第77話:混血種
ガルダスはルクレツィア国の兵士を束ねる騎士団長として、すべての現状を把握するためにアイレ達を含む全軍を広場の中心の時計台に集合させた。
ホムトフの兵士は30人ほどが捕らえられ、そのほとんどが軍事捕虜施設というなの牢獄に移送される。幸いにもガルダスの的確な指示により、市民のほとんどが砂嵐対策の地下室に避難しており被害は最低限に抑えることができたが、大勢の兵士が犠牲者となった。ホムトフ国はルクレツィアより数十キロ北存在し、この数十年間の間もラコブニーク王国を含めて小競り合いがあったが、ここまで大規模なのは過去に例を見ないとのことだった。アイレ達、フェロー率いる冒険者が来なければ、国が落とされていた可能性は十分にあった。
この戦闘ではヴェルネル、セーヴェル、シンドラの姿は確認されなかったものの、ホムトフ国の独断で行ったことではないことは転移窓からも安易に予想されたが、六龍会という名を含め
すべてが謎に包まれた。アイレはガルダスにレムリのことを説明したが、混乱を避けるためにも公開はせず、インザームの無実の周知を徹底した。
その際に、フェローがインザームに対して丁寧に接しているのを見たアイレと冒険者たちは驚愕したのはもちろんのこと「逆に怖い」「ちょっとかわいい」など様々な意見が飛び交ったが、フェローの黙れ殺すぞの一言で誰もが話すのをやめた。
ホムトフの兵士は、魔法によってこの戦闘について話すことを禁じられているのか、それから半日が経過しても何も成果が得られることはなく、ただ時間だけが過ぎていった。
アイレたちは城のいくつかの部屋を用意され、戦闘と旅の疲れ取っていた。それから夜なると、冒険者としての情報伝達を終えたフェローがアイレたちの部屋の扉を叩いた。
「失礼します」
「こんばんわー」
フェローと、その横にはクリアの姿。
ガルダスのおかげで大きな部屋を二つ用意してもらっていた。ベットの真ん中にレムリがスヤスヤと眠っている。部屋にはいくつかの椅子とテーブルと煌びやかな装飾品が置いてある。絨毯はなんだかよくわからない動物の綺麗な刺繍。
隣の部屋からも集合してもらいアイレたちは全員でフェローを待っていた。意識を失っていたリンも、今は元気にしている。
各々好きな部屋の好きな場所で座っていた。
「うむ、改めて久しぶりじゃの、スカーレットよ」
「その名はやめてください……。今はフェローだけでいいです」
フェローの丁寧な物言いに、クリアとアイレとフェアがソワソワとしている。
「シェルは本当に大丈夫なのか?」
本題に入る前に、アイレが口を開いた。フェローとクリアいわく、この国に入る直前まで一緒にいたが、ホムトフの兵士を追ってシンドラたちの行方を単独で調べているとのことだった。
「安心しな、あいつは優秀だよ」
フェローがアイレを宥めるように落ち着いた声でハッキリと答える。
「フェローよ、さっそくじゃが、レムリが捕らえられていた理由を教えてくれぬか?」
「わかりました。順を追って説明します」
この城に移動するとき、アイレたちはラコブニーク王国での経由をフェローに話していた。レッグ、アイ、アームという謎の少年兵について、何か知っているような口ぶりだった。
全員が固唾を飲む。
「ラコブニーク王国はずっと前から魔族と人間の混血種を作ろうとしていました。レッグ、アイ、アームはおそらくその成功例だと思います」
「混血種じゃと? それはなんのためじゃ?」
「魔族と人間の混血種だけの軍事兵士を育てるためです。レムリさんは、遥かに高い魔力を有しています。その実験に必要な膨大な魔力の供給源として長年捕らえられていたのだと思います」
「供給源……、なんでフェローはそんなことわかるんだよ!」
アイレが突っかかるように前に出る。すかさず、インザームが、
「……会ったときから思っておったが、お主は若すぎる。それが関係しておるのじゃな?」
インザームの発言通り、フェローは20代前半にしか見えない。若く見える人は確かに存在する。だが、それにしても不自然なほどに。
「はい、私は……人間ですが、身体には魔族の血が流れています」
フェローの表情はいつになく弱気で、その手は震えていた。クリアがそっと手を握る。
それからフェローは、自らの過去を話しはじめた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
30年以上前、突然あらわれた魔物の手によって、住んでいた街と両親を失ったフェローは、間一髪のところで当時のヴェルネル、レムリ、インザームに助けられた。
その後、ヴェルネルたちと一週間ほど過ごし、まだ10歳だったフェローは別の街に住んでいた親戚に引き取られた。しかしそこは、フェローにとってあまり良い環境ではなかった。
はじめは優しかった親戚も、次第にフェローのことを疎ましく思うようになり、ろくに食事も与えない日々が続いた。さらには「復讐」という名の鎖がフェローの心を蝕んだ。朝から晩まで剣を振り、魔物を駆逐することだけを生涯の目標に定めた。性格もだんだんと荒々しくなり、当時は難しくなかった冒険者に13歳で合格すると遂には家に帰らなくなった。
それから自分が出来る依頼はすべて受けてお金を稼いだ。仲間に裏切られることも少なくなく、フェローが他者と比べて冒険者の誇りを大事にしているのはそれが要因であった。
残念なことにフェローは戦闘における一番大事とも言える魔力量が圧倒的に不足していた。出来ることといえば、簡単なスライムの討伐や使い走りのような薬草集めばかり。冒険者に合格は出来たものの、一向に実力があがる気配なかった。
そんなとき”カルム”と名乗る男とフェローは出会った。




