第31話:新たなる敵
30年前レムリ討伐作戦の原因にもなり、クラドノ街壊滅事件を引き起こして死んだはずの北のセーヴェルが生前と変わらない若さでそこに立っていた。
ありえない光景にフェアは目を見開いて驚いた。
フェアとアイレと先ほど部屋で真相を聞いたラッセだけはセーヴェルが妹を殺された事により、感情の高ぶりで体内の魔力を抑えられず
街を壊滅に追い込んだと知っているが、フロードを含む、兵士達は謎の攻撃でセーヴェルはクラナド街と共に消えた歴史を信じている。
「セーヴェルだと? お前は30年前にクラドノ街と共に消えたと父上から聞いている。 嘘をつくな!」
フロードは勝手に扉を開けてこの場の邪魔をしたセーヴェルに怒っていた。アイレだけはイフリートの事を思い出していた。30年前に
死んで復活したという魔族。そして同じく死んだはずのセーヴェルが現れるのは何か関係がある。と 驚きながらも、手錠を外そうとゆっくりと機を伺っていた。
「あら、知ってるじゃない。 って……父上? あなた、ページ・ルイウスじゃないの?」
セーヴェルは否定せず、落ち着いた表情をしていた。兵士達は少し我に返ると警戒して武器を構え始めた。ここでようやくラッセは過去の記憶を辿りセーヴェルの姿を思い出した。
一度だけだが、戦場で魔物と戦う姿を見た事があった。
「……思い出したぞ……確かにお前はセーヴェルだ。昔……見たことがある。だが、どういうことだ? どうして歳を取ってないんだ」
ラッセは驚きながらも静かにセーヴェルに質問をした。
「女性に年齢を聞くなんて失礼な世の中になったのね。 そんな事よりページ・ルイウスはどこ?」
「お前に答える義理はない」
セーヴェルの質問にラッセは冷たく言葉を放った。すると、セーヴェルは掌を翳して一番近くにいた兵士に魔法を放った。
兵士に直撃すると内側から体が爆発して肉片が飛び散り、血と共に周囲に散らばった。
「わ、わああああああああああああ」「な、な、な、なんだああああああ」
兵士達は恐怖で騒ぎだし声をあらげた。
「ねぇ、あなたは知ってる?」
セーヴェルは別の兵士にゆっくり近寄ると、再び掌を翳した。
「やめろ!」
ラッセは叫んだ。兵隊は怯えながら口を開いた。
「ひ……い、いまはここにはいない……南のラードって国……にいるはずだ……」
「とんだ無駄足だったわね……まぁ、でも」
セーヴェルはフロードのほうに体を向けてから掌を翳したが、ラッセがいち早く守るように前に出た。フロードはその行動に驚きの表情を見せた。
「やめろ。このお方はこの国にとって大切な存在だ」
「ふーん、そうなの?」
ラッセはいくら悪逆の限りを尽くしていたとしても、フロードを命にかえて守ろうとした。ヒトラの死から変わってしまったフロードに対して情もあった上に
ページ・ルイウスの息子を死なせるわけにはいかないと思っていた。
しかしセーヴェルは変わらず掌に魔力を込めはじめた。そして更にラッセを守るようにフェアが横に立った。
「……やめて。セーヴェル、私はあなたの事を知ってる。 あなたはそんな悪い人じゃなかったはずよ。
一体どうしたっていうの!?」
「……あなたみたいな少女が私を知ってるだなんて嬉しいわ。……でもね、私は今でも自分の正義を貫いているだけよ」
セーヴェルはフェアの”悪い人”という言葉に初めて表情を曇らせた。ここでアイレもフェアの近くにきた。二人はまだ手錠を繋がれたままだ。
「おい……お前はあのイフリートの仲間か?」
アイレはアクアを殺したイフリートの事を思い出していた。30年以上前に復活したとなれば
絶対に関係しているに違いないと思った。
「……質問ばかりで面倒だわ。――砕け散れ」
セーヴェルは言葉を吐き捨てると同時に黒い渦上の魔法を一直線に放った。短い溜めの詠唱とは思えない威力が込められていた。
その瞬間、フロードは苦い表情をしながらアイレとフェアの手錠を解除する魔法の呪文を唱えた。アイレ達を守る為か、自分を守る為かそれはフロードにしかわからない。
セーヴェルの放った魔法は大きな爆発音をあげたが、フェアが急いで詠唱した魔法障壁に防がれた。大きな魔力を使用した事で片耳がピンと伸びている。
「……エルフか」
セーヴェルは思う様にいかない事でイラついた表情を見せ始めた。
「セーヴェルだったか? 俺もこのフロードってやつは正直死んでもいいと思ってる。
だがな、その前に聞きたい事がある」
「私も……あなたには聞きたい事がある」
アイレはアクアを殺したイフリートの事、フェアは30年前のグラナド街壊滅事件について、セーヴェルは何かを知っている。
「私は質問するのは好きだけど、されるのは大嫌いなのよ」
セーヴェルはそう言うと禍々しい程の魔力を体に巡らせた。その場にいる兵士達は恐怖で体が動かなかった。しかし
ラッセとアイレとフェアは真っすぐに目を反らさない。
その時、セーヴェルの後ろから声が聞こえた。
「んー? セッちゃんまだ終わってねーの?」
真っ白い髪の毛にあどけない顔をしたアイレ達とそう変わらない年齢の男の子がセーヴェルをセっちゃんと呼び
ゆっくりと歩いてきた。 片手には兵隊の生首を持っている。茶色の少し古めかしく思える服には返り血がついている。
その場にいるセーヴェル以外の人間は少年の姿をを見て恐怖した。軽々しい言動とは裏腹に残虐性を感じ取ったからだ。
「あら、ユーク。 ダンジョンはどうしたの?」
「なんかねー。もうクリアされたんだって。ムカついたから八つ当たりしちゃった」
ユークと呼ばれた少年は持っていた生首をセーヴェルに見せた。 その兵士はアイレも知っているダンジョンの前にいた門兵だった。
「……屑が」
ラッセは小さくぼいやいて。アイレとフェアに聞こえる様に声をかけた。
「アイレ、フェアくん、本当にすまないが、私は……フロードを守る義務がある。……ありえないと思うが……協力してもらえないか」
「……あなたの国を守る為なら」
フェアは自分の言葉を信じてくれたラッセが大切にしているこの国を守りたいと思った。信じてもらえた事が何よりも嬉しかった。
「フロードはどうでもいいが、俺もこいつらに聞きたい事がある。……それにいけ好かねえ」
アイレはイフリートとの因果をセーヴェルに聞こうと思った。更に無差別に人を殺している姿にも怒りが満ちていた。
「ダンジョンもなくて、ページもいないってなると、ほんと無駄足ね……。 あの奥にいる子供だけ殺したら帰りましょ」
「――はーいっ」
せーヴェルがフロードを殺そうとユークに声をかけると返事をした瞬間に、ユークがアイレと同じような速度で地を蹴ってフロードに一直線に向かった。が
ラッセがその通り道に剣を振りかぶった。ユークに剣は当たらなかったものの、足を止める事に成功した。
「へぇ。おっさんやるじゃん!」
ユークは嬉しそうな顔をしながらラッセに言った。
「お前の相手は俺がしてやるよ」
アイレはユークを見ながら言った。あの速度を見る限りでは自分が相手をしたほうがいいと瞬時に悟った。しかし
アイレの手にダンジョンのクリア報酬である武器はもっていなかった。魔力を高めても手元に出現する事もない。
――ダメか……
「えー、君の首なんか堅そうだし、あんまり好きじゃないなぁ。」
ユークはアイレの体をまじまじと見た後に軽く答えた。
「ラッセ。貸してくれ」
アイレはラッセに剣を借りて、ユークの前に立った。
「ちょっとは遊べるかな?」
ユークは子供がおもちゃを前にしているような表情でアイレに言った。ユークは見る限りでは武器はもっていない。
「お前ら、フロード様を連れて下がるぞ! すまん……頼んだ!」
ラッセはフロード直下の兵隊に声をかけて、すぐに後ろに下がった。フロードはアイレとフェアとラッセが自分を守ってくれている事に複雑な心境を持ちながら
奥の扉から逃げようとした。それを見て、セーヴェルは直ぐに魔法を放とうとしたが、フェアが前に出た。
「セーヴェル。あなたの正義は間違ってる」




