第46話:大切な居場所
「お前等全員動くな」
木の枝に乗っている男女6人のエルフの一人がアイレ達に警告した。禍々しい魔力が漲っている掌には殺気も籠っている。唯一ロックだけはその状況でも
冷静に分析を欠かさなかった。有事の時は全員に細かい指示が出せるように廻りの状況にも気を配っている。その時フェアが
「待って。私はハーフエルフのフェアビンドゥング。フォンダトゥールに名前を伝えてくれたらわかるはずよ」
フェアは両手を挙げながら、敵意がない事を示して耳を見せながら自身の名前を叫んだ。その言葉を聞いて、数名のエルフが
「なんで知ってる!」
「混じり者か」
「裏切者め」
フェアを見ながら明らかに嫌悪感を露にした。しかし、全員動くなといったエルフの男が口を開いて
「……フォンダトゥールはここにはいない。大人しく帰れ」
「そうだ。この混じり者が! 殺すか?」
「きっと私達を狙いにきたのよ!」
そのエルフ達の言葉に緊張が走った。その時アイレが
「聞いてくれ。ここに大規模な襲撃が来るという話を聞いて俺達は伝えに来た。敵意はない。フォンダトゥールという人がいないなら、ここの長と話がしたい」
「……襲撃についてはお前等に言われる筋合いはない、とっとと帰れ!」
「そうだ! 混じり者と人間の話など信用するに値しない!」
アイレの言葉にエルフは耳を貸さず、更に激怒した。それを聞いて更にフェアが
「本当よ。ここにいる人間も私もあなた達の味方よ」
「黙れ!! お前等の言う事なんか信じられるか!」
一人の男のエルフがフェアに魔法を放とうと魔力を集中させた。先程とは比べ物にはならない程の殺気が溢れ出る。ここでロックとアイレが同時に心の中で
――やるか
――戦うしかないのか?
そう思った時。
「ベル、やめなさい」
前方から別のエルフが現れた。エルフは人間と比べ遥かに長寿で常に若々しく保っている。だが、寿命が近づくと急激に年老いる。
そして現れたエルフは老婆だった事から、命がもう長くないとフェアだけが理解した。
「フォンダ様!? なぜここへ!?」
激怒していたエルフ達はこの老婆が姿を現した事の驚きと心配した表情を浮かべている。
「フェア。久しぶりだね」
「……フォンダトゥール……なの?」
「そうだよ。こんな姿で悪いわね」
フェアが最後に会った時はフォンダトゥールは若々しかった。老婆となりすっかり変わり果てた姿に驚いたが、フェアはゆっくりと近づいて抱き着いた。
まるで娘が母に会うようなそんな姿に見える。
「ごめんなさい。言いつけを守れなくて……ここに大規模な襲撃が来ると聞きました」
フェアがそう言うと、フォンダトゥールは森の奥へアイレ達を案内した。激怒していたエルフ達の矛は一時的に収まったが
とても歓迎されているとは思えないままであった。
森の奥には木で作られた家が6つほど存在した。近くには大きな巨樹があり、その下には透き通った湖がより神秘的な雰囲気を醸し出している。アイレはそれを見てインザームとの家を思い出した。
ロック達は見た事もないエルフの集落に驚きながらも、警戒は解かなかった。
その家の中の一つにアイレ達を招き入れた。木の扉を開けると中には見た事ものない魔法道具や木で統一された綺麗な家具が揃っていた。フォンダトゥールの趣味なのか、ミシンの様な物が置いてあり
綺麗な刺繍のスカーフや絨毯やカーテンが家に散らばっている。ベルと呼ばれたエルフの男も一緒に中に入ってきて扉を閉めた。
そんな中でグレースだけは心の中で売ったらいくらするんだろうとやましい事を考えつつ
「散らかっていて悪いね。実は襲撃の事は視えていたからね。知っているよ」
「視えてるって……じゃあなんで!? どうしてここから逃げないの!?」
「ここは大切な家だからね。昔と違って今は外で生きられる事も知ってる。でも、私達にはここは特別なのよ」
「そんな……。 一体どこまで視えているの?」
「……昔ほど鮮明に視えないけどね……フェア。あなたが来るのは知ってたわ。それに大勢の甲冑の兵士が来る事も」
フェアとフォンダトゥールはアイレ達にはわからない言葉を話していた。視えるという単語が飛び交う。
「だったら逃げないと! きっとそれが襲撃犯だわ。今ならまだ間に合う!」
「……黙って聞いてれば勝手な事を言いやがって。お前みたいなハーフエルフにこの場所の大切さはわからないだろう!」
ベルと呼ばれたエルフの男がフェアに対して明らかに激怒していた。続けて
「いいか? ここは俺達の家だ。何もせず尻尾を巻いて逃げるなんて臆病者がする事だ。それに俺達は人間如きに負けはしない」
ベルの返しにフェア以外は少し納得している部分もあった。攻められるからといって無抵抗で故郷を捨てるなんて誇りなんてあったもんじゃない。
「ベル、やめなさい。 フェアは私達を心配しているだけ。 ……ねぇ、フェア。私達エルフは昔に比べて遥かに弱い生き物になった。
人間が木を伐採し、自然を破壊する事で精霊達はここ数年でかなり減少したわ。 ここは私達にとって数少ない安心できる居場所なのよ」
「でも……だからって危険を冒してまで……」
「……俺が口を挟む事じゃねえかもしれねぇが、安心できる場所ってのは誰にだって大切だ。その気持ちをわかってやりな」
ロックが申し訳なさそうに間を入った。そこでアイレが
「……正直俺はエルフの事は全然しらねぇ。襲撃を仕掛ける連中の理由もわかんねえし、ここへ来たのも俺はフォンダトゥールに聞きたい事があるっていう自分勝手な理由だった。
でも、今はそれだけじゃない。 フェアはここを大切に想ってる。 だったら俺も手を貸すぜ」
「……お前等人間は信用できない。例えフォンダ様と知り合いだったとしても、敵ではないという証拠にはならない」
ベルは一貫して態度を変えないままアイレ達を冷たい目で見ていた。
「フェア、そしてあなた達の気持ちは大変ありがたいわ。 でも、これは私達の問題よ。危険な目には合わせられない。直ぐにこの森から離れなさい。
それに残念ながらあなたが聞きたいダンジョンについては私も何も知らない。ごめんなさい」
フォンダトゥールはアイレが何も質問していないにも関わらず答えを言った。視える 視えない という発言も関係している様であった。
「一番無関係な私がハッキリ言うけど、逃げるのってそんなに悪い事じゃないわよ。 私は逃げて逃げて今ここにいる。で今が一番幸せだし、自由を感じてる。
だけど、時には戦わないと行けない時もあった。 その時は我武者羅に戦ったし、自分の身を守る為には汚い事もたくさんした。だから、私はどっちも間違ってないと思う」
グレースがその場にいる全員に気持ちを込めていった。エルフのベルもフェアも静かに聞いていた。
「……フォンダトゥール、それなら私は何という言おうとここへ残って一緒に戦うわ。……アイレ。あなたとロック達は最初から無関係だし、これ以上迷惑はかけられないから。ここでお別れしましょう……」
「俺は確かに無関係だが、フェアが残るなら俺も一緒に戦う。これは俺の意思だ」
「俺達もプロだからな。受けた仕事は最後までキチンとやるぜ」
「私もよ」
「俺もだ」
「ああ」
「僕も」
アイレとロック達が頼もしく言った。
「……ありがとう」
それを聞いてフォンダトゥールは目に涙を浮かべながらお礼を言った。その直後
エルフの集落を覆う様に大規模な結界が瞬時に張られた。感知能力の高いフルボとフェアでさえも気づかない程瞬時に。
「これは……古代禁忌魔法の結界……」
全員が騒めいている中でフォンダトゥールが唯一その魔法を知っていた。
「……フォンダ様! これは一体?」
ベルが怯えるように叫んだ。
「この結界の中では私達エルフは魔法を使えない」




