





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