第68話:沈黙
瑠璃色の髪をしたレッグと呼ばれた少年が、後ろを振り向くと壁越しに殺気を放った。背丈はアイレとほぼ変わらないぐらいで、年齢も同じぐらいに見えた。
フェアとグレースは、息を止めながら武器に手を添える。パレス王のフェローは殺せたのか? という突然の発言にフェアの魔力が揺らいでしまった。
「おい、カルム。こいつは何を言って――」
「パレス様、お下がりください」
パレスと呼ばれた王様の身を守るように、重厚な甲冑の着込んだカルムが危険を察知して前に出る。
「ねぇ、なんで隠れてるの? 出てこないと殺っちゃうよ?」
そういいながら、レッグはポケットに手を入れたまま、ゆっくりと壁に近づいていく。アイレはフェアとグレースに目配せをしてから、
「ま、まってくれ!」
立ち上がり、両手を上げ壁の外に出る。ダンジョンの武器は出現させていない。
「何だ貴様は? 誰だ?」
レッグの後ろで、王を守るようにパレスが剣を構える。
「この宮殿があまりにも綺麗で……勝手に入っただけです……武器なんて持ってません」
アイレは体を回転させながら、何も持っていないことを見せつける。さらに大袈裟に怯えたような声を出した。
それをレッグは少しだけ不気味に微笑みながら、
「ふーん? なんか、それにしては強そうに見えるなぁ」
「黙れレッグ、勝手に喋るな。お前一人か?」
「は、はいっ。本当にすいません……」
「おい、レッグ。その壁の後ろを確認しろ」
「はーい」
レッグは両手を上げているアイレの横をゆっくりと通り抜けると、さっきまで隠れていた壁の後ろを見た。
が、そこには誰もいなかった。
「――いないね。でも、本当かな? なんか、緊張してない?」
レッグは顔をアイレに近づけさせ、物凄まじい殺気を再び放つ。アイレはそれを感じて、
「や、やめてください……。本当に一人なんです……」
再び怯えた声を出す。そこでパレスが
「パレス、こいつを連れていけ」
「はっ。レッグ!」
「嘘ついてたら殺すからね。あ、――だったら嘘ついてるほうがいいか」
アイレの耳元で囁くと、首を掴んで引っ張り無理やり歩かせた。
それから数分後、アイレが時間を稼いでくれていた間に、すぐ近くの壁に隠れていたフェアとグレースが姿を出した。
「アイレが……どうしうようグレース……」
いつもは見ないフェアが慌てふためく姿があった。しかし、グレースは、
「大丈夫だよ。アイレなら本気を出せば何時でも逃げれるはず。感知は?」
フェアを気遣うように肩に触れる。
「……微弱だけど、アイレの魔力を感じる」
「行こう」
二人は急いで、それでも静かにアイレの魔力を辿った。
「グレース……あのレッグって呼ばれてた少年」
「どうしたの?」
「……似てる」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アイレは、捕まった場所から少しだけ離れた地下に続く階段を下っていた。宮殿は王の住居と呼ばれているとは思えないほど、各場所に兵士が配置されている。
アイレは、時間をある程度稼ぐと逃げ出す予定だった。つい先ほど、ダンジョンの武器を出現させようとした際に、レッグがアイレの腕を掴みそれを止めた。
「ねぇ、やっぱりこいつ、なんだか変だよ」
その言葉で、カルムはアイレに強固な手錠を掛けると、兵士を数名呼び、警戒を強くした。アイレにとって大きな誤算であった。
5分ほど降ると、そこには不気味な光景が広がっていた。まるで犯罪者を投獄させるような地下室。天井には薄明りの電球が付いており、誰もいない牢獄の横を歩くと、重厚な扉が現れる。
アイレはそれを見て手足がゾクゾクするような感覚に襲われた。
パレス王とレッグの姿は今は見えず、カルムと数名の兵士がアイレをここまで連れてきていた。
扉の横の椅子に全身を黒いフードで覆われている不気味な姿があった。背丈は幼い子供のようで、男性か女性なのかもわからない。
「パギダ、起きろ」
カルムが鋭い口調で椅子を蹴る。
「へ、へぇ。す、すみません。少しウトウトしておりまして……」
体をビクンと驚かせると、顔だけフードを取る。パギダの顔は焼けただれており、皮膚がぶよぶよしていた。髪も眉も毛が一切ない。
さらには片目の瞼の皮膚がなく、ギョロっとした目でアイレをチラリと確認する。
――な、なんだこいつは
「こいつの素性を調べろ。何か隠してると思ったら、手荒な真似をしても構わん」
カルムは数名の兵士と共に、アイレを引き渡すと、階段を上りすぐに消えさった。
パギダは「へ、へぇ」と深くお辞儀をすると、アイレを扉の中に押し込んだ。部屋の中心にはポツンと椅子が置いてある。壁や地面には血痕が付いており、棘がついているこん棒、ありとあらゆる拷問器具が置いてある
アイレの体から徐々に血の気が引く。
「いひひ、す、すみません。ち、ちかっていて」
パギダは不気味な笑いながら、アイレを椅子に座らせると、見た目とは裏腹の物凄い力でアイレの手足を施錠した。
「え、えっと、ま、まずなにから聞きましょうかね……」
アイレの顔を舐め回すように、瞼のない目を近づける。
「さっき話したが、俺は綺麗だなと思ってここへ入っただけだ……。何も隠してない」
「へ、へ、みんな、さ、さいしょは、そ、そうですよね」
パギダはいつのまにか手に所持していた爪剥ぎの道具で、有無を言わさずアイレの右手の小指の爪を引っこ抜いた。
「ぐがあああああああああ」
アイレは突然の痛みに耐えきれず、大きな声で叫んだ。身体が反応して震える。
「い、いい声ですね。き、きれいなつめだぁ」
パギダはアイレの爪を天井の薄明かりに照らすと、まるで小さな子供がおもちゃを見ているかのように歯をむき出しにして喜んだ。
「やめろ……」
「い、いひひ。ど、どこかきたのですかかか?」
「だからいっただろう……俺は…‥たまたまここに――」
次にパギダはアイレの左手の小指の爪を剥ぐ
「う、うそつ、つきき、す、すぐわかるる」
パギダは早々に爪に興味は薄れたのか、地面に無造作に捨てると、次に鋏のようなものを取り出した。それを見せつけるかのように、ジョキジョキと音を鳴らす。
「まて……」
「ひひひ、は、はい。ど、どうぞ」
「俺は……冒険者だ」
「ひひひ、それはほ、ほんとですね、ね」
パギダはアイレの話しを聞きながらも、鋏を小指に挟み込むように当てる。ほんの少しの力を入れることで、切断できそうなほど鋭い刃をしている。
「ででで、なにににしに?」
アイレは黙った。パレス王、レッグ、カルム、そしてこのパギダは明らかに普通ではない。
フォンダトゥールの予言通りこの国にレムリが囚われているとしたら、今話すことは絶対にダメだと感じた。
「あ、あ、あ、あ、だまった黙った」
パギダは舌を出しながら、鋏に力を入れた。




