第61話:ジスティ王国
次の日になっても、フェロー率いる冒険者御一行はモジナに姿を現さなかった。
予定では、シェル達と合流する手筈になっていた。
「本当にいいのか?」
アイレがシェルを気遣って申し訳なさそうにしている。
「もちろんだよ、アイレ達はやることがあるんだろ? フェロー達ならきっと大丈夫だと思う」
シェルとクリアは、まだ現れないフェロー達を待つためにモジナに残ることにした。危険だから一緒にいるよ、となったが
何度もシェルが大丈夫と言ったので、アイレ達はレムリがいるかもしれないラコブニーク王国へ。
「ありがとう、シェル。――アクアもきっと喜んでるよ」
「ああ……。そうだといいな。でも、魔王軍を壊滅させないと……。アイレには悪いけど、僕はヴェルネルを殺す覚悟でここにきている」
「大丈夫だ。俺は止めないよ」
「私が……シェルを守るので安心してください!」
誰よりも背が低いクリアが、頼もしそうな声で自分の胸を手でぽんぽんと叩いた。治癒能力を向上させているといったが
たった一晩でシンドラから受けた傷は治りかけているらしく、それにはフェアも驚いていた。
「じゃ~あたし達はアイレを守る!ってクリアちゃんほど可愛く言えないな~」
「もう、グレースは……。ありがとうね、シェル、クリア。こちら側にきてる以上、きっとまた出会うわ、その時は宜しくね」
こうして、アイレ、フェア、グレースはシェルとクリアに分かれを告げて、更に東へ進んだ。
「ロンからもらった地図によれば……丸二日は歩かないといけないな。それにずっと砂漠かも……」
「この暑さはきついな~」
「頑張りましょう……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、アズライト、ルチル、インザームは西の果てにあるジスティ王国のすぐ近くまで来ていた。
オストラバ王国とは大きく違い、この国ではでは多種多様の種族が認められている。
人間、ドワーフ、獣族、そして激減したとはいえエルフも。etc……。しかし、それゆえに入国審査はかなり厳しく、観光だとしても明確に泊まる場所を決めておかないといけない
上に、それなりの所持金を提示しておかない(お金がないと犯罪をする可能性がある為)、更に一般市民ではあまり浸透していない身分証が必要である。
また、城内ではありとあらゆる場所に兵士が警備しており、犯罪もほとんど起こらない。厳重な社会制度で成り立っており
他国と比べて科学も発達している唯一の国である。
また、その美しい街並みや建築物は世界でも類を見ないと称され、白をを基調とした石造りの建物が並び、統一感のある景色が広がっている。
数百年前の歴史的建造物も多く残っている。
ジスティ王国を見下ろすように、崖の上で3人はなにやら話し合っている。
「ふむ、ではやはり私が行くことにしますか」
アズライトが何かを決めた様子で王国を見つめた。
「すまぬな、アズライト。ワシだと何を言われるか……」
「ころせー! 八つ裂きだー! 火あぶりだー! って?」
ルチルは笑いながら、空中をふよふよしている。
「ルチル、やめなさい」
「はーい! じゃあ、待ってるねー!」
ルチルはアズライトに可愛く手をぶんぶんと振りながらアズライトを見送った。アズライトは崖の上を器用に降りていくと
そのまま何事もなかったかのようにジスティ王国の門まできた。
「こんにちは、観光で滞在を希望します!」
好青年にしか見えない真っ白い歯で、いつもとは違う陽気なアズライトは元気よく門兵に声をかけた。腰にいつも帯刀している剣はルチルに預けている。
「どうも、身分証はありますか? 何処から来ましたか? 所持金は?」
門兵は感じのいいアズライトに身構えることもなく、上から下までしっかりと目で確認すると
テンプレ通りの対応をした。銀色の甲冑を着込んでいるものの、物腰は柔らかく、ジスティ王国ならではという感じを受ける。
「えっと、こちらです! いやー凄いですね! 噂に聞くジスティ王国はこんなにも綺麗だなんて! ワッハハー!」
この姿をルチルが見ればきっと大笑いするだろう。アズライトはオストラバ王国の騎士時代に作ってもらっていた偽造の身分証を持っていた。そこにはオストラバ王国で
鍛冶屋の見習いをしているという、ちゃんとした判が押されている。
もっとも、この偽造所もオストラバから追われている身としてはバレている可能性もあるので、内心はドキドキしていた。門兵はじっくりとその身分証と
アズライトを見比べる。
「いやいや~! こちら様の技術を少しでも勉強したくてですね!」
真っ白い歯を輝かせて腰に手を置いて少しでも怪しまれないようにしている。これがアズライトの思い描く好青年。
「ポルンカさん、あなたの所持金は?」
「はい?」
「あなた、ポルンカさんですよね?」
危ない、そうだ、身分証の名前ではポルンカだった、と焦りながらも、聞こえてなかったフリをして所持金を見せた。多いとはいえないが、観光程度では十分に余るぐらいのお金は所持している。
「宿は決まっているんですか?」
「はい! ファベルさんと約束しています! 鍛冶屋の懇親会で意気投合しましてですね!」
「なんだ、ファベルさんの知り合いですか。身分証も問題ないようだし、大丈夫ですよ」
「いやー! 良かった良かった! スムーズが一番!」
門兵はアズライトに身分証を返却した。そのままポルンカこと、アズライトが城内に入ろうとしたとき――
「念のため、私も着いていきますので」
やばい、やばい、やばい、とアズライトは内心焦りまくりの焦りまくりだった。心の中までもポルンカという人格に支配されたように
語彙力を失って冷や汗をかきはじめた。
「大丈夫ですか? なんだか歩き方がぎこちないようですが」
ファベルとは実際にインザームの旧友である。魔族に襲われ祖国を失った後でも、手紙等でやり取りを取るほどの中であった。唯一信頼できる仲で何の問題ないようにも思えるが
アズライトはファベルと会ったことはない。
「いやー! 綺麗だなって! 思って! もう街が凄くって!」
そのため、対面したときに「誰ですか?」とファベルに言われてしまえば終わりである。なんとか、話の途中でインザームの名前を出すしかないと
決意を固めながら、綺麗な街並みを歩く。その白を基調とした建物をゆっくりと眺める余裕はポルンカ、いやアズライトにはなかった。
「ここですね、この時間ならいらっしゃると思いますが」
綺麗な白を基調とした青の横じまが入った一軒家のドアをトントンと門兵がノックした。玄関には色とりどりのお花が並べてある。インザームいわく、ファベルなる人物はとても心優しく
誰にでも好かれるらしとのことで、その人となりがわかるような家をしていた。
だが、アズライトはどうにかこの現状を打破しないといけないと覚悟を決めている。
「はい」
ドアが開くと同時にファベルの姿が見える。この時、アズライトは予想外の出来事で更に固まった。




