ディスカバる
「あ、これさっきと同じ木だよね?」
「本当だ、同じ木だ……」
しばらく間宮さんと森の中を歩いていたけど何故か何度か同じ場所に出てしまった…… ブレアウィッチプロジェクト状態とかシャレになってない。
「困ったねぇ。 ここそんなに大して広い森でもなさそうなのに。 もう大分暗いし」
こんな時のお約束で携帯も圏外になっていた、別荘では使えたのにな。 でも考えようによっちゃ間宮さんととことん2人きりでいれる…… これはもしや災難ではなく天が僕に与えたもうた好機なのでは!?
「こういう状況なのに口元が緩んでるよツー君」
「はっ!! そ、そんな事ないよ、どうこの状況を打破するか考えてたんだ!」
「へえ、頼もしいなツー君は。 でもとりあえず少し休まない? あたし疲れちゃった」
間宮さんは木を背もたれにしてその場に座り込んだ。 暗くなっても暑いままだしそりゃあ疲れるよなぁ。
すると近くで動物の鳴き声らしきものが聞こえ身構えた。
「結構近いね? なんだろ」
「狸か鹿じゃないかな?」
もしこのまま一晩過ごす事になったら危険かもしれない。 だって熊とか居たら。 それに間宮さんと一晩共にするって…… ぼ、僕はそっちの方が気になる。
「どうしよ? もう一度森の中歩いてみる?」
「なんか危なそうだからやめた方がいいよ。 間宮さんに何かあったら……」
「ふふッ、優しいねツー君。 でもツー君と居ても何かあったりして?」
「え!? そ、それは」
「あははッ、冗談だよ冗談」
とにかくなんとかこの不気味な夜の森の状況をなんとかしないと。 ここは……
「間宮さん、火を起こそう」
「火? ああ、そっか。 もともと2人でキャンプファイヤーしようって言ったのはあたしだもんね。 でも道具何も持ってきてないや」
「僕も…… でも出来るかも」
「え? 出来るってもしかして摩擦的な事で起こすつもり?」
「うん、やってみようかな」
僕はディスカバリーチャンネルを見ていた、しかもサバイバルの。 インドアの僕がなんでそんな飲みてるかって? 暇だったから。 それが今役に立とうとは…… そんな付け焼き刃で火を起こせるかなんてわからないけど。
「ええと、まず乾いた小枝だっけ? それと木の皮…… 出来るだけ綿状の物とかあればいいんだけど」
「へぇ、ツー君わかるの? 意外」
「テレビで観た知識しかないけど」
「なんか面白そう、あたしも手伝う」
「じゃあ間宮さんは乾いてそうな小枝を集めてくれる?」
「イエッサーッ!」
なんか間宮さん楽しそうだな……
やってみようとは言ったけどナイフも持ってないし大変だってのがわかった、テレビでは企画とはいえよくやってるよ。
携帯のライトで照らしながら尖った石で当て木に小さい穴を開けて空気の入り口を作った、これだけで大変だった、くじけそう…… なんか光に集まって蚊にも凄い刺されるし。
「こんなんでいい?」
「あ、うん。 ありがとう」
「ふぅーん、なんかそれっぽいね! 他にあたしも何かやる事ある?」
「あ、だったら枯れた葉っぱとか松ぼっくりもあったら。 いいかな?」
「任せといてよ! ふふッ」
なんとか材料も一通り揃った。 そして準備も出来た。 体力ないのに出来るかな?
「ごめんね間宮さんにいろいろ集めてもらって」
「ううん、あたし何もわかんないからいーよ! それになんか楽しいし」
「火起こし失敗したらごめんなさい」
「いいからいいから! その棒で擦るんだよね? 素手でやったら痛そうだね? あたしハンカチだけなら2枚持ってるよ、使う? あ…… でも」
「でも?」
「さっきそれで汗拭いたから汚いかも……」
それはご褒美じゃないか! 出来れば手に当てるんじゃなくて顔に張り付けて匂いを嗅ぎたい。 ハッ!!
「…… やらしい事想像してたでしょ?」
「そ、そんな事は……」
「あははッ、顔でわかるよ! そんな事だろうと思った。 でも手に巻かせてもらいます!」
「はい……」
「これでよし!」
そして棒をひたすら擦り合わせる。 20分、30分と時間が流れた。
「やっぱなかなかつかないね?」
「うん……」
テレビでも何回も失敗してたし僕のような素人じゃやっぱり無理なのだろうか?
そして更に時間が経ちいくらハンカチ越しとはいえ手が痛くなってきた。
「大丈夫?」
「う、うん……」
「無理しなくていいよ? あたしが代わるよ」
「え? でも……」
「ツー君は頑張ってるよ、だからあたしに今度は任せて? ね?」
間宮さんが僕を心配してそう言うので僕は間宮さんに棒を渡して手にハンカチを巻いた。
「よし! 今度はあたしが頑張る!」
間宮さん凄い気合いだ。 こういうの好きなのかな?
間宮さんが火起こしを開始してから僕以上の時間が流れた。
「間宮さん、手痛いでしょ? 僕がやるよ」
「ううん、大丈夫」
「でも僕よりやってるよ? 流石に……」
「ツー君…… あたし今日みんなに凄い迷惑掛けてる」
「え?」
「大吉君なんか凄く心配してると思う、パパに責任とか言われてたから。 だからあたし達の事探してるはず。 雫も琴もみんな。 ツー君にも迷惑掛けてる」
「僕は迷惑だなんて」
「うん、ツー君はそう思うかもしれないけどさ、でも実際迷惑掛けてるよ。 だからあたしはツー君以上に頑張らなきゃいけないんだ」
「間宮さん……」
「だからもう少しあたしにやらせて?」
間宮さんのその訴えに僕は間宮さんにもう少し任せようと思った。 そして……
「いたた……」
「間宮さん、これ以上は…… ん? あれ? 火種が…… 火種が出来てる!」
「ほんと?」
急いで火種を火口に移し息を吹き掛ける。 煙たいけど間宮さんが頑張ってくれたので必死に吹いていると火がついた。
「ついた!」
そして用意していた葉っぱや松ぼっくりに投入して火の勢いを強めて小枝を足していく。
「やった、やったぁ!」
「ま、間宮さん!?」
間宮さんは僕に抱きついてきた。 幸せだ、火がついた事よりも。
「凄い凄い! 本当についちゃった!」
間宮さんはかなりはしゃいでいた。 よっぽど嬉しかったんだろうなぁ。




