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友達と一緒に異世界転生したら、俺だけ30年後の未来でした。 ~伝説の勇者と魔法使いは親友で、魔王は討伐されている!?~  作者: 菊池 快晴@書籍化決定
ヴルダヴァ

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第15話:冒険者ギルド➁

「あー、今年の試験を務める、フェローだ。自信がねーやつは辞退しろ。許可してやる」


 その言葉が終わると同時に悲鳴が漏れる。アイレの予感は的中、今年の試験官はフェローが担当する。


 大勢いた受験生は一人、また一人とその場からタメ息を吐いて消えていく。

 ついにはアイレたちを含めて20人ほどになり、半分以上がフェローの姿を見ただけで辞退した。


 シェルとアクアも明らかに動揺しているが、特訓を重ねたという言葉の通り辞退はしないと決めた目をしている。

 それほどまでにフェローは怖いのかと、アイレが二人に顔を向ける。


「そんなに……やばいのか?」


 まるで呪いの人形のように固くなった首をガチガチに動かして、


「フェローは……」

「フェローさんは冒険者の中でもトップクラスに強いと噂されている方で、今も扮装が絶えない北で魔物と戦っていると聞いています」


 シェルが少し口籠ったところに、アクアが遮るように説明した。


「それだけ聞くとただのいい人じゃないか?」


 実際に門兵でもアイレのことを助けてくれたこともあり、悪い印象はない。

 その言葉に返すように、シェルが、


「えっと、二つ名があって……」

「二つ名?」


 そのまま続ける。


「狂気のフェロー」

「狂気?」

「敵を笑顔で切り刻む姿が狂気のようだからだって、魔物だけじゃなくて、人間にも容赦がないことでも有名だよ」


 アイレはフェローに顔を向けて、頭の中で笑顔で切り刻む姿を想像した。


「それは確かに……怖いな……」


 視線に気が付いたのか、フェローがアイレに睨みを利かす。


「おい、そこのガキ。しゃべんな」

「はい、すいません!」


 それに対して鬼のような反応速度で謝罪する。そして、


「もういないな? 今さら辞退はきかねえぞ」

 

 フェローは鋭く言い放つ。腕を組みながら眉間にしわを寄せているが、その姿は怖ろしく美人。しかしそれが余計に恐怖を誘った。


「しちめんどくさい試験官に選ばれてあたしも早く帰りたいんだ。だから、試験の内容は一度だけ言う」


 その言葉の後、一字一句聞き漏らしてはならないと、全員が固唾を飲んだ。


「スニシュカ山の崖の上にある『 ニヒツ 』を取ってこい。制限時間はーそうだな、日が完全に落ちるまで。それまで寝る」

 

 淡々と言い終わると、フェロー突如振り向いてそのまま奥の部屋に消える。

 直後、周囲から悲鳴が漏れるが、アイレには何がなんだかわからない。


「スニシュカ山だって!?」

「まじかよ……」

「ニヒツか……」


 それからほどなくして、いくつかの受験生はすぐにその場から飛び出すように消えた。アイレはその場でオタオタしている。


 ――俺もしかして終わった? スニシュカ山って!? ニヒツってなに!? 食べ物!? 飲み物!?


 そのとき、隣にいたシェルとアクアが口を開く。アイレは姿勢を正して目を輝かせながら顔を向けて綺麗な声を出した。


「スニシュカ谷のニヒツか……」

「大変だね……」

「――シェル、アクア。スニシュカ山とニヒツ大変だ。一緒にがんばろう!」

「もちろんだよ。僕たちにもアイレの助けが必要だ」

「うん! 3人でいこう!」


 この後、アイレはめちゃくちゃ知ってる風で進めようとしたが、すぐにボロが出て謝罪した。


「ニヒツっていうのはとても高額な薬草なんだ。色んな病気によく効くって有名だよ」

「一つ50万コルネはします!」

「凄いな……プロスィームがいくつ食べれるんだ……」


 所持金1600コルネのアイレはとても驚いた。


「でも、場所はスニシュカ谷なんだろ? すぐ見つかるんじゃないか?」

「スニシュカ山は凄く危険なんだ。断崖絶壁の道があって……」

「落ちたら死ぬって……」


 なるほど、とアイレが頷く。


「さすが……フェローが考えたテストだな」


 無理難題のような気もしたが、とにかく行ってみないことには進まないと、三人は手を合わせて元気に声をあげた。


 スニシュカ山はヴルタヴァの南門を出て2時間ほど進んだ場所に存在する。

 アイレたちは赤土の地面をひたすらに歩いていた。ほかにも受験生のようなパーティもいたが、馬や変わった乗り物ですぐに追い抜いていく。


「俺たちも馬があれば……」

「本当だね……」 

「疲れたー……」


 なんとか急ぎ足で一時間半ほどして、ようやくスニシュカ谷の入口に到着することができた。

 山の隙間のようなところを少し抜けると、すぐに断崖絶壁の小さな細道が現れる。

 視線を下げると心臓がバクバクと音を鳴らすほどの高所。落下すれば間違いなく死が待っている。


「……断崖絶壁ってこれか」

「この先にあるんだよ……」

「無理かもです……」


 断崖絶壁と言われている通り、横幅は一人分しかない。


「気合にいれるしかないな」

「引き返すなら今しか」

「怖いかもです……」


 三人ともぶつぶつと言いながら、ここで諦めるわけにはいかないと、アイレを先頭に蟹のように横向きで進みはじめる。


「俺が死んだら墓にはプロスィームを供えてくれ」 

「僕の骨はカルレ村に埋葬して」

「二人とも死なないで……」


 足元は柔らかい土になっており、とにかく崩れやすい。慎重に歩いているが、時々踏み外しそうになり、そのたびに心臓がきゅっとなる。

 それでも何とか順調に進んでいたとき、上から鋭い風切り音のような乾いた音が聞こえはじめた。 三人は驚きながら壁に手をついたまま、上を見上げると、まるで大きな鶏のような飛行生物が空中で旋回していた。

 アイレがいの一番に声をあげる。


「な、なんだあいつは!?」 

「あれは……ミニコカトリスだ」

「どどどど、どうするの!?」


 シェルがすぐに魔物の種類を特定したが、どうすることもできないとアクアが体を震わせる。ミニコカトリスは横目でアイレたちを補足したらしく、徐々にその高度を下げてきているようにも見える――。


 突如、鋭い嘴を向けながら三人に向かって急降下してきた。

 今の状態であれば、身体の一部に触れるだけでも落下死は免れないと、アイレが叫ぶ。


「狙ってるぞ! 出来るだけ壁に貼り付け!」


 その直後、背中にミニコカトリスがもの凄い速度で落下していく。風圧で飛ばされそうになるが、なんとか事なきを得る。

 安心したのもの束の間、ミニコカトリスは再度急上昇を行い、また旋回している。


「また来るぞ!」


 アイレの言葉通り、ミニコカトリスは距離を測ったように、今度はシェルの頭部を目がけて急降下しはじめた。これでは直撃は免れない。

 それに気付いて、アイレがふたたび、


「アクア! オーガのこん棒を止めた魔法で止めれないか!?」

「あの速度だと威力が強すぎてもたないと思う」

「だったら……。俺がジャンプするときに合わせて、足場を作ってくれ!」

「それはできるよ! でも……すぐ消えちゃうよ!?」


 アクアが答えるが、アイレは返答することせず、シェルに声をかける。


「シェル! 羽だ! 俺が嘴を受け止める! その一瞬で羽を切り落とせ!」

「わ、わかった! やってみる!」


 シェルは壁に手をつきながら、ミニコカトリスをしっかりと睨む。瞬間、アイレが叫びながら飛ぶ。


「今だ!」 


 細道の上でアイレはシェルの頭上まで高く飛んだ。その瞬間に合わせて、アクアが背中から魔法の杖を引っ張り出し、アイレの足元に水の足場を作る。


 「グラース・ルート!」


 杖から放たれた水の水滴が固まるとアイレの足元に水たまりを作った。アイレはそこにしっかりと着地すると、二刀の短剣を交差させて構える。


 直後、ミニコカトリスの鋭い嘴がアイレを襲うが、見事受け止める。


「ぐっ……」


 羽をばたつかせて、ミニコカトリスはアイレごとシェルを弾き飛ばそうとするが、何とか持ちこたえる。足元にあるみずたまりが徐々に体積を失っていく。


「シェル!」


 アイレの言葉と同時に、シェルがミニコカトリスの羽に一撃をいれる。そのまま右翼が切断され、悲鳴をあげながら旋回して落下していった。


 シェルとアクアが喜びで声をあげたとき、アイレの足場の魔法が完全に消えうせ、体制を崩して落下する。


 が、急いでシェルとアクアが手を出すと、アイレがそれを掴んだ。

 なんとか引っ張り上げ、三人とも同時に大きなタメ息を吐く。


「ありがとう、シェル……アクア……」

「こちらこそ……」

「怖かった……」


 その後は、ミニコカトリスに遭遇することもなく、ようやく平地に辿り着くことができた。 三人は走り抜けるようにそこまで辿り着くと、すぐに腰を落として震えていた手足と心臓を落ち着かせる。


「帰りもあると思ったら地獄だな……」

「考えたくない……」

「私ここで暮らす……」


 それから、三人はふたたび歩きはじめた。十分ほど歩いた先で、しゃがみこんでいる人だかりを見つける。


 遠くから目を凝らしてみると、それは同じ受験生だということがわかった。

 アイレが声をあげ、三人で駆け寄る。その場にいた全員の手には黄色と赤色がまじっている草を持っていた。嬉しそうに談話している。


「何とか間に合うな」

「ミニコカトリスに殺されるかと思ったぜ」

「断崖絶壁は怖かったけどこれで帰ろう」 


 その後、すぐにその場から消えた。シェルとアクアは同じように笑顔で声をあげながら、ニヒツを取るためにしゃがみ込んだ。


「こんなにたくさん! やったー!」

「何とか間に合ったね」


 二人は同じようにアイレに顔を向けて、


「アイレ?」

「アイレくん?」


 同時に名前を叫ぶ。浮かない顔で手を顎に乗せて、何か考え込んでいる。

 それからゆっくりと、口を開いた。


「……なんだか簡単すぎないか?」


 アイレの言葉の後、不思議そうにシェルとアクアは顔を見合わせて、


「ここは危ないってことで、普段は誰も来れないんだよ?こ」

「うんうん、それにニヒツは取っても珍しい植物で、簡単って事はないと思うけど……」


 二人の話しを聞いても、アイレはまだ納得がいかないようで、ニヒツを手にしようとはしない。それどころか、


「シェル、アクア、もう少しだけ先に進んでみないか? それで何もなければ……ニヒツを持って帰ろう」


「ここにニヒツがあるのに!」

「シェルの言う通りだよ! 日が暮れちゃったら三年は受けれないんだよ!?」


 アイレはもう少し様子を見たいと、二人に声をかける。シェルとアクアは急いで帰りたいと説得したが、アイレが頭を下げたところで、


「……わかった。アイレがそこまで言うなら行こう!」

「私も、着いていく!」


 それから三人はニヒツを手に取ることはせず、山の平地を進んでいく。時折、ミニコカトリスの羽音が聞こえて体を震わせた。

 そして、帰りの時間も考えるとそろそろ戻らないと間に合わないとなったとき、アイレが何かを見つけて、物陰に隠れる。


「シェル、あいつはなんだ?」

「あれは……サイクロプスだ。絶滅したって聞いてたのにまだ生きてたんだ」

「おっきいね……」


 アクアが驚くのも無理はなく、サイクロプスは五メートルはあるかのような背をしている。一つ目で、禍々しいオーラも放っている。

 しかしそこでアイレが、


「三人で倒せないか?」


 魔物に視線を向けたまま、二人に声をかける。シェルとアクアは静かに騒いで、


「今から!? もう時間が!?」

「それに勝てる保証だってないんだよ!?……」

「俺を信じてくれ。確信は持てないが、きっと合格に近づく」


 アイレが真剣な瞳で二人に顔を向ける。シェルとアクアは、その瞳の覚悟に気づいて、


「……わかった。アイレを信じるよ」

「私も。だったら急ごう!」

「ありがとう。シェル、アクア」


 サイクロプスは大きなこん棒を手にしている。

 シェルいわく、弱点は目だが素早さはゴブリンやオーガの非ではないとのこと。


「まず俺とシェルが”あのとき”みたいに左右に展開してサイクロプスを惑わそう。それから隙を見てアクアの魔法で先手を取る」


「サイクロプスの魔力が高いから水の盾では防げないと思う。だから、目を狙ってみる」


 そしてまず、アイレとシェルが物陰から勢いよく飛び出して、距離を詰めた。魔力を感知したのか、サイクロプスは戦闘態勢を取るかのように咆哮すると、こん棒を構える。

 アクアは様子を伺いなら、少しずつ距離を詰めていった。


 二人はサイクロプスの手前で、急遽左右に展開すると、敵は困惑したように目をギョロギョロ動かす。その瞬間、アクアが魔法を唱えた。


「鋭く貫け。グラース・フレッシュ


 鋭い氷の矢がサイクロプスの目に放たれたが、こん棒でやすやすと弾かれてしまう。しかし、がら空きになったところをシェルとアクアが攻撃を仕掛ける。

 ダメージは与えたものの、致命傷には至ってないようで、返す刀でシェルに攻撃をしかける。


「避けろ!」


 アイレの叫び声に反応して、シェルはなんとか避けることができたが、鋭い威力のこん棒が鼻先を掠める。ぞっとするような風圧で衣服が揺れた。


「大丈夫! 僕たちで目を狙おう!」

「私が足場を作る! 二人はそのタイミングで飛んで!」


 アクアがシェルの意図を理解して、少し離れたところで叫ぶ。その間も、二人はこん棒を避け続いている。

 詠唱が終わった瞬間に、アクアが叫んだ。

 

「今!」 


 アイレとシェルは合わせて飛ぶと、次々と水の足場の階段が現れて、登るようにサイクロプスの左右を駆け上がった。

 ふたたび、アクアは詠唱する。


「切り刻めグラース・ラム


 サイクロプスの体に氷の刃を無数に飛ばした。こん棒で防御もしたが、とても間に合わないと体中から血が流れる。その油断した瞬間を見逃さず、アイレとシェルはサイクロプスの目に剣を突き刺した。

 直後、悲鳴をあげながらその場で倒れる。


「やったぞ!」

「勝った!」


 同時に水の足場が消えると、二人で仲良く落下した。


「シェル、大丈夫か……?」

「痛いけど……大丈夫……」


 アクアが二人の名前を叫びながら心配で駆け寄るが、どこからともなくサイクロプスがもう一体現れると、アクアを目がけてこん棒を振りかぶる――。


「アクア!」

「アクア後ろ!」 


 しかし、こん棒は完全に振り下ろされることなく、サイクロプスの腕が千切れて吹き飛ぶ。次の瞬間、痛みで悲鳴をあげているサイクロプスの目に魔法が放たれた。

 アクアは驚いた拍子で倒れ込むと、自分を助けてくれた人物を眺めた。


 深緑のフードを目が見えないほど深く被っているが、その背丈から子供か。大丈夫? という声で、女性でかつ年齢はそう変わらないとわかった。


「あ、ありがとう!」


 アイレとシェルが近寄る前に、その女の子はどこかに消え去っていく。


「アクア、大丈夫か!? ――だれだあいつは?」

「さっき……冒険者組合で見かけた気がする」


 アイレもどこかで見たことがあると少し考えたが、空が暗くなってくことに気が付いて声をあげた。


「時間がない、急ごう!」

「わかった!」

「はい!」


 それからアイレは、何かを見つけて上を見上げた。




「やっぱりそうだ」 

徐々にですが、見てくれている人も増えているようで嬉しいです(*´ω`*)

これからも頑張りますので、是非コメントとか感想もらえたら嬉しいです!


皆様を楽しませる作品を作るぞ~!

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