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友達と一緒に異世界転生したら、俺だけ30年後の未来でした。 ~伝説の勇者と魔法使いは親友で、魔王は討伐されている!?~  作者: 菊池 快晴@書籍化決定
ラコブニーク王国

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第71話:奪還

 首を切断したにも関わらず、レッグは何事もなかったかのように蘇った。その背には、アイと呼ばれた可愛らしい少女が立っている。

 白色のワンピースのような服を着ており、なぜここにいるのかわからない幼い。


「アームは?」


「知らない。それが今日の敵?」


 アイはその見た目とは裏腹に、冷たい視線をアイレに投げかけた。「敵」という言葉を日常的に使っているような、そんな雰囲気を感じる。

 そんなことはどうでもよくて、今が絶体絶命だということをがアイレに緊張を走らせた。


 レッグは首を切断しても蘇り、アイという少女からは底知れぬ魔力を感じる。フェアとグレースの姿は見えず、神速も空振りに終わった。

 レムリは気絶しており、今がどんな状態なのかもわからない。


 見逃してくれ、口からその言葉が喉まで出そうになったが、唾と一緒に飲み込んだ。今までそんな都合の良いことが起きたことはない。

 アクアが死んだときも、ロックが死んだときも自分が行動しないと何も変わらない。残った魔力をかき集めれば、神速を使うことができるかもしれない。

 だけどそれは、かなりのリスクも背負う。


「ねぇ、なに突っ立ってんの? 心配しないで、アイは手を出さないよ」


 アイレはレッグの言葉に少しほっとした。それがまたくやしくて、何も変わってない自分が歯がゆかった。もう、後悔はしたくない。


 今、今だけ。今だけ力があればいい。レムリを守れれば、後はもうどうでもいい。アイレは心の中で自分に言い聞かせると、神速を使うために剣を構えながら

深呼吸をした。レッグもそれに気付いたのか、警戒した――


 七色の矢がアイレの背から乾いた音で飛んできた。その矢はアイレの顔の横を通り、レッグの心臓を寸分たがわず狙った。身体を貫通させるほどの速さと威力を兼ね備えている。

 それにいち早く気づいたアイが、レッグの背から魔法を詠唱して攻撃を防いだ。


「ごめんレッグ。今の死んでたから手だしちゃった」


 けろっとした顔で、悪ぶれることなく謝った。アイレの後ろから、聞きなれた頼もしい声が聞こえた。


「や~や~待ち合わせに遅れちゃった」


「……レムリ。――アイレ、ここから今すぐ逃げましょう」


 これほどまでに頼りがいのある仲間はいない。フェアとグレースだ。今まで何をしていたのか、どこにいたのか

そんな事を聞くまえに今はこの状況が絶体絶命では無くなったことに喜んだ。


「どうするの? さすがに多すぎるよレッグ」

「つまんね。どいつもこいつも群れやがって。やめーよ」


 アイの冷静な言葉に、レッグは少し間を空けて戦闘態勢を解いた。腕を頭の後ろに回して、気だるそうにした。

 アイレ達は警戒しながら、レッグとアイの横を通り抜けようとしたとき、カルムが大勢の兵士を連れて横から現れた。大きな槍を持っているものもいれば、剣を帯刀しているものもいる。


「お前ら、この宮殿に忍び込んで逃げれると思うなよ。おいレッグ、アイ、こいつらを殺せ」


「やだ。こんな大勢で戦っても楽しくない」

「自分でなんとかできないのに、よく偉そうにできるね」


「黙れ、この失敗作どもが!」


 レッグとアイの反抗的な態度に、カルムは怒りをあらわにした。それからアイレが背負ってるレムリに気が付ついた。


「貴様、さてはガルダスの使いだな。あいつめ、どこから”物資”の情報を手に入れやがった」


「……”物資”だと? レムリのことを言っているのか?」


「レムリ? 何の話だ。その女は我が国が所有する、軍事兵器だ」


 カルムは兵士たちに命令をすると、アイレ達を取り囲んだ。フェアとグレースは戦闘態勢を構えて、今にも攻撃を仕掛けようとしている。

 ”物資”に”所有”その言葉の真意はわからないが、こいつ等がレムリをこんな目に遭わせたということが理解できないほど、アイレは馬鹿ではない。


「俺にやらせてくれ」


 アイレはレムリをフェアに預けると、残った魔力をかき集めた。生まれてはじめて心の底から溢れる感情。今ならヴェルネルの気持ちがよくわかる。


「ガキがすべて吐いてもらうぞ! かかれ!」


 カルムの指示で兵士が動く前に、アイレは神速を詠唱して姿を消した。誰もアイレの姿を捉えきることはできず

心臓を一突きされ、首を切断され、何が起こったのかわからない悲鳴と叫び声が飛び交った。


 そんな中でも、レッグ、フェア、グレース、アイはアイレの姿を捉えていた。笑っているのか、怒っているのかわからない形相で

敵を殺して返り血を浴びながら、次の敵を殺す。その姿は復讐という目に見えない鎖に取りつかれているのが一瞬でわかる。


 レッグとアイは兵士たちが無残にも殺されているにもかかわらず、一向に動こうとはしなかった。


「はぁはぁ……」


 大量の返り血を浴びて、顔が見えなっているアイレは最後の最後までカルムを殺さなかった。まるでショートケーキで苺を残すかのように、不敵な笑みを浮かべてカルムを睨んだ。

 殺す前に色々と聞きたいことがある、聞かないといけないこともある。そんなことはアイレもわかっていたが、今すぐにでも殺したい、痛めつけて殺したい。そんな欲望が止まらなかった。


「ひ、や、やめろ……」


 カルムは怯えた様子で、武器を捨てると土下座をしてアイレに懇願した。


「物資? 所有? 軍事兵器だと?」


 そのまま詰め寄ると、カルムを痛めつけて殺そうとした。しかし、


「情けねぇな。……そこまでにしときな。こいつに手を出すってんなら、俺もアイも動かないといけなくなるぜ」


「黙れ、お前も殺すぞ」


  レッグがカルムを守るように前に出た。アイレはそれでもかまわず、剣をレッグに迎えたが、


「アイレ! もういいよ。今はここから逃よう。レムリを……こんなところから出してあげよう」

「そこまでだよ。これだけの国だ。ほかに使い手がいないとも限らない。行くよ」


 フェアが懇願し、グレースがアイレの肩を掴んで止めた。ふいに魔力の底切れを感じ、よろめきそうになったが

レムリの姿を見て持ち直した。


「急ごう」


 宮殿から去るアイレの背中ごしに、また会おうぜ、レッグがそう言葉を残した。

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