第79話:不明
「あいつらの死んだ姿は今でもよく覚えてるよ……」
フェローは言葉を震わせながら俯いた。
「……そういうことですか、確かに妙ですね」
「どいうこと?」
アズライトがハッとした表情で気づいて、フェアが聞き返す。アイレが口を開いて、
「30年前に死んだはずのフェローの戦友が蘇ってるってことは、鉄箱を使ったはずだ。つまりヴェルネルたちが関わってないとおかしい」
「そうじゃの、ヴェルネルはレムリを生き返らせようとしておる。なのに囚われていたことを知らぬというのは辻褄が合わん」
「シンドラが嘘をついてた……?」
アイレとインザームが補足して、フェアが再び聞き返す。
「今までの話しをまとめましょう。シンドラはグラドノから鉄箱を奪い街を破壊した。その後、瀕死のヴェルネルを助けています。レムリさんは死亡したはずですが、本当は囚われていた。つまりシンドラは、初めからレムリさんが生きてことを知った上で、ヴェルネルに”生き返らせる”と嘘をついていたと言えます。そして他種族撲滅運動で鉄箱の補充を手伝わせ、セーヴェル、イフリート、ユークを蘇らせオストラバの鉄箱も奪った。そしてフェローさんの戦友。ファベルさんの話しからもダークエルフのシンドラが世界に復讐しよようしているのが妥当かもしれません」
「鉄箱はシンドラが二つ所持してる。そうなると厄介だな、俺たちはほとんどアレについてわからない」
「ルチルは長く生きてるけど、森に籠っていたから全然わからない、ごめんね……」
「じゃあ、ヴェルネルはシンドラにずっと騙されて……」
「ヴェルネルがシンドラに踊らされてたとしても、あたしは関係ないよ。ロックたちが死んだときのことは忘れてない。あいつもシンドラも同罪だ」
フェアがヴェルネルを庇いかけたとき、グレースがそれを断ち切るように鋭い口調で言い切った。
「そうだな……けど、レムリが生きていることを知れば、無駄な犠牲を止めることができるかもしれない。俺たちは今できることをしよう」
「レッグたちついてはあたしも気にしておくよ。インザームさん、あなたが反逆者として手配されてたとしても私は信じていませんでしたが、自分のことばかり考えていました。本当に申し訳ない」
フェローは最後にインザームに再び謝罪をしたが、インザームは良い良いと笑って肩を叩いた。アズライト、ルチル、インザームは人数の関係で別の部屋に移動して
アイレ、フェア、グレース、レムリ、リンが同室となった。
深夜、アイレは城の塔から空を眺めていた。
「……眠れないの?」
フェアが現れ、アイレの隣に移動する。
「……レムリを見つける前はヴェルネルを許せなかった。殺す覚悟だってあった。けど今は……」
「昔のようにまた戻れるかも、そう思ってるの?」
「……わからない。グレースの言う通りヴェルネルはシンドラと一緒にこの世界で沢山人を殺した。けど、全部シンドラが騙してたとしたらあいつは……」
「私も……気持ちはわかるよ」
アイレとフェアは綺麗な星が光り輝いてる空を眺め続けた。
翌日、ようやく一息ついたこともあり、本格的にレムリの意識が戻らない原因を探ろうとガルダスに頼み、治癒魔法が使える腕利きの魔法使いとクリア、そしてフェアとルチルで
原因の究明に急いだ。
しかしルチルの言う通り、体内の魔力が乱れているため意識が戻らず、治癒魔法でも難しいとのことだった。ホムトフ兵士からも魔王軍たちに繋がる有力な情報も得られず、時間だけがただ過ぎていった。インザーム、リンはフェローと共に冒険者たちに無実の証明のため手配書と情報の伝達をしていた。インザームはとても嬉しそうで、これでようやく堂々とお店でご飯が食べれのぅと笑っていた。グレースは「あそんでくらぁ~」と街へ出かけた。
夕方過ぎ、怪我の治ったガルダスがアズライトとアイレを城内の訓練場に呼び出した。綺麗な緑の芝生が敷き詰められており、怪我がしづらいような構造になっている。
普段は見学者ができるのか、沢山の椅子が並べられていた。
「どうして、訓練場なのですか――」
アズライトとガルダスが木剣で戦っている。その横でアイレが芝生で座って眺めている。
「昔から男同士の会話はここだと決まっとる――隙あり!」
魔力は使わず、純粋な剣技のみのルールで、アズライトとアイレは何度もガルダスに負け越していた。
「よし、俺の番だ! おっさん覚悟しろよ!」
アイレが元気よく立ち上がると、用意してもらった木剣の二刀を構えた。アズライトは腰を下ろしてそれを眺める。
「チビ助――お前も、アズも魔力に頼りすぎてるな」
アイレが何度攻撃を仕掛けても、ガルダスには届かない。
「ちきしょう! これなら――」
「あまい!」
アイレは跳躍して一撃を与えようとしたが、ガルダスはなんなく避けると脇腹に一撃を入れた。
「おっさん強すぎだぜ」
アイレは脇腹を抑えながら、膝をついて肩で呼吸をしている。
「チビ助、あのダンジョンの武器とやらでかかってこい」
「……いいのか?」
「大丈夫ですよ。アイレくん」
アイレがアズライトに視線を変え、アズライトが微笑む。
「遠慮するな! こい!」
「いくぜ。――神速」
アイレはダンジョンの武器を出現させると、地を蹴ってガルダスを狙った。勿論、寸止めをする予定だったが、ガルダスはアイレの姿を捉えたかのように動いて
神速中のアイレの脇腹に一撃を入れた。
「いってぇぇえええええええ」
木剣とも言えど、カウンターの一撃でアイレは脇腹を強く抑える。骨にヒビが入ったように感じた。
「すまんすまん! やりすぎたな!」
ガルダスが悪びれることなくがははと笑う。そのまま続けて
「神速? だったか、その速さは驚異的だがカウンターに気を付けろ。速度に甘えすぎて動きが直進すぎるのが欠点だな
今のが実践だと真っ二つになってるぞ」
木剣をアイレに向けながら真っ直ぐ見据える。
「これでも鍛えたんだけどなぁ」
「さっき言ってたフォンダトゥールって人のところか?」
「そうです。一年ほど魔王軍の動向を調べながら、お互いの足りない部分を鍛え直したつもりでしたが……」
「ぜんぜん足りとらんぞ! もっと筋肉をつけんか」
アイレが体を起こして、ガルダスに声をかけたとき、アズライトが遮るように
「アイレくん、次は私の番ですよ」
「いーやーだー。俺が戦う」
「負けてばかりじゃないですか、早く退いてください」
「なんだぁ!? やるかぁ!?」
「修行していたときから、私には一度も勝ててませんよ」
「あんときの俺と今は違うんだよ!」
アイレとアズライトが喧嘩をしながら手合わせしているの眺めながら、ガルダスは微笑んだ。
「まったく、兄弟みたいだなお前たちは」
日が沈んでも、レムリが眠り続けている理由は誰にも解明できなかったが、その日ホムトフの兵士を追ってシンドラたちの行方を調べていたシェルが戻ってきた。




