第24話:残されたダンジョン
窓から木漏れる明るい日差しと鳥の鳴き声が聞こえるはじめると
アイレとフェアはほとんど同時に目を覚ました。無言でお互い着替えをみえない様に反対を向いて身支度を済ませると宿の下に降りた。
すると、クルルがもう既に二人を待っていた。
「お! おそかったな! 今日は武器屋と防具屋のいいところおしえるよ!」
「おーはやいな。クルル」
アイレはクルルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「お姉ちゃんも! おはよう!」
「……おはよう」
クルルはそういいながら、武器屋と防具屋が一緒になっている所をこれまた路地をくねくねしながら連れていった。
小舟に乗って移動する事もできるが、こっちのほうが早いとの事。
店の前に到着するとほかにもやる事があるから、今日はこれで! と アイレから200コルネをもらってまたどこかへ消えた。
「おう。色々みていきな! この店はベレニの中でも指折りだぜ!」
武器と防具のマークが入口に描かれており、中に入ると筋肉が盛り上がってとても強そうなお兄さんが店番をしていた。
装備なんて必要なさそうなほどたくましい。いい声をしているのが、余計に商売上手に感じる。
「えーと……短剣がもうぼろぼろで……あと服もできれば変えたいんだけど……」
アイレはクルルに見せたように短剣と服を見せた。
「こりゃ……短剣はもうだめだぞ。 ちゃんと手入れしてるか? それに服も破けまくりじゃねえか」
「手入れ……いつしたっけ……。 すまん」
アイレが商人と話してる間、フェアは武器と防具を眺めていた。魔法使いという割には杖等はもっていないと
この時はじめて、アイレは気が付いた。 ルチルも持ってなかったな……。と。
「なぁ、フェアはなにかほしいものあるか?」
商人がアイレに合うのを見繕っている時にフェアに声をかけた。
エルフは基本的に杖を必要とせず、掌から出る精霊の力を使って魔法を放つ。魔法の杖があると安定性と威力は増えるが
移動や利便性を考えるてフェアは所持していなかった。
「んー……特にないかな」
「ほかにいらないのか?」
フェアは少しだけアイレに遠慮していた。自らはほとんどお金を持っていなかったから。
「なぁ、おっちゃん。フェアに合う良い防具ってないか? ってお金足りるかな……」
「俺はおっちゃんじゃねえ。 ラルドだ。 選んでもいいが……何するかにもよるぞ。 もしかして二人も残されたダンジョンか?」
アイレはシェルが言っていた言葉を思い出した。一攫千金。武器。願う叶う物。
「残されたダンジョンって近くにあるのか?」
「近くも何も、この街の奥にある水の神殿がそうだ。 何人も挑んでいるが誰も攻略できてないんだ」
「そうなのか……」
アイレはそこまでダンジョンに興味がなかったが、ダンジョンの武器は気になっていた。
フェローが自分だけの強さを作れ と言っていたあの言葉。 確かに強い武器があればとは思っていた。
その時、店の中にクルルが入ってきた。
「よ! どうだった? ラルドもよっ!」
「おぅ。 調子はどうだ? 」
「まぁまぁかな。 この二人も俺が案内してやったんだぜ! 感謝しろよな!」
「お! やるじゃねえか! また飯おごってやるよ」
ラルドとクルルは仲良さそうに話していた。
「なぁ、クルル。残されたダンジョンについて知ってるか?」
アイレは気になっている事をクルルに聞こうとした。
「わかるよ! 水の神殿な!」
「その……宝ってなにかわかるか? 攻略したらもらえるっていう」
「噂されてるのは知ってるけど……本当どうかはわかんないよ。 100コルト!」
「よし!」
アイレはすぐにクルルにお金を払った。それを怪訝そうにまたフェアは見ている。
「えーと、耳かして」
クルルはなぜかアイレの耳を寄せるようにしてクルドに聞こえない様にいった。
アイレは驚いて、すぐにクルドに声をかけた。
「えーと……とりあえず武器は……一番安いやつでいいや。 防具だけ頼めるか?」
「なんでぇ。いいの選んでやろうと思ってたのに! おい、クルルお前なんか言ったか?」
「何にも~!」
クルルはこう、アイレに囁いた。
「俺が聞いたことあるのは、水の神殿にはちゃくちゃ強い武器が手に入るって」
アイレは服をクルドに新調してもらって、小汚い恰好からそれなりに恰好良く見える様な
軽装のマントに動きやすいブーツと手を守ってくれるグローブを安く売ってもらった。
フェアはずっと遠慮していたが、フェアにも防具を揃えてあげた。
ローブは絶対に外さないと深緑のローブはそのままだが、中には同じようなショートパンツと
純白の綺麗なシャツ。 二人とも魔法の付与が少し掛かっており、防御力は格段にあがったとラルドが言っていた。
安いという割には結構な値段だったので、アイレはしぶしぶお金をだしたが、相場からするとお得らしい。
アイレの所持金 宿+アイレ&フェアの防具代 - 残り23万コルネ
アイレとフェアとクルルが同時に店を出るとアイレはすぐにフェアに声をかけた。
「さっき、クルルから教えてもらったんだけどの残されたダンジョンにいってみないか? 強い武器が手に入るらしいんだ。
急がないといけないのはわかってるけど……。このままだと通用しないと思ったんだ」
アイレはアズライトとルチルとイフリートを思い出した。今すぐ強くなるのは正直難しい。だけど、強い武器があれば
アイレもそれなりに戦えるかもしれないと考えた。
「……ヴェルネルもレムリもダンジョンの武器を使っていたわ。 確かに……強かったけど、もし違ってたら?
それに攻略できるかどうかもわからない。 死ぬ可能性だって高いし、かなり危険な賭けよ」
「わかってる……。でも、出来る事は全部しておきたいな。これからもっと大変な時にきっと行って良かったなって思う時がくる気がする」
「……まぁ、いいけど」
「俺もあんまりほかはわからないから! 兄ちゃんたち無理すんなよ! 俺はそろそろいく!」
クルルはまたすぐに消えていった。妹のために働いているというのはまんざら嘘でもなさそうだった。
「よし、じゃ早速向かってみるか」
「先に言っておくけど、アイレが死にそうでも危険なら見捨てるわよ」
フェアが真面目な顔に忠告した瞬間にお腹がぐーと鳴った。
それを聞いたアイレが嬉しそうな笑顔を見せて
「そういえば何も食べてなかったし、フェアがそういうなら食べてから行くかー」
「ちょっと! 何も言ってないわよ!!」
フェアのお腹が再び鳴って顔を赤らめた。
「説得力ないな……」
そういいながら、アイレは前に進みはじめ、フェアは照れながら着いて行った。
「クルルにご飯屋さんも聞いとけばよかったな」
「私……知ってる所ある」
「え?」
フェアは真剣な顔をしてアイレにそう言うと
着いてきてとあるお店の前に連れていった。お店の看板には苺のマークが付いていて、いかにも女の子が好きそうに見える。
「ここ?」 「……ここ」
アイレが聞いて、フェアが答えた。店内は涼しくなっており、心なしか女性が多いように見える。
「はい、おまちどうさまぁ~!」
若くて綺麗なお姉さんがアーモンドミルクと蜜などで甘味をつけて更に苺がたっぷりと使ったこの店一押しのデザートを持ってきてくれた。
フェアは静かな声でハッキリとこれが食べたいとアイレに頼んだ。
「これが食べたかったのか?」
「……悪い?」
「いやいいけど」
フェアは真顔でそういうと、デザートを木のスプーンで口にいれると今まで見たことのない笑顔をした。
その顔は少しレムリに見えて、アイレは微笑んだ
「おいしい……なに?」
「いや、フェアも女の子だなと思って」
「……レムリ達とここへきてお腹いっぱい食べた思い出があるのよ。 あの時は本当に楽しかったし、おいしかった。 インザームも食べてたよ」
「これを……インザームが……」
白い髭が絶対汚れただろうなぁと思いながら、アイレもぱくぱくとおいしそうに平らげた。
結局、フェアはあれから3杯もおかわりをして最後はアイレがお金を出した。フェアはお腹がいっぱいになってから少し恥ずかしそうにしていたが
嬉しそうでもあったので、アイレは茶化す事もなく店を出た。
「ありがとぉ~!ございましたぁ~!」
「想像してたご飯とは違ったけどお腹もいっぱいになったし、行くか!」
「……ありがとう。 でも、危険なら本当に見捨てるからね」
フェアは口に苺とクリームを付けながらまたお礼と忠告をした。
アイレはそれを見て、フェアに口に何かついてるぞとジェスチャーをしてまた顔を赤らめた。
二人はそれから、水の神殿の場所を聞きながら向かった。このベレニの街では有名らしいが
誰も攻略ができずに挑戦するのは久しぶりだとの事だった。 それ故に死人の数も多く、危険も高いとの事だった。
街の奥底に行くと小さな橋があり、そこを渡った先にあるとのことで
アイレとフェアがそれを渡ると神殿の入口前にダンジョンを守る門兵が立っていた。
「君たちは……挑戦者か?」
「そうです」
門兵がアイレに問いただして、アイレが答えた。
「知っていると思うが、ダンジョンの攻略は冒険者ランクがC以上のみだ。 君たちは……?」
「Cです。そういえばフェアは?」
「私も」
冒険者達はランクに応じたギルドの紋章が手の甲に記される。魔力を少し込める事で紋章が浮かび上がり
その文字が身分証代わりとなる。 アイレとフェアは手に魔力を込めて、手を翳して見せた。
フェアはヴルダヴァ討伐時にアイレの知らない所で強い魔物を多く倒していた。
その功績を称えられていて、あの討伐時に同じくランクがあがっていた。正し、フェアは目立ちたくないとの事でランクアップは静かに行われた。
「なら問題はないが、このダンジョンは死人が多く出ている。難易度も相当高いが……二人で大丈夫か?」
「たぶん……。そういえばダンジョンについて詳しくわかる事はないんですか?」
アイレは不安そうな表情をしながらレムリの顔をちらちらと見て、門兵に質問を投げかけた。
フェアは特に不安そうな顔はしていない。
「各ダンジョンにはあまり共通性はないんだ。 単純にモンスターを倒したりもあるが、複雑な謎解きの場合もある。
それにダンジョンは入る度に試練が違う。 下手な先入観を持たないほうがいい。 とにかく死なない様にな」
「例えば途中で出る事はできるんですか?」
アイレは一番心配していた事を聞いた。怪我をしたり、続行不可能だと思った場合に
脱出できるかどうかは一番気にかかる事だった。
「ダンジョン内ではいくつか脱出の道具や場所があると聞いている。 基本的には下へ下へ行く事になると思うが
階層事の試練をクリアする事に脱出するか進むか決める事もできるはずだ。 と言っても俺は危険すぎて行った事はないから、聞いた話になるが……」
「なるほど……」
なかなか一筋縄ではいかなそうな内容だった。フェアは横で静かにそのやり取りを聞いていたが
今から命の危険があるかもしれないとは思えないほど平常心だった。
「その先にある入口の水色の水晶に二人で手を合わせて魔力を込めれ場一緒の場所に行けるはずだ。 ……無理はするなよ」
「ありがとう! フェアいこうか」
アイレは門兵に道を通してもらい、先に進んだ。水色の四角い門の様な入口の先に
水晶だけがぽつんと腰の高さに不思議に浮いている。
「これか……」
アイレは水晶の前に止まった。
「フェア。準備はいいか?」
「私はいつでも大丈夫。 ダンジョンについては私もよくわからないから、役に立つかはわからないけど」
アイレは水晶の上に手をおいて、フェアもそれに合わせた
「よし。じゃあ、いくぜ!」
アイレとフェアは魔力を込めた。何も起きないと思った数秒後に突然転送が始まり
気が付くとアイレは水中にいた。
「な――なんだ――gtyふじこlp;@:――」
アイレは予想だにしていない出来事にびっくりして息を止める事もできずに水の中で叫んでしまった。
手で掴める様な取っ手もなく、アイレはもがきながら沈んでいく。
急いで周囲を見渡してもこの場所がどこなのか、出口はあるのかもわからない。フェアも見当たらない
アイレは水中の中でもがきながら段々と深い底へ沈んでいった。落ちても落ちても、地面には辿り着かない。
―――死んで――しまう――――




