第44話:仲間
ロックは出来るだけ苦しめない様に一撃でカナリアを楽にさせようと思った。気絶させる事もできたが、一刻も争うこの状況で
そんな暇はないと判断した。 アイレ以外は誰もそれに気付いていない。
――すまねえ、嬢ちゃん。
しかし、それに対してアイレはロックの殺気に気づいた。誰よりも早く動かないといけないと集中力を見せた時に右腕にピリピリと電気を感じた。
ダンジョンでフェアを助けた時と同じだ。
「ロック!!!!」
アイレは叫びながら、人間の限界を超えた反応と速度ででロックの剣を弾き飛ばした。右手にだけ、あの時と同じ短刀を持っている。ビリビリと電気で光っていて
それがアイレの全身を伝っている。
「――ごめん」
アイレはそう言うと、カナリアの額に手を当てると、体に伝っている電気を流した。カナリアはそのまま眠るように気絶すると強制的に魔力が閉じた。
そのおかげで大勢の魔物は標的を見失った。大きな雄たけびを上げた直後、どこかに消え去っていった。
アイレ達全員は息を止めるかのように静かにしていたが、魔物が消えた事を見計らった様に深い息を吐いた。すぐ近くにグレースと子供の姿も見える。
「た、たすかったのか?」
「そ、そうみたいじゃの……」
村人と村長がそう言うと、母親は直ぐに子供に抱き着いて抱えた。グレースに何度もをお礼を言って涙を流した。ミック、フルボ、ワイズ、フェアもようやく安堵して体の力を抜いた。
その時、ロックがアイレに近づいてきた。
「……すまねぇ。俺のしようとした事は許されるもんじゃねえな」
「いや……俺も最後まで何もできなかった。後で一緒に……カナリアに謝ろう……」
村人は歓喜していたが、ロックとアイレはあまり嬉しそうではなかった。一人を犠牲に全員の生存を選んだロックと
最後のロックの行動でようやくそれを理解できたアイレは後手に回った自分を責めた。
だが、結果として全員が無事でスタンピードを切り抜ける事ができた。
町へ行く途中にカナリアが目を覚ますと、アイレとロックは心底申し訳ない表情をして真摯に謝罪をした。カナリア本人はまったく気づいてなかったが
「大丈夫ですよ! 全員無事だったんですし、私もロックさんの立場ならそうしてたかもしれません。 アイレさんも私を助けてくれてありがとうございます!」
「……つええな嬢ちゃんは」
「ありがとう」
「いえいえ! 私……夢ができました! お二人の様に人を守れるようになりたいです!! お父様が許してくれるかわかりませんが、自分なりんがんばってみたいです!」
カナリアはくったない笑顔を浮かべて、アイレとロックを安心させた。か弱そうに見えたとしても、人は見た目だけではわからない強さを持っている。
それから全員で近くの小さな町まで歩いた。ベレニやヴルダヴァほどではないが、それなりに人もいてようやく全員が安心もできた。すぐにこの土地の領主様に伝えると
護衛兵と共に後日村まで送ってくれる事になった。
スタンピードの原因はやはり誰にもわからず、過去から現在に至るまで解明できないこの世界の謎の一つだったが、セーヴェルやユークといったここ最近の出来事も関係している様な気がアイレもしていた。
ロック達は追われてると言う事もあり、話を個そこそこにすぐに消えたがアイレ達と同じく疲れているので、一日だけ滞在してすぐに出るとの事であった。その前にまずは酒屋だな。と嬉しそうに言うと全員で酒場に消えた。
アイレとフェアは傭兵の体力と精神力の凄さを知った。二人はクタクタだったので、直ぐに宿を決めると倒れ込むようにベットで横になると直ぐに眠った。
ダンジョン武器が出現した事について少し話し合ったが、やはり窮地に追い込まれるのがトリガーではないのかと結論づけたが、再び手にする事はできずじまいだった。
翌日の早朝、アイレとフェアがエルフの森の集落に向かう為に東の門を出ようとした時にロック達が声をかけてきた。
「よぉ。こんな早くからも行くのか」
「ああ。やらないといけない事があるからな。昨日はおかげで助かったぜ」
「そうね、ブレスレッドの件はチャラにしてあげる」
アイレとフェアが嬉しそうに答えた。ロックがいなければ生存出来ていたかどうか怪しい。それからロックが少し悩んだ表情を浮かべてから口を開いた。
「……答えたくなきゃいいが、もしかして東の森のエルフの集落に行くのか?」
突然のロックの質問にアイレとフェアは驚いた。フェアいわく、東の森のエルフの集落は同族でしか知らない情報であった。
だが、ロック達が他種族撲滅運動の生き残りあれば調べている可能性もゼロではないとフェアに緊張が走った。 二人の無言の答えにロックは続けて
「……俺もお前等には感謝している。俺達だけではきっと生き残る事は出来なかっただろう。だからこそ忠告しておきたい
エルフの集落に他種族撲滅運動の過激派の生き残りが襲撃する情報がある。それもかなり大規模だ」
「な……なんですって!? どうしてあなたがそれを知っているの!?」
ロックの発言にフェアは今までにないくらい感情を高ぶらせた。
「俺達は元傭兵だ。領主殺しとして追われる前に情報屋からその話を聞いた」
「何て事……。それはいつの話?」
「俺達が追われる前だから……ちょうど一週間ぐらいだな。集落の場所は詳しく知らねえが、準備と大体の距離を考えると襲撃は今日か……明日か……」
ロックは申し訳なさそうにフェアに話した。実はロックとグレースがフェアを初めて見た時にエルフだと思いびっくりしたのには訳があった。エルフの森の集落と関係があるのかと思ったのと、精霊魔法を使えるエルフに対して警戒したのだ。
「大規模ってどのくらいなんだ?」
アイレがロックに聞いた。
「国のお偉いさんが動いてるとの話だ。秘密裏に調べたが……アゲート・シュタインって奴が指揮を取っているらしい」
「アゲート・シュタイン!?」
「シュタイン!?」
アイレとフェアが同時に驚いた。ページ・ルイウスから聞いていたアズライトの父親の名前だ。アイレが続けて
「もしかして、3人(アズライト、ルチル、インザーム)が逃げた事に関係してるのか?」
「どうだろう……だったら、東の森のエルフ集落に3人がいるかもしれない……今はとにかく早く急がないと!」
アズライト、ルチル、インザームがオストラバ王国から追われる事になった一週間後にエルフの集落を襲撃するなんて完全に無関係だと思えなかった。しかし何よりも同胞の身をフェアは案じた。
「水を差すようで悪いが、アゲート・シュタインはオストラバ王国でもかなり有名な奴だ。お前達の強さは認めるが、二人でなんとかなるとは思えねえ。
悪い事は言わんが……無理はするなよ」
ロックは本音で心配した。アゲート・シュタインはオストラバ王国の中だけではなく、アズライト同様、騎士として名が売れている。傭兵であるロック達がその名を知らないわけがなかった。
そしてアイレは考えた。ロック達が来てくれれば……と。
「……ロック。俺達が依頼したら一緒に着いてきてくれるか? 勿論、事と場合によってはアゲート・シュタインと戦う事になる。 報酬は……俺の持ち金、全部だ」
アイレの発言にフェアは驚いた。そもそも、東の森のエルフの集落は同族しか知らない情報だが、今はそんな事を言っている場合ではない。 それを聞いてフェアが
「いや……これは私達エルフの問題よ。あなた達が来てくれればなんとかなるかもしれない……報酬は……このブレスレッドをあげるわ」
「……」
ロックは仲間の事を考えた。傭兵とはいえ、明らかに分が悪いかもしれない賭けにのるべきかどうか。その時
「いいよ! 私は構わないよ。 種族が違うからって理由で差別する奴らは吐き気がする」
グレースが言った
「ああ、俺もだ」
続けてワイズが
「まぁ、俺は金がもらえるならなんでもいいぜ」
ミットが
「僕は……少し不安だけど、助けてもらった恩は返したいな」
フルボが
「……はっ。ということで俺を含めて満場一致だ。そうなりゃ詳しい事も含めて道中で話すか、まずは急ごうぜ」
ロックが頼もしく言った。
「よし、急ごうフェア」
「わかった。ここからならそう遠くはないわ。……急ごう!」
そしてアイレとフェア、ロック達は共に東の森のエルフの集落に向かう事になった。
アズライト、ルチル、インザームの姿はそこにあるのか。大規模襲撃はどうなるのか。それぞれの想いを胸に。




