第48話:望んだ再会
「……ふん。儂はお前を知っておるぞ。傭兵のロック・フォーゲルだな。 意地汚い剣士気取りが、卑怯な手をつかいよって」
「その言葉そっくり返すぜおっさん。 魔法を使えなくして無抵抗な人を殺すつもりの当てが外れて焦ってんのか? 目的はなんだ?」
老兵がロックに吐き捨てる様に悪態を突いた。それを聞いたアイレがロックの代わりに老兵に言葉を返した。
それから老兵は考えてから口を開いた。
「……エルフは人ではない悪魔の手先だ。さてはお前等全員アゲート・シュタインに雇われたな。エルフを殺さない様にと最後まで足掻いて諦めたかとおもいきや
こんな罠を嵌めるとは、あやつめオストラバ王国に逆らうつもり」
「……アゲート・シュタインが足掻いてただと? どういう事だ?」
老兵の口から出た言葉はアイレ達にとって驚くべき事であった。この話しぶりからアゲート・シュタインは黒幕でないように思えるとアイレは疑問に抱いた。
「……ふん。見え透いた芝居をしよって」
「……思い出したわ。あなたレクルド・スウェーゲンね」
「知ってるのか? フェア」
「勿論だわ。エルフで知らない人はいない。あなたはエルフを悪魔の末裔と罵り、大勢の人を洗脳してエルフを葬り去った。その罪を償ってもらう」
フェアは老兵の正体を思い出すと吐き捨てる様に激怒した。他種族撲滅運動の過激派の中でも多くのエルフを虐殺したのが、このレクルド・スウェーゲンという事を。
殺気と共に魔力を高めると、片耳がピンと伸びた。それを見てレクルドが気付く。
「……ハーフエルフの混じり者が。エルフにも人間にもなれない貴様はこの世界に生きてる価値はない」
「黙れ!!!!!!!!!!!!!」
レクルドがフェアにそう吐き捨てるとフェアは我を忘れた様に魔法を詠唱しはじめた。その隙を逃さずレクルドは剣を振りかぶった。それに呼応してレクルドの部下も反応する。それに対してアイレがいち早く前に出てレクルドの剣を受けた。
「エルフに洗脳された哀れな人間め!」
「黙れ! お前は人間ですらない!」
レクルドはアイレに剣を捌き切られた瞬間に後方に飛んだ。その時、レクルドの部下の一人が魔法を詠唱した。
「レクルド様!」
名前を呼ぶと同時にレクルドとその部下の二人の姿が瞬時に消えた。残った部下はロック、ワイズ、ミットがいつのまにか殺していた。心臓を一突きで声すらあげれなかった様だ。
「ちっ逃がしたか!」
「ごめんなさい。私のせいだわ……」
アイレが悪態をついて、フェアは怒りを抑えられなかった様でレクルドを逃がしたと後悔した。
「いや、大丈夫だ。遠くへ逃げれる程の魔法は使えないはずだ。外に出よう」
すぐにロックが全員に言った。右手の剣にはレクルドの部下を殺した血が滴っている。それを見てアイレは少し動揺した。
人間同士の本格的な戦い初めてだ。
直ぐに全員で外に出ると、そこは火の海の戦場になっていた。予め作戦に組み込まれていたとはいえ、想定以上な状態であった。だが、そうでもしないと
魔法が使えないエルフ達の勝機はなかった。
魔法を使えないエルフ達は剣と盾を取り己の力で戦っていた、出来るだけ近距離で戦う事で魔法の援護をさせないようにしていた。グレースは魔法で具現化した矢を使って
出来るだけ後衛を狙っていた。 レクルドが指揮を取れていない事、魔法は使えないという事で油断していたのか相手も混乱していた。
「レクルドを探すのは後だ。まずは相手の魔法使いから狙え!」
ロックが全員に指示を出して、出来るだけ後ろから回り込むと魔法使いを狙って攻撃を繰り出した。グレースはロックの動きに気づくと
ありったけの魔力で魔法の矢を具現化して矢継ぎ早に放ち続けた。
指揮官を失い、事前と違う情報によってオストラバ王国の手練れは意外にも脆くロックの言う通りに次々と倒れていった。そしてアイレも
人としての感情を押し殺しながら、考える事をあえて停止する様に戦った。
――考えるな。考えるな。考えるな。やるべき事をやるだけだ。
圧倒的とは言えないが、間違いなくこのままいけばアイレ達の勝利は間違いと思った時。森の奥からレクルドが現れた。
フォンダトゥールを人質に取りながら。
「フォンダトゥール!!」
フェアがいち早く気づくと叫び、エルフ達もフォンダ様と声をかけた。
フォンダトゥールはこの集落の長であり、誰もが信頼している親の様な存在であった。その命はエルフの誰よりも重く尊い。
全員の動きが止まった。
「やはり、こいつが長か。武器を捨てろ。 儂は容赦はせんぞ」
そう言うと、首に剣先をめり込ませた。血が少し滴り、更にそれを見てエルフ達は動揺した。一人、また一人と武器を捨てた。
「傭兵如きが小癪な作戦を立てよって。だが、戦場では弱みがある方が負けだ。大人しくすれば人間、お前達は助けてやろう」
レクルドはアイレ達を見ながら静かに言った。
――ちきしょう。まただ。また助けられない。
「早く捨てろ!!!!!」
レクルドの激怒した叫びに呼応して、ロック達は全員武器を捨てた。
「ハーフエルフの小娘。まずはこいつからだ。お前等、早くしろ!」
レクルドの部下がフェアを掴んだ。
「やめろ!」
「黙れ小僧! フォンダトゥールがどうなってもいいのか?」
――俺は……俺は!!!
「早く殺れ!」
レクルドがそう言うと、部下は剣をフェアの首に向かって振りかぶった。その瞬間、アイレの右手と左手にダンジョンの武器が出現した。手にビリビリと感じ取った瞬間
アイレは脳に信号を送る時間の猶予も与えないまま体を動かすとレクルドの部下の首を落とした。
それに気付いて、他のレクルドの部下も声をあげた。エルフ達でさえも。
「な! 貴様よくも!!!! 死ね!!!」
レクルドは気付いた瞬間にフォンダトゥールの首を切り落とそうと力を込めた。ダンジョン武器を持ったアイレでさえも間に合わない距離であった。
それでも助けようと急いで動いた
レクルドの剣はフォンダトゥールの首を落とした。
と、誰もが思った時。
後ろから現れた男がレクルドの首を一撃で落とした。
レクルドの首はころころと転がり、部下の前で止まり全員が叫び声をあげた。血が噴き出し、そのままレクルドの体は倒れた。
その男の姿を見て、アイレとフェアは声すらあげれないほど驚いた。
銀色の甲冑を着込み、青く魔力に満ちた長い剣。綺麗な金色の短髪に
透き通った青い目が懐かしく思える。
アイレがこの世界に来てずっと会いたかった人物の一人
フェアがずっと忘れられる事ができなかった人物
ヴェルネルがそこに立っていた。
 




