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友達と一緒に異世界転生したら、俺だけ30年後の未来でした。 ~伝説の勇者と魔法使いは親友で、魔王は討伐されている!?~  作者: 菊池 快晴@書籍化決定
クルムロフ城

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第87話:再び

 螺旋階段が崩れ落ちた衝撃で、外にいたクリアが足を踏み外した。もの凄い轟音も同時に鳴り響く。


「ったく……。もっと筋肉をつけろって言っただろ」


 その瞬間フェローが、鞭でクリアの身体を受け止めると、皮肉まじりに呆れた様子を見せる。


「す、すいません……。死ぬかと思った……」

「油断するなよ。恐らく何かの罠だ」

「は、はい!」


 クリアは下をチラリとみて、身体を震え上がらせながら何とか外壁に手を伸ばすと、そのまま足を引っかけた。ボロボロと崩れ落ちる足場に戸惑いながらも、ふたたび自分の力で壁を登りはじめる。背負った魔法の杖が、いつもより重くのしかかり、いつもより憎い。

 段々と太陽に近づいているせいか、ひたいに汗が流れて顔にぽたぽたと落ちてくる。クリアは城のてっぺんを目指しながら、シェルを見つけた場合、自分はどう行動したらいいのかずっと悩んでいた。


 地面から魔法陣が浮かび上がり、魔物に殺されかけたあの夜。事実、数名の兵士と冒険者は、シェルの罠によって殺されている。さらにはレムリとルチルの誘拐、リンの死因もその結果だと言わざるを得ない。 アイレは「シェルも無事に助け出す」と言った。しかしそれに対して、師匠であるフェローは一言も発していない。冒険者としての誇りを大切にしろ、弱気者を助けろ、間違ったことはするな、それがフェローの教えで、シェルとクリアは口酸っぱく教えられてきた。


 どんなにつらい修行でも、お互いを励まし合うことで耐え抜いた。自分の力の無さが原因で、人が殺されてしまったときも、シェルは優しくクリアに寄り添った。

 しかし、そんな心の強いシェルでさえ、アクアが死んだことをずっと乗り越えられないでいた。

 時折、深夜抜け出しては、剣を振りながら涙を流している姿を何度も目撃したことがある。アクアの話しをするたびに、顔や心が曇っていることがそれを物語っていた。


 シンドラが蘇生魔法をチラつかせたとしたら、そんな卑怯なことをしたあいつを絶対に許さない。しかしシェルがもし自分の前に立ちはだかってしまえば、どうしたらいいかはまだわからない。 フェローがもしシェルを殺そうとしたら、自分は? それに従うのか? それとも……。


「……ばかシェル」


 答えはその時になってみないとわからない。それだけを決意すると、一心不乱に登り続けた。


 ――――

 ――

 ―


 同時刻、城の最奥にある広場へ向かっていたアイレたちの耳にも、螺旋階段の轟音が届く。それが何を意味しているのかわからず、不安な表情を浮かべる。


「この音……地下か?」


 周囲の警戒を怠らないようにしながらも、アイレは地面を眺めた。


「……わからない」


 いくつもの小道や回廊を抜けて、沢山の小部屋の横を通りながら最奥の道へ向かっている途中でアイレが叫んだ。


「それにしても広すぎるだろここは!」

「この城は元々、修道院の礼拝堂で信者が大勢住んでいたのよ。といっても、この30年間の間にかなり増築をしたみたいだけど」

「隠れるにはもってこいだな……」


 その問いに、フェアが答える。それから少し開けた広場のさきに、大きな扉が待ち構えていた。辿り着くやいなや、全員で手で押し込むようにう開ける。

 中には誰の姿もない。全員の頭に「あの出来事」の記憶が蘇る。


 この広場は遥か昔、大聖堂として使われていた。ヴェルネルとレムリが攻撃された当時からほとんど変わり映えはない。広さはさながら日本の体育館のようで、老朽化が酷くなっている。所々に銅像や何か物が置かれていたであろう痕跡も見受けられ、建物を支えている柱も何もかもがボロボロで、いつ崩れてもおかしくないように見える。


 アイレが入口付近で、大きなため息を漏らす。


「ここも違うのか……。ほかに目ぼしいところは?」

「ここと王の間以外にそれほど大きな場所はないはずだ……一体……どこに……」

「ああもう! 結界さえなければ場所がすぐわかるのに――」


 フェアが苛立ちを見せたとき、広場全体がまるで太陽で光り輝いたように真っ白になった。それは無詠唱の魔法がアイレたちに放たれたことを示していた。

 光、闇、水、火、雷といった、ありとあらゆる攻撃が、大勢の魔法使いによって放出されている。まともに食らえば、どれか一つでも大ダメージを負おうほど威力が込められていた。

 それぞれの手の甲には、特殊なインクで刻み込みこまれた印が浮かびあがっており、前額ぜんがくにはそれとはまた違う印が刻み込まれている。揃って目は瞳孔が開いておらず、まるで意識があるようには見えない。

 その攻撃は一分ほど続き、誰かの声で急に止まった。魔法使いの数はざっとみて30人以上は下らない。柱の裏に隠れていた者や広場の上の銅像があったであろう死角から攻撃している者もいる。


ったか!?」


 柱の一つの影から銀の重厚な甲冑を着た男、カルムが現れた。やがて砂埃すなぼこりが晴れていくと、アイレたちがいた場所は魔法攻撃でえぐられたように埋没している。

 だがそこに姿はなく、カルムからすれば忽然こつぜんと消えたように見える。


「……バカな!――どこへいt」


 その瞬間、どこからともなく現れたアイレが後ろからカルムの首を一撃で切断しようとした。


 が、それを助けるようにレッグが蹴りを入れると、カルムは地面をこするように吹き飛ばされるが、そのおかげで一命を取り留める。それからすぐにレッグはもう一方の脚で脇腹を狙うが、アイレは身体をひねってそれを躱す。


「さっすが」


 レッグはポケットに手を突っ込んだまま、嬉しそうに笑う。瑠璃色るりいろの髪が風でなびく。


「卑怯な真似しやがって」


 逆手で短剣を構えながら、アイレが低い姿勢でレッグを睨む。遠くでカルムが何か叫んでいる。


「ばかやろう……この失敗作め! そいつをれ!」


 カルムには聞こえない程度の小さな声でレッグが、


「やれやれ、いつも口だけ立派なんだから」

「……シンドラはどこにいる?」

「シンドラ? なにそれ?」

「――とぼけるなっ!」


 呆れた様子を見せたあと、不敵に笑う。その後すぐにアイレは距離をつめて、短剣を上下左右に振り回すが、大振りすぎるがゆえに回避されてしまう。


「なんか、らしくないね?」

「黙れ!」

「前と比べて全然だめじゃん、――って」


 ヴェルネルが蒼く綺麗な剣で、レッグの後ろから攻撃を仕掛けたが、予想していたように軽口を叩きながら跳躍して距離を取った。


「見え見えだよ、卑怯なこと慣れてないんじゃない?」


 レッグはまた嬉しそう笑う。それから間髪入れずに、カルムが大声で指示を出し、柱の裏にいた魔法使いたちがアイレとヴェルネルに攻撃を放つ。


「――魔法障壁マジック・バリヤード!」


 その攻撃が到達する寸前に、横から現れたフェアが二人の前に立つ。レッグは追撃することなく、そのまま静観している。攻撃が一旦停止すると、大勢の魔法使いたちはまるで人形のようにそのまま動かない。


 その人形のような所作にいち早く気づいたフェアが、


「こんな強い魔法を無詠唱で……?」


 驚きながら魔法使いたちに視線を投げる。その横でヴェルネルが、


「あの目は……」

「……おい……うそだろ……?」


 魔法使いたちの真っ白い目に気づく。それからアイレが声を震わせながら目を凝らした。


「……あれ、ヴルダヴァ国のマークじゃないか!?」


 ローブの肩についている紋章に気づいて大きな声を上げる。続いてフェアが、


「あっちは……ベレニ……。それに…… ラコブニークにルクレツィアだわ……」


 それぞれ違う国の紋章に気づきはじめる。アイレたちはどこから攻撃が来てもいいようにそれぞれ背中を守って武器を構えている。


「何がどうなってんだよ。あれも魔王軍なのか?」

「いいや……僕は彼らのことは知らない……」

「ちょっと待って……あそこに立ってるのは……30年前に亡くなったはずの有名な魔法使いだわ。よく覚えてる……」

死霊使ネクロマンサーい……、か。シンドラのやろう……」


 フェアが魔法使いの一人の正体に気づくと、アイレが悪態をついてレッグを睨む。


「お前、フェローと仲間だったんだろ? なんでこんなことをするんだ」

「……フェロー? なんのことだ?」

「とぼけんな、リーンズ国で一緒だったんだろ」


 アイレの突然の問いに、レッグは少し眉をひそめる。


「……リーンズ……フェロー……」


 遠くから、ふたたびカルムが声をあげる。目が真っ白なまま動きはじめた魔法使いたちは、カルムの前に立ちはじめた。


「レッグ! なにぼーっと突っ立ってる! ヴェルネルはもう使い物にならん! 早くれ!」


「あーもう……めんどくせえ」


 ついさっきまで機嫌が良さそうに笑っていた顔が歪むと、ポケットから手を出した。脚に魔力を漲らせ、高速で移動したのか姿を消す。

 その瞬間、カルムがふたたび魔法使いたちに指示を出し、アイレたちに向かって魔法が放たれた。







 


 


 

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