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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

メフィスト王子と増殖少女

作者: 水鳴 倫紅


12:31:12.31:2110


 ごぷり、ごぷり。

リノリウムの床に、気味の悪い音が響き渡る。

ベッドの上で眠る少女につながれた二本の点滴。

一本は血液を流し込み、もう一本はどす黒い液体を吐き出す。

そして、それらは両方機材へとつながっている。

機材にとりつけられた画面は――8つの心電図を映し出す。

周りには、七本の巨大な試験管――

そして試験管に浮かぶ、体が欠けた少女。

一人目は、喉元に傷を負い、二人目は胸元に縫い目を持つ。

三人目は目の周りを包帯で覆っており、四人目は眉間から額にまっすぐに傷が入っている。

五人目は両肩から削られ腕が無く、六人目は脚を持たない。

そして、七人目は臍から腹にかけて、縫い目の後。

彼女たちは、試験管の中の溶液で丸まって眠る。


 機材を操るのは、右目を青く発光させたアンドロイド。

切なそうに眠る少女を見つめる。

それでも機材のスイッチを左から右へと移動させた。


水はとぷとぷと排出されていく。

試験管は音もなく乾かされ、7つの心電図は動きを止めた。


 ベッドの上の少女がゆっくりと起き上がる。

――そのツギハギの体躯を見せつけるように。


---***--***--***--***--***--***--***--***-


13:00:12.31:2110


「お目覚めですね、礼香・アインハルト」

右目を青く発光させたアンドロイドは、ベッドの上の少女――礼香に言う。

ゆっくりとツギハギの体躯を動かす礼香。

彼女の動作は今にも手足がちぎれてしまいそうなほど危うい。

「……とうご、どういうこと? はかせ……おとうさんはどこにいるの」

たどたどしく、言葉を選ぶように。

彼女はアンドロイド――統吾・アインハルトに対して言う。

統吾は左目を閉じ、右目の視線を礼香から離し、壁に向けた。

「お父さん……博士は死にました。皆、皆死んだのです。

いや、壊れたといった方が正確ですかね。

計画は成功に終わりましたが、反面誰もいなくなってしまったのです」

そして青い右目はプロジェクターになる。

統吾の両腕からは、音があふれだした。

――つまり幻灯(ゆめ)を映し出すのだ。


---***--***--***--***--***--***--***--***-


18:06:8.31:2110


礼香と統吾がいたと思われる部屋――ただし今よりも清潔だと思われる。

「――七瀬っ! 七瀬・アテレイっ! それだけは! 全ての計画が台無しになるっ!! 」

焦った様子で機材の数値を見つめ、叫ぶのは白衣の博士。

「だって、そうでもしないと終われないでしょ? 初司君はー。

計画が偽りの正義だって、気づいてるくせにねっ!」

楽しそうに文句を言いながら、ベットの上の彼女を抱きかかえる。

タンクトップを身に着けて、肩口の『クローンナンバー』――印刷されたローマ数字――を露出させて。

彼女が七瀬、七瀬・アインハルトだ。

「統吾!! 統吾!! ……この部屋からでは間に合わないか。

まぁ良い。これが本当の『終わりのはじまり』ならば。

この『魔女』もきっと意味があるのだろう。そして私は、いつも悪魔メフィスト。それか偽りの正義しか孕まない騎士か王子か――」

博士は焦った様子で統吾を呼んだ後に、悠々と部屋から出て行った。


---***--***--***--***--***--***--***--***-


13:00:12.31:2110


「しっぱいしたなら、わたしはのぞまれないそんざい。

どうして、わたしはのこってしまったの?」

ツギハギの少女は、ただ疑問を持った様子で統吾に問う。

そこに不安も不満もなく、ただまっすぐな目で彼を見つめて。

「結局あなたは、望まれた存在だったということです。

さぁ、続きを。私は貴方に出来る限りの真実を

――受け渡された記憶を、引き継がなければならない」

統吾は彼女から目線をそらしつつ、また一つの映像を映し出す。



18:31 : 8.31: 2110

「非常事態が起きた、子供たち。」

整頓されたリビング、柔らかな木の香り。

そのなかで、白衣の博士は歩き回りながら状況を説明する。

そう、まるで演劇を演じるように。

6人の少女たちは、息をのんで博士を見つめていた。

「お前たちのオリジナル――礼香・アインハルトがさらわれた。

裏切り行為によってだ――誰だかはもう、分かるだろう」

不安そうに、6人を見回す少女たち。

そう、それは全て「監視される」ことを理解しているかのような、

タイミングのずれていない動き。

「安心しろ、この中に裏切り者はいない!」

博士が手を叩きながら、そう告げれば空気は一気に弛緩する。

「な、なーんだ……。そうだよね、博士。

いないのが裏切り者――七瀬だよねぇ」

目元に『クローンナンバー』――ローマ数字が刻まれた少女、

詩華(しいか)・レーセインは、のんびりと鏡を眺めながら言う。

「何にせよ、アタシ探しに行く。私の足なら、ひとっとびだもん!」

今にも飛び出しそうなのは、太ももに『クローンナンバー』が刻まれた少女、陸奥・シュバリエ

短めのスカートにハイソックス、スニーカーを履けば今でも飛び出せる、そんな様子だ。

「待て、陸奥・シュバリエ。

お前は足は速いが、今から飛び出しても夜目はきかない。

それに心当たりもないだろう?

ここは皆で探しに出かけた方が得策だとは思わないか?」

博士は歩くことをやめず、落ち着いた様子だ。

「そうだな……だが、私はともかく、皆は体力がないわけで。

今から探しに行くというのなら、私しか元気な人はいないよ?

だってさ、今日は私達8人の――

礼香と七瀬も合わせた誕生日会だったんだしさ!

そんな日に、なんでっ……」

歯噛みする陸奥。

「だからこそ、だねぇ。

今日は礼香の誕生日だからね、私たちを礼香に移植するのさー。

私は心臓を礼香にあげて眠りについても、やりたいことはないから良いんだけど、七瀬はピアノが好きだったからねぇ」

のんびりと言うのは、逸花(いつか)だ。

ここからでは見えないが、胸元にはクローンナンバーがある。

「弥子も、子宮と臓器をあげるの、問題ないよ。

今日が凄く楽しかったから」

ぬいぐるみを抱えつつ、呟くのは弥子・ドルチェ。

彼女は臍の上にクローンナンバーがある。

「わ、私だって足を失うのは知ってたよ! 車椅子の練習だってしてた! このままじゃ、礼香は死んじゃうんだ! 私達を移植しないとっ!

だから早く助けに行きたい……んだけど」

陸奥は焦った様子だ。

「大丈夫だ、お前たちには『IDチップ』を仕込んだ。

それで見ると、七瀬と礼香は――お、移動してる?

ずいぶん遠いな。そして山の中だ。第三者に拾われたか……。

そして電波が途切れている。

二人が一緒にいる事だけが救いだな。

――とりあえず今日は休め。

明日、援護を起動する。

陸奥と詩歌で、そいつと一緒に礼香を探しに行ってくれ」


「了解」

そして6人は休憩に入った。



8:31:9.1.2110

「博士に作られました、統吾・アインハルトと申します。

今回は私が車を運転していきます。

陸奥さん、詩歌さん、よろしくお願いいたします。

早速参りましょう、こちらへ」

右目に眼帯をした青年は二人を軽自動車にいざなう。

「だーいじょうぶかぁ? こんな気弱な感じで。

私が本気出した方が早いぜ、多分」

「あはは、山に着いたら頼らせていただきます、陸奥さん。」

担架を切った陸奥と、それを柔和な表情でかわした統吾。

「統吾、よろしくねぇ」

舌足らずな感じで言って、車に乗り込んだのは詩歌だ。

「彼はほとんど私だからな――

私のクローンをベースに人格移植・改造を施したアンドロイドだ。

心配せず探してきな」

そして車はまっすぐに発進していった。


ありがとうございました。

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