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友達と一緒に異世界転生したら、俺だけ30年後の未来でした。 ~伝説の勇者と魔法使いは親友で、魔王は討伐されている!?~  作者: 菊池 快晴@書籍化決定
ラコブニーク王国

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第69話:動悸

 アイレの小指の第一関節がはさみで骨ごと綺麗に切断された。

 喉から声が迫り出すように激痛で悲鳴が飛び出る。


 急激に冷や汗をかいて、どうしてこんな状況になっているのか頭が駆け巡る。


 パギダはさも嬉しそうな顔をすると、不気味に笑い声をあげながら


「え、え、い、痛いですか? ま、ま、まだ、か、かるい」


 アイレの顔をまぶたのない片目で覗き込んだ。


「……な、なにしやがる……」


「あ、あたしは、う、うそがわかるんです」


「ひ、ひ、ひとりですか??」


 パギダは次に反対の手の小指の第一関節にはさみを当てる。

 金属が皮膚に触れると、アイレの脳に痛みが走り体がビクンと震える。


「あ、あ、い、い、いいはんのう」


「……答えろ」


「え、え、ええ、ええ? なんですって?」


「俺の質問にも答えろ……」


「ひ、ひゃひゃっ! お、おもしろい。な、な、なんですか?」


 切断された小指がズキズキと痛む。大量出血とまではいかないが、血がぽたぽたと滴り落ちる音が聴こえる。

 アイレは痛みで顔を真っ直ぐ上げることができず、足元を見ていた。


「……俺以外にここに投獄されてるやつはいるのか」


「は、は、は、はい。い、いるよ。み、みみんなす、す、すなお」


 女も、男も、子供も。アイレはハッキリと”レムリ”と名前を出すことはなかったが、ここはまともな場所ではないと感じた。パギダなら、何か知っているかもしれないと。


「で、で、で、ひ、ひとりできた、きたんですか?」


 パギダははさみに力を少しだけ入れながら、歯切れの悪い声でアイレの顔を覗き込んだ。


「違う。俺を合わせて3人だ」


「あ、あ、あ、あほんとだ。こ、こ、こんじょう、な、ない」


「で、な、な、なにしに?」


「……耳を貸せ」


「え、へ、え?」


 アイレの突然の申し出に、パギダはアイレの口元に頭を近づける。


「ゴミ野郎が」


 アイレ鋭い口調で吐き捨てると、つばをパギダに吐いた。


「ひ、ひ、ひ、ば、ばかにするな!!」


 パギダがはさみに力を入れた瞬間、アイレはダンジョンの武器を出現させた。制限していた身体中に魔力が流れ込み、パギダが力を入れても小指が切断できない。


「え、え、な、なんだ???」


 アイレはそのままの状態でもの凄い魔力と力で左腕の枷を弾き飛ばすと

パギダを掴んで喉元に短剣を突き刺した。


 その剣は炎でメラメラと燃えており、パギダの焼けただれた皮膚がじゅくじゅくと音を鳴らす。


「跡形もなく燃やしてやろうか?」


 パギダは息を止めてはさみを落とすと、体を震わせながらアイレの拘束を解いた。炎にかなりの恐怖心があるらしく、身体中がガクガクと震えている。


「ふう、おい。パギダ? だったか?」


 小指の血を魔力を流し込み止血すると、アイレはパギダを鋭い目で睨んだ。


「へ、へ、へぇ」


「……レムリという女性を探してる。ここにいるか?」


「れ、れ、れむりれむりれむりれむり。あ、あ、あ、た、た、た、たぶん」


 パギダはへつらいながら頭を下げた。たぶん、という言葉に怒りに震えたが、もしかしたらという希望で自分を冷静にさせた。

 アイレは油断しないようにパギダに炎をチラつかせながら、囚われていた部屋から脱出した。幸いほかには誰もいないようで問題はなかった。


 しかし、フェアとグレースが一行に姿を現さないのは不安だった。あの二人なら、魔力を感知して助けにきてくれると思っての行動でもあった。


 二人の身に何かあったかもしれないと心配したが、今は信じてレムリを探すことにした。


「どこだ? 早く連れていけ」


 アイレは容赦なくパギダの顔に何度もの炎を近づけさせた。パギダは何でもない石壁の前に立つと、手で強く押し込み、さらに深い地下通路への階段を出現させた。


「こ、こ、このした、したです」


「なんなんだここは……」


 アイレは底知れぬ不安を感じながらも、パギダを先頭に階段を下った。

螺旋状になっており、真ん中がぽっかりと穴が開いてるような構造で、足を踏み外せば真っ逆さま落ちていく。 


 そして、アイレの体感で長い時間を下り一番下に到達した。そこにはまた重厚な扉が存在していた。


「ここ、これ、これこれ、これです」


 パギダは扉の前で答えた。アイレは扉の上についている小さな窓を覗いて

中の奥に倒れている”誰か”を発見した。

 

 顔は見えないが、アイレの心臓の鼓動が早くなる。もし、レムリだったら。


「早く開けろ!!!!」


 突然アイレはパギダに怒鳴るようにキレた。こんな地下牢が存在していることにも吐き気がする。


「ひ、ひ、ひ、ひへ、へへへへへ」


 パギダは甲高い声で笑いながら、扉を開けた。アイレは急いでその”誰か”に近づいて声をかけた。


 薄汚れているが、黒髪で白い肌。服はボロボロの布で血が混じっており、赤く変色している。

 30年という年月を感じさせないほど、幼さが残っている。意識はなく、倒れているのか、死んでいるのかすらわからないほどに弱っている。


 しかし、紛れもなくの姿はアイレがずっと追いかけてきた。


「……レムリ」


 の姿だった。あまりの痛々しい姿にアイレは大粒の涙を流してレムリを抱き抱えた。今すぐにでも、ここから脱出しないといけない。その矢先に


 パギダが扉を笑いながら扉を閉めようとしていた。不気味に笑いながら、ば、ば、ば、ばかと叫んでいる。


 アイレは静かにダンジョンの武器を出現させると、レムリを担ぎあげたまま神速を詠唱した。

 一瞬でパギダと距離を詰めると、容赦なく炎の短剣を腹部に突き刺した。


「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああ」


 パギダの腹部から炎が灯ると、全身に燃え移りばたばたと地面を転がり、呼吸がでくなくなるとすぐに絶命した。

 

 アイレは最後までパギダの姿を見ることはせず、すぐにレムリを抱えて階段を駆け上がった。


 

 

 


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