崩れた虚像
木ノ下と別れて帰ろうかなと思ったけど僕は引っかかる事があったのでこのまま木ノ下を尾行する事にした。 結構人もいるので尾行しやすいし。
木ノ下はどうやら会った所に戻るらしいな。 誰かと待ち合わせしていてそれまでの時間潰しで僕とブラブラしていたんだな。
木ノ下を監視しながら待つ事15分。 来たようだ、木ノ下と話しているその子を見ると……
この前僕達と会った女の子の1人だった。 少し近付いてみよう、僕は出来るだけ目立たないように距離を詰める。
2人は歩き出した。 街から離れ、住宅街へ。 なんでこんな所に?
人気もあまりなくなり2人の声が聞こえて来る。
「ここら辺が間宮ちゃんの家なんだねぇ」
「そうだよ」
間宮ちゃん…… 木ノ下の奴間宮さんの家なんか勝手に教えやがって! なんてな、嘘だろ? 冗談だよな?
「間宮ちゃんって双子だけあってお姉ちゃんとそっくりだよねぇ。 てかお姉ちゃんと同じ感じにすればいいのにさぁ」
「あはは、ちょっとそれはね……」
なんで? 木ノ下の奴僕をだましてやがったなか! やっぱり偶然とかそんなんじゃなかった、あいつ……
するとポンと肩を叩かれて僕はビクッとして後ろを振り向いた。
「西野君」
「ま、間宮さん……」
「こんな事してるから知りたくない事知っちゃうんだよ?」
「間宮さん、一体どういう事?」
間宮さんは僕の肩から手を離しニコッと微笑んだ。
「木ノ下さんはねぇ、私の双子の妹で本当は間宮歩美。 木ノ下ってのはママが間宮になる前の苗字だよ」
「…… な、なんで木ノ下と間宮さんは別々に暮らしてるの?」
「それはね、あたし歩美の事が大っ嫌いだから!」
ニコニコした顔を崩さず間宮さんはそう言った。
「間宮さんは…… ぼ、僕の……」
「天使だと思った? あーあ、ネタバレしちゃったらあたしもう西野君に対してそんな気なくなってきたなぁ」
「だって間宮さんは僕にあんなに優しくて……」
「西野君みたいなウジウジネチネチしてるの見てると歩美を見ているようで本当に嫌になる。 西野君はねぇ、良いとこまでいったらどん底に叩き落としてあげようかと思ってたの。 そうならなくて良かったね? あ、でももうなってる? あははッ」
「う、嘘だ! 僕の間宮さんはそんな人じゃない!」
「気持ち悪いなぁ、勝手に人の事を天使にして奉るわ、部屋覗いたりするわでそんな人に目的なしで優しくしてあげると思う? あなたに気持ちなんてこれっぽっちもないよ」
「…… 嘘だ」
「物分かり悪いね西野君って。 あたしと歩美に騙されてたんだよ」
「倉石も? …… 倉石もそうなの?」
「ああ、雫はあたしとグルじゃないよ。 あの子が西野君に本気になるなんてね、笑っちゃったわ」
僕の中でどんどん何かが崩れて行った。 間宮さんは天使でもなんでもなかった、僕の心を弄んで…… なんの気持ちもなかったんだ。
「こんな所でバレちゃうなんて思ってなかったけどまぁ凝りすぎると綻びはいつか見えちゃうもんねぇ。 ちょうど夏休みになって良かったよ」
「…… え?」
いつの間にか泣いていた僕の顔に間宮さんは指を触れた。
「西野君の顔しばらく見る事もなくて。 じゃあね!」
間宮さんはそのまま立ち去ろうとした。 でも僕は、僕は……
「間宮さん!」
僕が叫ぶと間宮さんは振り返った。
「まだ何かあるの?」
「僕は…… 仮に間宮さんが嘘で近付いてきても僕は嬉しかった! 本当に天使に見えた!」
「おめでたいなぁ」
「そうかもしれないけど今の僕があるのは間宮さんのお陰なんだ! 学校が楽しいって思えたり倉石みたいな友達も出来た! それはやっぱり間宮さんのお陰だよ!」
「それももう終わったけどね」
「終わってない! 間宮さんは僕の天使だ!」
「言いたい事言い終わった? じゃああたし帰るから」
僕は間宮さんの去って行く姿をただただ見つめていた。




