間宮さんはやっぱり天使だ!
僕は家に帰って間宮さんの部屋を覗いた。 …… 思った通りカーテンを閉められていた。
間宮さんは天使だ。 きっと今だって僕の事を思ってあれやこれも木ノ下の事だって全部最初から……
木ノ下! あいつに聞いてみようか? でも間宮さんの妹なら僕と木ノ下が連絡取って何か詮索しているのも間宮さんはお見通しかもしれない。
それに木ノ下は間宮さんの家に友達と行っているってなると尚更だ。 木ノ下は最初から間宮さんの家に居たのか?
間宮さんの隣の部屋は木ノ下の部屋だから見られたくなくてあの時間宮さんは怒ったんだよな?
うーん、でも木ノ下はここより離れた高校に行ってるから高校の近くでアパートかなんか借りて1人暮らししてるって思った方が自然だよな? だったら木ノ下が1人になったら聞いてみよう。
そのためには木ノ下が帰るまで見張ってるか。 僕はしばらく間宮さんの家の玄関をみていると木ノ下と友達が出て来た。
と思ったら帰ったのは友達だけで木ノ下はまた間宮さんの家の中に入ってしまった。 当たり前か、自分の家だもんな。 …… って待てよ、夏休みに入ったから木ノ下は間宮さんの家にしばらく居るつもりじゃ?
でも間宮さんって木ノ下のこと大嫌いって言ってたよな? だったらそんなに居ないんじゃ…… ダメだ! 僕に出来る事はまず木ノ下が帰るかどうか見張る事にしよう、もういろいろとアレだ。 泣きたい、泣いてたか……
夏休みは始まったばかりなので時間は十分あった。 僕は凄まじい集中力を発揮して3日間望遠鏡の側を離れなかった。 お風呂にも入らずトイレはバケツにペットボトル、ご飯はドア前…… 引きこもりか僕は。
間宮さんが家から出て行くのは何度かあった。 僕はその度に間宮さんのもとへ駆け付けたくなる気持ちを抑える。
これじゃあまた間宮さんに会ったら気持ち悪いと言われるかもしれないけどそれでもいい、間宮さんが…… 僕の天使が戻って来るのなら。
更に4日が過ぎた頃、木ノ下が玄関から出て行ったのを見計らい僕は家を出た。
先回りして木ノ下が来るのを待つ。 動いてみてわかった。 今の僕物凄く臭いという事に。 まぁいいか木ノ下だし。
木ノ下が前から来たので僕は立ち塞がった。
「え? 西野君!? うぷッ……」
木ノ下は僕の異臭で顔を顰めた、というより吐き気を催してた。
「木ノ下、お前……」
僕が近付くとサッと退がる。 また一歩詰め寄る、その度に退がる…… そんな臭い?
「に、西野君、その異臭は一体……」
「ずっと間宮さんの家を見ていた。 片時も目を離さずに」
「え!? お風呂やトイレは?」
「お風呂にはかれこれ1週間は入っていない。 トイレは部屋で済ませた」
「はぁ…… 道理で。 聞いちゃったんですよね? あの事……」
木ノ下は鼻を手で覆いながら喋る。 え? やっぱそんな臭い?
「ああ、お前が僕を騙していた事はもう隠しようがないぞ?」
「…… ごめんなさい。 そう言っても許してもらえないですよね?」
「お前なんかどうでもいい、間宮さんはどうしてそんな事したんだよ?」
「お姉ちゃんは…… お姉ちゃんはあたしみたいな子が大嫌いになりました」
それは間宮さんから聞いた!
「お姉ちゃんとあたしは今でこそ見た目も性格も違いますけど中学2年まではあたしの方にそっくりだったんです。 そして好きな人も同じでした」
「す、好きな人だって!?」
間宮さんに好きな人が居た? 僕は心がグラッと揺れた。 待て待て、過去の話だ……
「はい、でもその人はお姉ちゃんよりもあたしの方が仲が良くて。 それでその人は本当はあたしは可愛いんだからってお洒落してみたら?って言われたんです。 そんな人に可愛いっていわれてとても嬉しかったんです。 だからあたしは頑張ってお洒落してみたんです」
「それで?」
「お姉ちゃんもその話を聞いていて彼の気を引きたくてあたしと一緒にお洒落をしました。 今のお姉ちゃんみたいに。 あたしは見た目しか変える事が出来なかったけどお姉ちゃんはあたしのように殻に閉じこもった性格も直して積極的になりました」
昔の間宮さんは木ノ下みたいな子だったのか。 性格までも……
「あたしもお姉ちゃんみたいに頑張って引っ込み事案な性格を直そうとしましたが彼は無理しなくていいよと。 あたしはあたし。 お姉ちゃんはお姉ちゃんだって言ってくれたんです。 そしてあたしの事が好きだって言ってくれたんです。 でもお姉ちゃんはそれでとてもショックを受けてしまいました。 あたしは彼が大好きでした、お姉ちゃんも同じくらい。 だけどそれであたし達の姉妹仲は最悪になってしまって」
「その彼は今どこに?」
か、過去の話だよね? ね?
「あたしと同じ高校に通ってます。 あたし…… 彼と居たくて無理言って一人暮らしさせてもらってます。 でもお姉ちゃんの事も気になって…… そんな時お姉ちゃんが見つけたのが西野君でした。 西野君が昔のあたし達みたいに見えたみたいでお姉ちゃんはあたしの代わりに西野君で…… ごめんなさい、あたしお姉ちゃんに許して欲しくて」
ん? つまり間宮さんはこの愚妹の代わりに僕を選んだって事だよな? 好きだった人でもなく木ノ下でもなくこの僕を……
「そういう事か」
「は、はい…… ごめんなさいなんて虫が良すぎですよね」
「間宮さんは僕を…… その好きな人をどうとかより木ノ下に復讐するより僕の事を過去の自分に重ねて気に掛けてくれたんだ」
「え? え? どういう事でしょうか?」
「間宮さんはやっぱり僕のために行動してくれたんだ! それって天使って事だろ?」
「??? あ、あの…… あたしが言うのもなんですけど今言った意味ではお姉ちゃんはダメだと思いますよ?」
「ダメじゃない! わかったんだ、間宮さんは僕の…… 僕の天使だ!」
「へ? あ、あの!」
僕は間宮さんの家に向かって走り出した。 臭いのも忘れて……




