天使に当たった
遅くまで間宮さんと話し込んでしまった。 時計を見ると午前2時、学校もあるので僕如きに付き合わせて間宮さんの睡眠時間を削るのは恐れ多い。
そう思っているのだけどこんな展開になってあの間宮さんとメールのやり取りを僕は今している!
間宮さんを独占したい、間宮さんは時間を今僕のために使っているんだと思うとなかなかやめる事は出来なかった。
どんどん欲深になっている自分がいる。 でも間宮さんもここまで付き合ってくれるとは思わなかった。
『寝なくていいの?』
『あー、もうこんな時間だしねぇ、思ったより楽しかったからかなぁ』
た、楽しいだって!? ぼ、僕と話していて楽しかったのか? 間宮さんが?
何を話していいかわからなかった僕はネットでこんな時何を話すべきか見ながら間宮さんとメールしていただけだ。
『それは何より』
メールしているうちに大分砕けたやり取りになり僕は最初の謎めいたキャラから素に近くなってしまっていた。
『楽しかったって言えばあたしのクラスにもね、面白い子が居てさ』
ん? んん? だ、誰だ!?
『ちょっと暗めの子でね、壁があってオドオドしてて話し掛けたらいきなり倒れてね、変わった子なんだけど』
そ、それはもしかして僕の事ですか!? それってどういう事なんだろう? 間宮さんが僕の事を気になっている?! 間宮さんが僕の事を考えていた!?
『その人の事気になるの?』
『気になるって? んー、まぁある意味では印象的だったかなぁ』
くッ…… やっぱり話し掛けていきなり気絶してしまえばそうだろう。 気を付けないと。
『まぁ変わった人なんだね』
『あはは、そうだね。 あたしも人の事言えないかもだけど変わってるよね』
『君も変わってる人なのかい?』
『だと思うよ? そうじゃなかったらどこの誰だか知らない君とこんな時間までお話してる? でももう流石に寝るね、おやすみ』
寝るのかどうか間宮さんを覗くとギョッとした。 間宮さんは窓を開けて膝を付いてこちらを見て…… いない。
なんだ、ぼんやりと外を眺めてるだけか。 2、3分間宮さんはそうした後、窓を閉めて部屋の電気を消した。
見つかったかと思いビックリした。 でも窓を開けた時間宮さんと向かい合ってるみたいでドキドキした。
こんな事でドキドキしてしまっている僕にとって更に驚くような事が起こった。
「えー!? マジ? つかさ超可哀想」
「うーん……」
間宮さんの友達が大声でそう言った。 僕自身信じられない……
体育大会があり、男女で二人三脚のペアをくじ引きで決める事になった。 そして間宮さんのために善行を重ねていた事が実ったのか僕は間宮さんとペアに……
いつも根暗な僕だけど今すぐこの場で小躍りしたいくらいにテンションが上がっていたのと同時に大きな不安も押し寄せる。
間宮さんと至近距離でしかも触れ合っているなんて僕に耐えられるのか!? それで呼吸を合わせて走るなんて無理無理! 間宮さんを見ないようにして走る? 触れ合っているという事実を無視できるか? いや、それ以前に間宮さんのスメルを嗅いだだけで倒れるどころじゃない醜態まで晒す恐れもある。
そんな事になったら僕と一緒だった間宮さんまで好奇の目で見られる事になりかねない。 これはとてもラッキーな事なんだけど僕には荷が重いのでは?
それと間宮さんの友達を見てもわかるように周囲が間宮さんに向けて同情の目を向けている。 それはあの間宮さんがよりにもよってこの僕とペアだからだろう。
「つかさ、私が代ろっ………… うッ、キモ…… ごめん、やっぱあいつは無理だわ」
間宮さんの友達が僕を見てゾゾッとした顔でそう言った。
しまった、僕には無理だと思っているが間宮さんとペアな事実がどうしても僕の口角を緩めてしまっていたようだ。
「いやいや、そんな大した事じゃないでしょ? それにくじで決まったんだし仕方ないじゃん」
「ええ? つかさ嫌じゃないの? よりにもよってあいつだよ?」
「あたし運動は得意じゃないしもし速そうな人と組んじゃったら迷惑掛けちゃうかもしれないじゃん? だったら西野君でちょうどいいじゃん、あ!!」
間宮さんがそう言うとこちらを見てハッとした顔をして口元を隠した。 だがもう遅い。 僕にはわかった、間宮さんは僕を運動音痴だと思っている。
だけど僕にはこれもわかる。 優しい間宮さんは僕のフォローをするためにあんな事を言ってついついポロッと言っちゃったんだろう。 ふふふふふ…… やめろやめろ、ニヤつくな僕。
「うわぁ…… それでもあいつは私勘弁だわ」
「ははは…… 話してみると面白い子なんだけどな西野君って」
「いやいや、話す気にもならないって普通は」
てか全部丸聞こえなんですけど? でも間宮さんの声だけに集中しているのでなんとでも言うがいいさ、僕はそんなのもう慣れっこだ。