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第8話:嘘か誠か

「ワシが、ヴェルネルとレムリと一緒に旅をしていたのは30年前の話だ」


「冗談はやめろよ……」

 

 唐突のインザームの告白に、アイレの理解が追いつかない。


「今まで黙っていてすまぬ」


 インザームがうつむいて視線を外す。


「嘘だろ? なぁ、どういうことだよ、この半年間、ずっと黙ってたってことか!?」


「……そうじゃ」


「説明してくれ……」


 アイレの心に裏切られたような想いがこみ上げる。インザームは静かにゆっくりと間をあけてから口を開いた。


「最初から話そう……30年前の世界は今と比べものにならんほど荒れておった。魔物は人間をあちらこちらで食い散らかし、子供の死体もワシは嫌というほど見てしまった。私利私欲にまみれた人間も多く、魔族を味方につけている人間も珍しくなかった。それでいて国家間の争いも多く、どこも血にまみれておったよ」


「そんなことはどうでもいい、ヴェルネルとレムリは今どこにいるんだ? 生きてるんだろ?」


 インザームはすぐに答えなかった。それどころか、あえて遠回しにしているような、そんな気持ちすら感じられた。


「ワシは出会う前から、二人の名を知っておったよ。ヴェルネルは最強の剣士といわれ、とある強国同士の10年続いた戦争を止めたと言われておる。みな口を揃えてあれほどの強さ、そして人格者はいないと言っておった」

 

 あの優しかったヴェルネルがそんな凄いことを成し遂げていたことに、アイレは驚きを隠せなかった。同時に当時から変わらず、この世界で夢を成し遂げていたことに嬉しくなり、自然と笑みが零れた。


「……レムリは?」


「レムリはヴェルネルをも凌ぐほどに有名じゃった。奴隷制度に対して声を荒げ、それを生業としていた商人のほとんどが、レムリの手で壊滅したと言われておる。人間で「精霊魔法」を習得できたのは今現在までレムリの他におらぬ。人類史上最強の魔法使い、そう言われておったよ」


 レムリは本当に純粋で分け隔てない心を持ち合わせていた。奴隷はレムリが最も嫌悪しそうな卑劣な行為。


 二人は何も変わっておらず、アイレの想像を遥かに超える人物になっていた。


「そうか……」


 アイレは静かに頷くように聞き入りながら、目に涙を浮かばせた。インザームは続けて、


「ワシは……ドワーフの国で鍛冶屋を営んでおった。あの時代は武器や防具が求められており、どこも冒険者や兵士で溢れていた。しかしある日、魔族と魔物が群れを成して攻めてきた。無論、国中で応戦したが、あまりの魔物の数に防戦一方じゃった。そんなとき、ヴェルネルとレムリが駆けつけてくれて助けてくれた、じゃがすでに街は壊滅状態、もはや国を立て直すのは不可能となり、国民のほとんどが故郷を捨てざるおえんかった。ワシは同胞の仇と二人に恩を返すため、それから3人で行動をともにすることになったのじゃ」


「それが……30年前……」


 インザームは思い返しながら、どこか寂しげな表情を浮かべていた。


「ヴェルネルとレムリの旅の目的は、魔族の壊滅じゃった。ワシはそれに同行させてもらったのにすぎぬが、二人はどんな回り道をしても弱気者を見捨てず、多くの国を救った。本当に素晴らしい二人じゃった」


 そのまま続けて、


「そしてアイレ……二人はお主の話しをよくしておったよ。いずれこの世界にやってくる、そうなれば強さも優しさも兼ね備えているアイレが一番の勇者になるともな。その二人の気持ちは今はわかる。じゃが、ヴェルネルもレムリも、過去の話は避けておった。忘れたかったのかもしれぬ」


「インザームは、はじめから俺のことを知っていたのか……」


 ゴブリンからアイレを助けたのも偶然ではなく、必然。様々な想いがアイレの頭をぐるぐると混乱させた。

 なぜ、半年以上も黙っていたか。なぜ、二人はここにいないのか。


「ヴェルネルとレムリは今どこにいるのか、ハッキリと教えてくれ」


「……30年前、北にあるクルムロフ城に魔王が根城にしているという情報を聞いてな、ワシとヴェルネルとレムリはそこに向かって――」


 その直後、後方の森から光が輝いた。青と赤の色が渦のように円を描きながら、一直線にインザームを狙った。


「インザーム!」


 アイレが気が付いたときには既に直撃していたが、インザームは鎌を横にして盾にすることで、その攻撃を防いでいた。


「……大丈夫じゃ」


 衝撃で身体が後方にズレると、足元に砂埃すなぼこりが舞う。


 二人が見守る中、森からゆっくりとした足取りで、男が姿を現した。


「やはり、不意打ちはダメですね。当てても外しても気分が良くない」


 華奢に見えるが、思わず見とれるほどの長身で、脚はすらりと長い。髪は短すぎず長すぎず、髪色は綺麗であり、かつ派手でもない金で、はっきりとした目鼻立ちと整った眉から、上品さが感じられた。肩から白いマントを羽織っており、その下には黒い制服を着込んでいる。右肩には家紋を表す紋章と、その体に負けないような長身の剣を腰に帯刀していた。


 その身体から、目を凝らさなくとも高い魔力が漂っていることに気づいた。


 謎の人物は、落ち着いた声と、丁寧な口調だが、不思議な雰囲気を漂わせながら、ゆっくりとアイレとインザームに向かって距離を詰めた。


「なんだてめぇ!」


「仕事です」


 アイレは謎の人物に向かって戦闘態勢を取ったが、意に介さないかのようにスタスタと歩き続けた。


「半信半疑でしたが、まさか本当にいらっしゃるとは思いませんでした」


 二人の間合いの外で、その男は停止した。インザームはその男の肩の家紋に気が付くと、すぐに口を開いた。


「おぬし、シュタイン家の使いか。なぜここがわかった」


「連絡を受けて来たんですよ。失礼、自己紹介がまだでしたね。私はシュタイン家の断罪人アズライトと申します」


 自ら名を名乗った男からは、断罪人という言葉にそぐわないほど丁寧な物言いだった。その姿と語り口調が、高貴な生まれを想像させた。


 とても理由もなしに人を攻撃するような輩には見えないと、アイレは感じた。

 

「シュタインだが、アズライトだが知らねえが、なんで攻撃してきた?」


 アイレは警戒しながら、食って掛かるように問い詰めた。アズライトは、少し面倒な表情を浮かべたあと、


「彼は、あのインザームですよ」


 と、当然のように答えた。


「そんなことは知ってる。俺が聞いてるのは、どうして攻撃してきたかってことだ!」


 アイレの言葉に、アズライトは眉をひそめた。いや、どちらかというと、困惑しているように見える。インザームは二人のやり取りに口を挟もうとせず、黙っている。


 答えようともしないアズライトに痺れを切らし、アイレは足先に魔力をひそかに集中させ、飛び掛かろうとした。が、それに気付いたインザームがアイレを止めるように手を出した。


「……よせアイレ。狙いはワシじゃ」


「どういうことだよ? 何の話だ?」


 ヴェルネルとレムリの行方もわからず、インザームがずっと黙っていたこと。頭の整理もまだ出来ていないにもかかわらず、突如襲撃してきたアズライト。


 アイレの精神状態は著しく不安定になっていた。


 困惑したアイレの姿を見て、アズライトはようやく口を開いた。


「彼はこの世界で最も有名な反逆者だよ」


 ハッキリとそして真っ直ぐな瞳だった。


「……インザームは俺の命を助けてくれた恩人だ。反逆者だとしても、俺には関係ねえ」


 そんなアイレの気持ちを一瞬で覆す言葉を、アズライトは。口走った



「彼の本名はインザーム・カイト。魔王を倒しこの世界を救った伝説の勇者ヴェルネルと大魔法使いレムリを殺した男です」

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