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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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ジョウホウの講義をします

作者: ライス中村
掲載日:2021/08/12


さて、時間になったことだし、早速ジョウホウの講義を始めようか。


人は物事を、少しずつ理解していくのが得意な生き物だ。まずは簡単なことからスタートして、それからどんどんと詳細を付加していく。


これはもう世界の共通認識になっているような常識で、だからこそ学校の勉強では、小学校から中学校、そして高校、大学と、それぞれの範囲で多少の重複を含みながら、同じような分野を、少しずつ難しくして、のちの世代の人々へと学ばせているのさ。


では、今から実際にジョウホウの付加を試してみよう。

初めは最低限のジョウホウから。





男は歩いていた。





主語と述語。文章が成立するための必要最低限だ。



では、次に詳細の添付。これはつまり文法で言うと 修飾語 ってやつだ。




男は職場に向かって歩いていた。





30代半ばの男は着替えたあと、やけに高揚した気分のまま、足並みも軽く、職場に向かって歩いていた。





大きな鞄を持った30代半ばの男は血で赤く汚れた衣服を着替えたあと、やけに高揚した気分のまま足並みも軽く、おそらく今日で訪れるのが最後になるであろう職場に向かって歩いていた。






1番のお気に入りだった教え子の生首が入った大きな鞄を持った30代半ばの男は、その子を殺害した時の返り血で赤く汚れた衣服を脱ぎ、シャワーを浴びた後で今度はちゃんとしたスーツに着替えたあと、少し申し訳ないような、しかしそれ以上にやけに高揚した気分のまま足並みも軽く、逮捕される前の、おそらく今日で訪れるのが最後になるであろう職場、大学の自分の研究室に向かって歩いていた。




ここまで来ると、一文に収めるのには少し無理が出てきた。それではここで、修飾の仕方を変えてみよう。単語や文節で、ではなく、別の文を付け足すことでより詳細な情景を表現するんだ。




ある大学の助教授の教え子はとても素敵な人間だった。しかし、その親友を名乗るその子の同級生は、関わるだけで精神性が穢されてしまうような邪悪な人間だった。助教授は教え子を憐れに感じたので、もうその自称・親友と関わる必要が無くなるように、教え子をひとおもいに殺してあげた。1番のお気に入りだった教え子の生首が入った大きな鞄を持った30代半ばのその男は、教え子を殺害した時の返り血で赤く汚れた衣服を脱ぎ、シャワーを浴びた後で今度はちゃんとしたスーツに着替えたあと、少し申し訳ないような、しかしそれ以上にやけに高揚した気分のまま足並みも軽く、逮捕される前の、おそらく今日で訪れるのが最後になるであろう職場、大学の自分の研究室に向かって歩いていた。男の最後の講義の相手は、その教え子に決めていたからだ。

無事研究室に辿り着いた男は、最愛の教え子を目の前にして、人生で一番楽しい感覚の中、揚々と喋り続けている。





とまあ、実はそうなんだ。今回は文章での修飾を通して、現実世界という新たなジョウホウの連結も同時に行ってみた。つまり、今回のジョウホウの付加でやったことというのは、今のこの僕らの状況を、ミクロでミニマムな記述から少しずつマクロな記述にして表していく、という試行だ。


いやあしかし、僕しかいない研究室というのはしばしば経験するが、君と僕と二人しかいない研究室というと、意外にも久しぶりかもしれないな。



では最後に、ジョウホウの逆算を行った結果、おそらく出来る様になっているであろうことを実践してみようか。


それはすなわち、未来のジョウホウの指定だ。

あの文章の続きを考えてみよう。




男の講義への出席者は、最後に一人だけ、増えた。男に纏わりついてしつこく周辺を嗅ぎ回っていながら、結局何もできずに終わった男の教え子の自称・親友だ。





お、ちょうどドアが空いたね。


ようこそ。君が来るのを二人で待っていたんだ。

では、どこでもいいから、空いてる席に適当に座ってくれるかな。


おいおい、そんなに悔しそうな顔をしないでくれ。どちらかといえば講義に遅れた君が悪いんだから。


今日は記念すべき僕の最後の講義の日なんだぜ。君が僕のことを嫌いなのはそりゃあ知っているが、せめて今回くらいは笑顔で送り出してくれよ。




お、泣いてくれるのか。それはそれで嬉しいものだな。もう一人はあんまり表情を変えてくれないから、僕の話す内容がちゃんと生徒たちに伝わっているか少し不安になっていたんだが。




ああ、そうだ。

質問ならいつでも受け付ける。躊躇せず積極的に手をあげてくれると、僕としては非常に嬉しいよ。うん。

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