第39話:交差する想い
アズライト、ルチル、インザームがオストラバ王国から追われる立場となってから、約二週間後、物語は再びアイレに戻る。
◇ ◇ ◇ アイレとフェアがベレニ城の王座の間でセーヴェルとユークと戦った翌日 ◇ ◇ ◇
アイレとフェアは北のセーヴェルとユークと戦い退けさせた事を大勢の兵士が目撃したのと、ラッセの進言もあり
二人の殺人容疑は撤回された。一転客人として迎えられ、ページ・ルイウスの帰国を待つ事になった。
フロードはあの出来事から部屋に籠り、アイレ達の前に姿を現す事はなかった。
その間にアイレはダンジョン武器を出現させようとしてみたが、何をしても手に短剣が宿る事はなかった。
そして翌日、ページ・ルイウスがベレニに帰国すると直ぐに王座の間にアイレとフェアを呼び寄せた。近くには大勢の兵士とラッセの姿も。
「お初にお目にかかる、私がこの国の領主のページ・ルイウスだ。 既にそなた達が息子フロードとこの国を守ってくれた事は承知しておる。
あんな息子だが……生きていて嬉しく思う。 よくぞ守ってくれた」
ページはアイレとフェアに領主とは思えない程低姿勢でお礼を言った。フロードについてはやはり思う節があったとはいえ唯一の家族だ。嬉しくないはずなかった。
「悪いが……俺はあんたの息子を守ったつもりはない。ただ、セーヴェルとユークってやつに聞きたい事があっただけだ」
「ちょっと……アイレ……」
アイレはハッキリとした物言いでこびへつらう事はなくいつも通りだった。フェアは囁く様にアイレに注意した。
「例えそうであったとしても物事は結果が全てだ。そなた達はこの私に仕えるつもりはないか? 今は世界が混沌としており、強者が必要である。
望むなら……騎士の名を与えよう」
このページの発言にラッセも驚きを隠せなかった。名もなき旅人に騎士の名を与える等ありえない行為だ。だがアイレは
「俺にはやらないといけない事、探さないといけない人がいる。この街にずっと滞在するつもりはないよ」
「……私も同意見です。申し訳ないですが、丁重にお断りさせていただきます」
アイレは頑固たる意思で、フェア丁重に断った。
「……そうか。残念だな。 だが、仕方あるまい。 もう行く先は決まっておるのか?」
アイレは言葉に詰まった。目的はインザームを探す事、それはこの世界においては反逆者を探す事になる。それを見てフェアが
「……アズライト・シュタインをご存じですか? 私達はその人を探しています。理由は言えませんが、とても重要な事です」
そして、ページ・ルイウスは外交で聞いたオストラバ王国での出来事を二人に伝えた。アズライト、ルチル、インザームが逃亡者として追われている話を。
約二週間前の話だ。
勿論、アイレもフェアは動揺を隠せなかった。
「ど、どういう事だ!? なんで3人が一緒に!?」
アイレはインザームが生きていた事に嬉しく思ったが、それ以上に3人が逃亡者として追われた事に驚いた。
「私にも詳しい理由はわからないが、オストラバ王国で轟音が鳴り響くと同時に魔物が城内に侵入すると、その隙に3人は城の宝物庫に忍び込み何かを奪ったそうだ。」
「……二週間前といえば、アレイ! ヴルダヴァ事件と同じだわ」
「オストラバ王国……そこに3人がいたって事か……何のために……」
「ヴルダヴァのみならぬ、メルニク街とスラニー街でも同じような事が起きている。 それも同日同時刻でな。 賊の目的は領主の首だ。
我がオストラバ国を除く、三つの国で既に領主は殺されておる」
ページの発言でラッセは静かに全てを理解した。二人を騎士として迎えたかったのは自身の護衛の為である。今世界中で何かが起きているとわかっていた。
腰を低くしたのにも意味があったという事だ。
「一体誰が何の目的で……」
アイレはイフリートの言葉を思い出した。「魔王様の初誕生」そして30年前から蘇ったセーヴェル達。ヴェルネルが関係してるとは夢にも思ってないが
全くの無関係ではないだろうとアイレも、そしてフェアも感じていた。
アイレとフェアはフロードと国を救った褒美にページから武器と防具を頂いた。アイレには短剣二刀と新たな防具。動きやすい様な軽装だが、上下はとても丈夫な布で出来ている。黒と茶色でアイレにとてもよく似合う。
フェアの防具は同じく丈夫な布で出来ていて、フェアの望通り下は白のハーフパンツで上は黒いシャツで動きやすくかつ、機能性を重視したデザインになっている。
どちらも魔力が通っており、防御力は格段に上がった。
フェアには邪魔になるからと武器は断った。だが、ページはそれならばと宝物庫から希少価値の高い魔法のブレスレッドをフェアに与えた。
これをつけていれば、魔法杖と同様の効果が得られる。 ルチルの様な生来のエルフはには魔法杖は必要はないが、ハーフエルフのフェアは魔法攻撃の安定性が増す事もあり
本来は武器を所持すべきだった。 だが、武器を携帯する事は他人に威圧感を与える。追われていた事もあり、必要以上に相手を警戒させない様にと今まで武器を持たなかったが、これならと頂いた。
その日はすっかり夜になってしまいアイレとフェアはベレニ最後の日を過ごした。ページが用意した部屋は居心地が良く、アイレにとって人生で最高の部屋となった。
横になっているだけで思わず寝てしまうシルクのベットとテーブルにはフルーツも置いてある。 幸せに浸りながらも、二人はこれからの事を相談した。
「インザームがアズライトとルチルと一緒に逃亡したって事はもしかして無実を分かってもらえたって事じゃないのか?」
アイレがフェアに言った。
「どうだろう……でも、その可能性は高いと思う。アズライトは私でも知ってるぐらい有名人だし、悪い噂は聞いた事ないよ。もしかしたら無実の証拠が出てきたのかも……」
アイレとフェアはインザームの無事を喜んだが、同時に困った事にもなった。インザームはアズライトの祖国で投獄されていると思っていたが、既にそこから逃亡しているという事。
二人はインザームを探す為にどこへ行けばいいのかそれがわからなかった。悩んでからフェアが
「……アイレ。ダンジョンの武器はあれから出ないんだよね?」
「ああ、魔力を操作しても何してもだめだ。あの武器がえあれば……きっとユークにもセーヴェルにも勝てたはずだ」
アイレは俯きながら言った。イフリートにも対抗しうる力を手に入れたと思ったのに。
「……ここから少し離れた東の森に私が大変な時に匿ってもらっていたエルフの集落があるの。そこに……フォンダトゥールという私が唯一信頼している人がいる。
物知りだから、何かわかるかもしれない」
アイレは少し悩んでから口を開いた。
「……セーヴェルとユークと戦ってわかったが、俺はもっと強くなりたい。その為にもあの武器が必要だ。フェア、案内してくれるか?」
「……歓迎はされないかもしれないけど、何とか頼んでみる」
そして二人はベレニ最後の一夜を過ごした。翌朝、アイレは街を案内してくれたクルルにお礼を言ってから街の東門に来た。ラッセは二人が出国する事を知って駆け付けた。
「アイレ、そしてフェアくん。本当にすまなかった、私はこの街を守る使命がある。何もできなくてすまない」
ラッセが二人に言った。
「そんな事ないよ。ラッセ、ありがとうね」
「ああ、俺達はヴェルネルとレムリ、そしてインザームの汚名を晴らす為に頑張るよ」
アイレ、フェア、ラッセが話している所にフロード・ルイウスが走って駆け付けた。
「……アイレ、フェア、本当にすまなかった。……もう遅いと思うが、僕は罪を償うつもりで今後は真摯にこの国を守って行くよ」
アイレとフェアを見てフロードは言った。その瞳には嘘なかった。
「……お前の事は許しちゃいないが、その考えは嫌いじゃないぜ」
アイレはそう言うと、フェアと共に東のエルフのへ森へ向かった。
目的はエルフのフォンダトゥールという人物に会い、アイレの武器を再び出現させる為に。
フェアもう顔を隠していなかった。全てに逃げずに生きて行こうと前向きになっていた。
そしてアイレとフェアがベレニ街を出国した二日後、ページ・ルイウスとフロードは何者かに殺害され城内で死体として発見された。




