弱みを解消?
「間宮さんは凄いなぁ」
「ん? 何が?」
「だって中学2年まで僕のように内向的? な性格だったんでしょ? なのに間宮さんからは全然そんなの感じない」
「んーん、そんな事ないよ? バカのノリは相変わらず苦手だし、まぁそれはなんとでもなるんだけどさ、それに雫の言う通りそれまでの感性の乏しさも相変わらずだし何よりついこないだまでツー君にその時の負の感情抱きまくりだったじゃん? ツー君のお陰で吹っ切れたけどね」
僕のお陰…… 天使と仰いでいる間宮さんからそんな風に思ってもらえるとは至福の極み。
「それにね、だから今はツー君と居ると落ち着くんだ」
「落ち着く?」
「前にも言ったでしょ? あたし達何からしら共通点あるかもよ?ってさ。 ツー君とあたしって結構似てるじゃん。 歌だってあたし下手くそだしセンスも良くないし。 あ、ツー君の悪口じゃないからね」
「そんな…… でもなんだか嬉しいな」
「あ、戻ってきた」
2人揃ってトイレに行っていた坂田と赤城が戻ってきた。
「なーに? 歌ってて良かったのに」
「ツー君にあたしの下手な歌一対一で聴かせるのは苦痛かなって思っただけよ」
「あはは、つかさって結構音痴だもんね」
「はいはい、音痴で悪かったわねぇ」
ううん、間宮さんの歌なら録音して部屋の中でずっと流していたいくらいだよ。
「そーいや西野も歌えよ、せっかく来たのにまだ一曲も歌ってねぇじゃん。 まぁ想像はつくけどさ、笑うの堪えててやるから」
「ププッ、余計プレッシャーかけてどつすんのよ? 歌わないなら私歌おう」
赤城が歌い出し次に歌おうとしている坂田がデンモクを操作していると……
「ツー君も何か歌ったら?」
「いや…… 僕が歌っても冷めるだけだし」
「ならあたしと歌おう?」
「間宮さんと……」
確かに一緒に歌おうと言っていたけど…… 緊張する。 間宮さんと息が合うだろうか? それに間宮さんに恥をかかせてしまうのでは?
「なんか余計な事考えてるようだけどあたしの歌が下手くそなのは周知の事実だしだったらツー君も下手くその方があたし的にも楽でいいなぁって思ってるから遠慮しなくてもいいよ?」
「そ、そんな事……」
「んふふッ、なら一緒に歌ってくれたら後でご褒美あげる」
間宮さんはフッと僕の耳に息を吹きかけてそう言った。 ご褒美……
「うん、わかった」
「ふふッ、じゃあ決まり!」
「ふーッ、はい涼太」
「おー、サンキュ」
そして坂田が歌い出す。
「ん〜? 2人して選んでんの?」
「うん、ツー君と一緒に歌おうかなって思って」
「あははッ、何それ〜? いきなりデュエット? 西野と歌うなんて面白そうじゃん」
「でしょ? まぁ期待してなよ」
「はいはい、どんな酷いのが出来るのか楽しみ」
そして……
「ぶッ…… ははははッ、お前ら酷すぎ!」
「つかさが微妙なのはわかってたけど西野と合わさると強烈ね! あははッ」
予想以上に酷かった…… 間宮さんまで笑い者になってしまった。
「あーら涼太君、ちょっと笑いすぎなんじゃないかなぁ?」
「うぐッ…… ま、まぁ間宮と西野のお陰でめちゃくちゃ面白かったぜ!」
笑い過ぎたのか坂田は間宮さんに釘を刺された。
そしてカラオケが終わるとデパートの中で少し遅めの昼食を摂り間宮さんと赤城はトイレへ行った。
坂田も席を立ちどこへ行くのやらと思ったら喫煙コーナーに入って行った。 あいつタバコ吸ってたのか。 ん? 前に間宮さんに脅された時坂田の親は厳しいって言ってたよな? こういうのをネタに間宮さんに弱みを握られたのかな?
喫煙コーナーから戻ってきた坂田は僕をギロッと見た。
「何か文句あんのかよ? とっくにわかってたろ?」
「え? ああ、まぁ……」
知らなかったけど……
「まったく…… 間宮の奴に脅されるなんて思ってもみなかったぜ。 お陰でこの通りだ。 てかあいつら遅いな」
「嫌だったらタバコとかやめればいいじゃん?」
「やめてもいいけどうちの親がムカつくからストレス溜まるんだよ」
「坂田の親って何してるの?」
「学校のセンコーだよ、あれもダメこれもダメ、見栄えばっかり気にしやがってうんざりだっての。 でも親に逆らって見放されても俺なんかやっていけねぇしで…… ん? お前知らなかったか?」
うん、興味もなかったし。
「へぇ、なんにも悩みなさそうなのに坂田もそんな悩みあるんだなぁ」
「は? てめぇ舐めてんのか? 俺にだっていろいろあるに決まってんだろ」
そうか、なんかこいつと初めてまともに話したような気がする。 間宮さんと言ってた。 友達作りなんだよな? だったら……
「じゃあ僕が間宮さんに頼んで前に間宮さんに見せられてた画像消してあげようか?」
「え? なんで?」
「だって困ってるんだろ?」
「いいのか? 俺ってお前に文句ばっか言ってたのに」
「僕はそんなに気にしてない」
まぁ消したなんて言ってもいくらでも嘘つけるしな、弱みを握るくらいだから保存する場所なんて1つにしてるわけないだろうし。
「お前…… 」
「あ、噂をすれば間宮さん達ようやく戻ってきた」
「ごめん、ちょっと寄り道してた。 じゃあそろそろ帰ろっか?」
僕は間宮さんにそれとなく話し掛けた。
「ん? それでいいの?」
「うん、その方がいいんじゃないかなって思って」
「そっか。 ツー君がそれでいいならわかった」
「ありがとう間宮さん」
帰りは坂田と赤城もバラけるらしくてちょうど良かった。 赤城が帰って行ったので切り出した。
「坂田、さっきのだけどもう消したってさ」
「あ、ああ。 本当か?」
「本当だよ。 だからツー君に感謝するのね」
「………… ありがとう西野。 あとごめんな、今までバカにしたりして。 いきなり調子いいと思うけど謝るよ」
「それほど気にしてないって言ったろ?」
なんだか少しスッキリしたような顔で坂田は帰って行った。 よくわからないけどこれで良かったのか?
「なんか思ったよりあっさりだったね。 でも涼太君これからはツー君への態度見直しそうだね」
「そうだといいね……」
「あッ、そうだ!」
間宮さんは僕の首に手を回してほっぺにチューした。 僕は一瞬の出来事で金縛りにあったような感覚になったが……
「ま、ままま、間宮さん!? 今何を?」
「ん? ご褒美あげるって言ったでしょ。 だからそれ」
「あ、カラオケの時の」
「良かったねツー君。 友達増えそうで」
「うん、やっぱり間宮さんのお陰だね」
「そりゃあツー君の天使ですから」
間宮さんとまた1つ忘れられない夏の思い出が出来た気がした。




