第27話：ダンジョンボス
アイレが叫ぶと同時に蛇が頭を伸ばして氷の柱をくねらせながら、アイレ達に攻撃を仕掛けてきた。
氷の柱を削り取りながら、三つ首は鋭い舌を伸ばすと鋭く突き出した。
「物理障壁」
フェアは前方を守るように物理障壁を展開して一つ目の首の攻撃を守る事ができたが、物凄い速度で二つの首はそれを横に回避すると
左右に挟み込むように再び鋭い舌を伸ばした。
左はアイレが短剣二刀で守り、右はフロードが剣を構えて守った。
「――ぐっ」 「――凄い――力だ！」
首が伸び切った所をフェアが魔法で切断しようとしたが、三つ首はそれを回避するように直ぐに戻りはじめた。
「――俺が囮になる！ 展開しながら――攻撃を首に合わせてくれ！」
アイレはそう言いながら、三つ首の蛇の真正面から距離を詰めた。フェアとフロードは左右に展開して隙を伺った。
三つ首の蛇はアイレを威嚇するように舌を出すと、首を伸ばして攻撃をアイレに物凄い速度で集中させた。
アイレはそれを素晴らしい反応速度で短剣を上手く使いながらも体を捻って躱して、首が伸び切った所で声をあげた
「今だ！」
アイレの声を同時にフロードとフェアは一つ目の首に魔法を集中させた。
「風《 ヴォン・》の刃《 ラム》」
「Couper《 コプター》！」
フェアの掌から風の刃が、フロードが振りかぶった剣の先から空気の刃がそれぞれ飛んだ。その魔法と同時に
アイレも二刀の短剣に魔力を集中させてながら剣を振り下ろして一つ目の首を切断した。
「よし！」
「やった！」
「……待って！」
首は切断された瞬間に水となり分解され、残りの二つの首が本体に戻ると何事もなかったかの様に切断された首から水が頭を形成して三つ首に戻った。
「ちくしょう！ こいつも凍らせないとダメなのか！？」
アイレが叫んだ瞬間に三つ首は更にそれぞれの口をあけて魔力を集中させた。それにフェアがいち早く気づく。
「アイレ！ 柱の裏に隠れて！！」
三つ首は、炎、氷、雷の攻撃魔法を口からそれぞれ吐いた。威力はそれほど高くないものの、真面に食らってしまえば大ダメージを負う程ではあった。
フロードはポケットから謎のクリスタルを握りしめ小さく何かをぼやいた。
アイレは三つ首から目を離さず、イフリートの魔力はこんなもんじゃなかったと考えた。このレベルに負けていたら
絶対に前には進めないと。
「一つずつ首を落とすぞ！」
アイレは二人に叫んだ。フロードはポケットから手を出して、剣を握り
フェアは魔法を展開しようと掌を翳した。
三つ首は隠れているフェアとフロードに対しても炎と氷の息吹を吐いた。フロードは避けきれずに左腕に火傷を少し負うと苦痛な叫び声を出した。
フェアは攻撃を柱を使いながら躱すとアイレに叫んだ。
「アイレ！私が援護する！ そのまま首を狙って！」
アイレは後方のフェアの声を聞きながら、振り向かずに再び地を蹴ると
三つ首に向かって跳躍した。 蛇は首を唸らせながらアイレの体を突き破ろうと研ぎ澄まされた舌を伸ばしたが
アイレはそれを躱しながら一つの首に乗った。
その瞬間、残りの二つの首がアイレを挟み込むように狙ったがフェアがそれを物理障壁で防ぐと
アイレが乗っている首に氷の魔法を間髪入れず放った。
その瞬間を逃さない様にアイレは氷漬けになった首を切断すると、首は再生されずに残り二つとなった。
「いけるぞ！ 諦めるな！」
双頭になった蛇は怒り散らかすと残った雷と炎の息吹をあたりかまわずまき散らした。３人はなんとか柱によけたが
攻撃の隙がない。
「フロード！ フェア！ 同時に出るぞ！」「わかった！」「……魔力が収まった！今！」
息吹が消える瞬間をフェアが魔力を感知して見計らい叫んだ。
アイレとフロードは同時に柱の影から出ると、左右に展開した。フェアは氷の魔法を再び唱えて放ったが
蛇はそれを躱した。
「……ダメ！ 避けられた！」
蛇は避けたと同時にフロードに対して首をひねりながら攻撃を仕掛けて、フロードは剣でそれを受けたが後方に勢いよく吹き飛ばされた。
気絶したようで起き上がらない。
「くそ！ フェア！ このあたり一斉を凍らせる事ができないか！」
「できるけど……それが最後の魔法になるとおもう！ 魔力がもう……」
度重なる戦闘によりフェアの魔力は底をつきかけていた。残りはあと一回。
「俺がなんとか隙を作る。 頼んだぞ！」
アイレは勢いよく飛び出して、炎と雷の息吹を躱しながら
器用に左右に避けて蛇の攻撃をかわした。 ダメージは与えれないものの、物理斬撃を与える事によって蛇は攻撃を手を緩めた。
「フェア！」
アイレが叫ぶと同時にフェアは残った全ての魔力を込めた。
「氷の道」
氷の魔法は大きな波の様なうねりをあげて蛇の頭を目がけて直撃したが、片方は避けられてしまった。
アイレは氷漬けになった首を切断したが、残り一つの首が一段と怒った様子を見せて金切声をあげた。更に魔力を向上させて
アイレを威嚇している。残りは雷の首のみ。
しかし、ここでフェアの魔力が底をついてしまった。
「……もう……魔力が……」
フェアは魔力を使い切ると膝を付いた。アイレはフェアを守るように前に立った
「フェア。後は俺に任せろ」
アイレはそう言いながら、いつもの短剣二刀流の構えを取った。体には炎と雷と氷が避けきれずにできた傷が刻まれており
血を流して火傷している。
「こんな所で負けられねえんだよ！」
アイレが動いた瞬間に蛇のは雷を一直線に吐いたが、アイレはそれを首を捻りぎりぎりで躱した。頬がビリビリと電気でひりつく。
そのまま目にも止まらぬ速さで連撃を繰り返して短剣に魔力を通わせた。蛇の頭は水の再生と破壊を繰り返しながらも悲痛な叫び声をあげていた。
「……凄い」
フェアは素直に賞賛の言葉をささやいた。過去にヴェルネルが魔物と対峙していた時の事を思い出した。
レムリとインザームの前に自らが先頭に立ちながらも敵を倒していく姿を。
その安心感をアイレの背中からも感じた。
「……アイレ。死なないで」
フェアは膝をつきながらもアイレの事を心配した。もう誰も死んでほしくないと思っているのはアイレもフェアも同じ気持ちだった。
「いい加減、消えやがれ！ 蛇野郎！」
アイレは休む事なく、連撃を繰り返して蛇の頭を破壊すると、胴体にも何度も攻撃を加えた。
雷を吐きながらのたうち回ると、魔力が底を尽きた様で蛇の再生が止まった。
そして最後にアイレは止めを刺すかのように魔力を更に集中させて、渾身の一撃を放った。
それが決定打になったのか、蛇の頭は大きな叫び声をあげて倒れるとまるで消えたかのように水の塊となってはじけ飛んだ。
「アイレ！」
フェアは一歩も動けないものの、アイレに対して声をかけた。アイレは肩で息をしながら、ようやく我に戻って三つ首の蛇を倒した事に気が付いて
後ろを振り向いてフェアを見た。
「やったぞ……フェ――」
フロードがフェアの髪の毛を掴んで首に剣を突き付けアイレ見ながら不敵な笑みを浮かべていた。
