第19話:正義と悪
――――――インザームがルチルの魔法攻撃で跡形もなくアイレの前から消えた日。ヴルダヴァ襲撃事件の約10日前。
「おじいちゃん。ばいばーいっ!」
ルチルはその軽い言葉とは裏腹に、姿が見えなくなるほどの漆黒の魔法を瞬時に出力するとインザームに向けて放った。
それから、インザームはルチルの魔法で消え去った様に見えたが、実際はどこか室内の様な所に移動していた。
「……ここはどこなんじゃ。 いったなにがおきた……」
インザームはわけがわからず、ただ茫然とその場で立ち尽くしていた。
すると、横から亜空間が開くとアズライトとルチルがその窓から姿を現した
「びゅ~ん」
「遅くなりました」
「……なぜワシは生きておる?」
「ルチルの特技は転移と転送で色々制約はありますが、あなたを運んでもらいました」
アズライトはインザームの疑問に丁寧に答えた。ルチルは浮遊しながらほわほわしている。
「それにルチルは人に危害を加える事はしません。 冗談が好きですが、誰よりも心の優しい子ですよ」
「そうっ! ルチルはいい子っ!」
「ふむ……ここはどこなんじゃ」
「ここは私が島へ来るのに移動手段としてた船ですよ。 小型ですが魔力を動力にする為、結構早いんですよ。
あなたを殺さなかった理由は聞きたい事があるからです」
「聞きたい事じゃと?」
「なぜあなたは魔法が使えるんですか? ドワーフは生来魔力を持たないはずです。 禁忌とされた転生術を?」
「……そうじゃ。 色々とこっちのが便利だったからの」
「あなたが全ての力を失ってでも、1から魔法を覚えたかった理由はなんですか? それに耐え難い苦痛もあったはずだ」
アズライトはインザームに対して素直に疑問をぶつけた。
「それには色々理由があっての。 話す事はできん」
「……ヴェルネルとレムリが関係しているのでしょうか? アイレくんが言っていた様にあなたは殺してないと?」
「ワシは……ワシはヴェルネルとレムリを殺しておらん。じゃが、それは誰も信じてはくれぬ。 お主の様にな」
インザームは初めてヴェルネルとレムリの事を殺してないと話した。
その目は曇りなき眼をしていた。
「私は元は騎士でした。 あなたが知っているかどうかはわかりませんが、今のシュタイン家はあまり良くありません。 ですが、断罪人としての誇りもあります。
私が間違った行動を取っていたのなら、全ての真実を明るみにさせる必要はあると思っています。 勿論、あなたが嘘をついていた場合は容赦はしませんが」
インザームはアズライトの言葉を目を見て信用できるかもしれないと感じた。なぜなら
その目はヴェルネルとレムリの目に似ていたからだ。そしてアイレにも。
「……アズライトじゃったか。ならば全て話そう。 それを信じるかどうかはお主次第じゃ」
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―――――――――――――――謎の女の子がアイレにインザームが生きている事を伝えた日。
「インザームはまだ生きてる」
写真に写っていた少女はアイレに驚きの言葉を向けた。
「ど、どういうことだ!? インザームはまだ生きてるって!?」
「そうだね……話すと凄く長くなるし、ここは誰かに聞かれるかもしれない。あなたの部屋にいきましょう」
シェルがカレル村に帰るという事で、アイレは個室を借りさせてもらっていた。
それをなぜかこの少は知っていた様でアイレは全てを知りたい気持ちを抑えられないまま、二人で個室の部屋に入った。
「それでどいうことなんだよ! 全部知ってるって!」
「その前に」
女の子はそういうと右手を天井に翳すと魔力の障壁を部屋を覆う形で作成した。
アイレはこの時、初めて女の子の姿を見たような気がした。深緑のフードを被っていたが、それを外すととても綺麗で透明な白い肌をしている。
アイレと年齢は同じぐら位に見えて、魔力を使用したにも関わず少女からは魔力を感じる事ができなかった。
「これで声を聞かれずに済む」
少女は魔力の障壁を作り、声を漏れないように音を封鎖する壁を作り出した。
「インザームは生きてるってどういうことなんだ!?」
「落ち着いて。 私とインザームは魔法契約を交わしたから、死んでいる場合は感じるのよ。 だからまだ生きてるって事」
「インザームが生きてる……」
その少女の言葉が真実かどうかはまだわからないが、アイレはとにかく安堵した。インザームにまた会えるかもしれないという希望が
アイレの心を揺さぶった。
「私はあなたの事は知っていたがけど、あなたがアイレかどうかわからなかったからずっと着けてた」
「ずっとってどういう事だ?」
「ずっと。あなたがこのヴルダヴァに来た時の龍車に乗ってる時から。 あなたがこの部屋で今までの事をシェルやアクアに話してたのも聞いてた」
アイレは記憶を探した。シェルとアイレと一緒に魔物を撃退したとき
ずっと中で眠っていた子だった。
「なんでインザームを生きてた事を早く言わなかったんだ!」
「あなたがどんな人かを見極める為。 ヴェルネムとレムリからあなたの事は聞いていたわ。 それでも私はこの目で見るまで人間は信じられない」
少女はアイレの事を人間と言い放った。まるで自分が違う人種かのように。
「見極めるってどういう事だよ! もっとわかりやすいように説明してくれ!」
アイレは焦っていた。 インザームが生きているなら今すぐにでも急がないといけない。
「初めから……説明したほうがわかりやすいかもね……。 私がヴェルネルとレムリそしてインザームと出会ったのは30年前以上」
少女が30年前という割にはアイレとそう変わらない見た目をしている。
「魔物に襲われている所を助けてくれた」
「30年前だって? 見た目は俺と変わらないじゃないか!」
「私は……人間とエルフから生まれたハーフエルフで母がエルフで父が人間だった。 でも……二人とも魔族に殺された。
その時、ヴェルネルとレムリとインザームが私を助けてくれて
独りぼっちだった私を連れて一緒に少しの間旅をしてたの」
「ハーフエルフ……殺された……」
確かによく見るとルチルに似ている気がした。違和感の正体はこれだったのだ。
「クラドノ街壊滅事件は……知ってる?」
「わからない……俺はほとんどこの世界の事を知らないんだ」
「クラドノ街壊滅事件は……謎の爆発によって引き起こされた出来事でちょうどこのヴルダヴァと同じくらい……一夜にして全てが塵となって壊滅したの」
「このヴルダヴァと同じぐらいの街が!? でも……それがどうヴェルネル達と関係があるんだ?」
「当時は魔族や魔物による未知の攻撃だと考えられた。 でも、私が長い時間をかけて調べたら事実は全く違うかった」
「事実って?」
「人は‥‥…追い込まれると飛んでもない力を出す。それは人間もエルフもドワーフも。魔法使いも。」
アイレはインザームも同じ事を言っていたのを思い出した。火事場の馬鹿力。
アイレも同じようにアズライトに対して禍々しい威力の短剣を放った時も同じ力を出した。
「ああ……わかる」
「それが全ての原因だった。 30年以上前は空気中に漂う魔力も多くて今よりもっと強い魔法使いは大勢いた、その中でもレムリが現れるまで最強とされた4人の人物がいた。
東のオリエンス、北のセーヴィル、西のオヴェスト、南のシュッド。
その中のセーヴィルには大切な妹がいたの。でも、魔族や魔物によって無残にも殺された事でセーヴェルの精神は不安定になって追い込まれた。
強すぎた魔法使いはパンパンに膨れあがった袋みたいなもので、感情を針でつつかれてしまえばどうなると思う?」
「……爆発したってことか?」
「……そう。魔族と魔物と戦いながらセーヴェルは感情によって抑えきれなくなった魔力を自身に留めておけなくなった。
その結果、クラドノ街は一夜にして塵となった。 強すぎるが故に起こしてしまった悲劇だった。たまたまクラドノにいた強力な魔法使いが
障壁を使って生き延びたのよ。だけどその事実は権力者の手に巧妙に隠された」
「どういうことだ? 全然話が見えねえよ!」
「レムリはこの世界の誰よりも強かった上に、魔族や魔物を倒してその魔力はどんどんと増していった。
それでセーヴェルの事を知っているとある国の権力者は考えた。レムリが北のセーヴィルと同じようになったら? と。」
「そんなバカな……」
「世界四元素を自由に操り精霊魔法も使える人類最強と呼ばれたレムリが
もし、何かの拍子で感情が爆発してしまったら街だけでは済まないと疑念は晴れなかった。権力者は各国と手を組むとレムリを称える一方で秘密裏にレムリ討伐作戦が計画された。
それもレムリが助けた国の人達の手によってね!!」
少女はテーブルを強く叩いて怒りをはじめて露わにした。アイレに説明する為に自分を落ち着かせているようだった。
「じゃあ……ヴェルネルと……レムリは……」
「ヴェルネルとレムリは自分が助けた国の人間達の手によって殺されたのよ」
to be Continue
過去と現在を行き来しているので、少しわかりづらい表現だったらすみません汗
次回も過去の話がります!
見てくださりどうも、ありがとうございます(*´ω`*)




