その2
11歳の夏休み、俺は家族と田舎のお婆ちゃんの家に遊びに行っていた。
田舎のお婆ちゃんの家は、俺の街から電車で2時間ほどかかるぐらい遠方で、無人駅の改札を出ると田園風景があたり一面に広がっていた。
その日は、真夏の日差しがヒシヒシと頭上を照らし、セミがジージーうるさく鳴いていた。
お婆ちゃんの家は築50年以上経つ古い屋敷で、屋敷のほかに庭と大きな物置小屋があった。
俺は座敷の一室で妹のルリと遊んでいた。
「お兄ちゃん!物置小屋に探検しに行こ!」
遊びに飽きたのか、ルリは突然俺に言ってきた。
まあ、俺も退屈していたところだったので軽く探検を了承した。
「別に良いけど、急にどうしたんだ? ルリは昔から物置小屋を怖がっていただろ?」
「え〜?そうだったっけ? 覚えてないや。」
「それより、お婆ちゃんから聞いた? 物置小屋の物で気に入ったものがあれば、好きなだけ持って帰っても良いってさっ!」
「そんなこと言って、途中で怖がっても知らねぇぞ。」
ルリはすぐに屋敷を飛び出し俺は後を追いかけるようにして走りだした。そして、俺たち2人は庭の奥にある物置小屋へと辿り着いた。
扉は開いていて、中に入ると真っ暗な空間が広がっていた。
「お兄ちゃーん、電気つけてー。」
ルリはいつの間にか後ろに回り込んでいて、俺の背中に隠れながら頼んできた。
「さっきの勢いはどこにいったんだよ…。」
「だってぇ、なんか気味悪いんだもん。」
「電気付けるから、ちょっと待ってて。」
俺は入ってすぐ近くの棚から懐中電灯を取り出し、真っ暗な空間を照らした。
そこには、俺たちの身長を超える高さの棚に古い本や巻物、水晶玉、木箱など、所狭しに収納されていた。
(なんだこれ…。相当古いものばかりだ…。)
(これ、何に使う道具だ?)
手に取ったのは、数珠が繋がった小さな手鏡のような物だった。鏡自体は埃や汚れで曇っていた。
「すごい!こんな古い物初めて見たよ!」
前方が明るく見えるようになったためか、ルリはすっかり元気を取り戻し、俺と一緒に収納物を物色していた。
「この水晶玉きれいだなー。」
「きれいだけど、大きいから持って帰れないんじゃないか?」
「持って帰れなくても良いのっ!こういうのは。お兄ちゃんってセンスないよね。」
(センス関係なくね?)
ルリに振り回されることはいつものことだが、今日のルリはいつにも増して振り幅が広かった。
しばらく物色していると、ある書物が目に入った。
『降霊術秘伝の書』
俺はギョッとして驚いたあと、心の中で確信めいたものを感じた。ずっと引っかかっていた杭のようなものが取れたような感覚だった。