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暗い金曜日  作者: ピカルの定理
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榊原市立第一中学校

 大阪府の北部、豊能地区にある榊原市は人口八千七百人の過疎地域であり、いわゆる田んぼと山に囲まれた田舎であった。俄然、田舎といっても、田舎に泊まろうに出てくる気優しい、おもてなし精神に溢れた老婆や爺はいなく、住民の多くは選民思想に富んだ、積極的に外部の人間を排他するややこしい人物ばかりであった。加えて、榊原市の長、野田市長はその地方自治の権力を濫用し、選挙活動に賄賂はもちろん、市議会にコネのある人物を積極的に登用するなど、汚職が絶えない人物であった。その地位に坐してからもう九年が経つ。・・・榊原市は暗かった。何もかもが暗かった。気分転換に散歩に出かけようと外に出れば、視界に広がるのはハリーポッターのホグワーツ魔法学校並みの暗さであり、人気はほとんどない。ただ奇妙なのは、並外れて田んぼ以外何も無い街かと思いきや、榊原市民の多くが利用する阪急神園前駅付近には、いわゆる夜の店、個人経営の居酒屋、キャバクラ、ソープが通りがかりの客を一心不乱に奪おうとその風景を独占していたのであった。したがって、治安はあまりよくない。住民のほとんどが六十歳以上の高齢者なのが不幸中の幸いである。

 そんな世紀末漂うくたびれた秘境の中に、唯一中学校の体をギリギリなしているのが、政二が在籍する榊原市立第一中学校であった。そもそも"第一中学校"と名称されているが、一中以外に中学校は無い。恐らく昭和時代にもう一つか二つ、第○中学なるものがあったが、人口減少で廃校になったのであろう。この一中はあの池田勇人内閣が所得倍増計画なるものを打ち出した昭和二十五年(一九六○年)に開校された。もう六十年近く経つから、外見はひどい有様で、廃墟病院並の風景を成しているにもかかわらず、阿保な住民の要請で作られたのであろうか、初代校長の銅像だけは妙に威風堂々と聳え立っているのが、これまた腹立たしい。無駄に面積はある榊原市なので、敷地内面積は教職員、学生の数を考えると極めて広大である。毎朝風紀委員の生徒が挨拶をする正門は一つ、体育館も異常に広かった。

 榊原市立北穂小学校と、同市立神崎小学校の児童は原則、この廃墟に入院することになっており、東京都内の小学校にみられる中学受験などを受けさせる親などは、この魔法都市には存在しないことは自明、むしろ中学卒業後は進学よりかは家業を継がせるか、早く働きに出て仕送りを送ってもらおうと企む親の方が多数であった。この戦後の時代を想起させる街は、依然として他の地方都市から危険視されており、特にその住民の子息などには、決して近づかないよう注意深く教育され、一中もまたその標的にされるのであった。政二は生粋の榊原市民だった。生まれた時から榊原が土壌にあり、一中に入学するのも必須のことだった。しかし、政二は先述の選民思想などはなく、それはごくごく普通の、性欲と怠惰に溢れた、どこにでもいる十四歳の中学生であった。

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