その4
俺は怪しげな光の中から、白装束の女の姿がゆっくりと起き上がる姿が見えた。
足元まで伸びる紫の髪と妖しげな赤い瞳からは、人間と思えないような雰囲気を漂わせていた。
怯えるルリの肩を抱き、光の中の女の様子を見ていた。
青白い肌に端正な顔立ちを見て、俺はどこか惹かれる部分を感じていた。
女はこちらに気づき、首を傾げながら呟いた。
((ほう、これは面白い。何やら不思議な力を持っているようだな…。))
「………!お願いだ!ここから出してくれ!」
((そなたは我が見えるようだな。少し馴れ馴れしいが、素質はあるようだ。))
((良いだろう、出してやる。ただし、我の求める物を差し出してもらわねばなぁ。))
「求める物?それって一体なんだ⁉︎」
((久方ぶりに目覚めたのだ。この世を自由に観光できる生身の身体が欲しいな。))
「生身の身体だって⁉︎そんなことできるわけないだろ!ここから無事に脱出したいんだ!」
「この浮いてる物を少しどかすだけでも良い!はやく助けてほしい!」
((焦りすぎて、交渉の余地がないな。))
((今の我の状態では、物を動かすことすらできん。ただし、貴様たちを助け出すことはできる。))
「今の状態って、どういうことだ⁉︎」
((我は霊体であり、今の状態では触れた物を透過してしまう。よって、生身の身体が必要なわけだ。))
((生身の身体さえ手に入れば、その身体の生死や筋力に関わらず、物を抱え込んで外へ運び込むことができる。))
(霊体だって?この女は幽霊の類いか…!)
((さらに言えば、この浮遊現象を収めるぐらいの力は出せるつもりだ。さあ、どうする?))
「生身の身体を差し出せって、どうすれば良い⁉︎」
((我と契約を結べ。そうすれば、お主だってそちらの娘だって助けてやろう。))
「契約を結んで、どうするつもりだ⁉︎」
「助けた後で無事で済まなかったら、ただじゃおかないぞ!」
((我と結ぶ契約とは、我が自由に身体を憑依できる権利の獲得についてだ。憑依して貴様を脱出させてやる。))
((安心しろ、借りた身体は傷一つなく無事に返してやろう。))
((支障があるとすれば、その者の憑依している間の記憶がなくなるくらいだ。))