揺らぐ
「ッ!?」
倉石にキスされ、僕はビビって下がろうとすると倉石に腰をガシッと掴まれて制止される。
「はぁッ…… どう? 大人なキスよ」
「…… ぼ、僕の初めてが」
「あら、初めて? なんてわかってたけど。 てかその反応失礼よ! つかさほどじゃないけど私もかなりいい女だと思うんだけど?」
「よく言うよ…… 僕がキス……」
キスしてしまった、間宮さんとではなく倉石と…… いいや! 僕は間宮さんとしている、口じゃないけど間接キスは口だ! は、初めてじゃない、初めてじゃないよな?
「初々しい反応だねぇー、あんたとキスしちゃうなんて私だって考えられなかったけどしてもいいって思えるくらいあんたの事好きなんだからね?」
「…… それはどうも」
「ぐぬぬ、薄い反応でムカつく! この私がキスしてあげたのに」
「あ、そんな事ないんだ。 ただあまりに現実感なくて」
「ふぅん。 そう? じゃあもう1度する?」
「ぼ、僕には刺激が強過ぎる!」
「うふふ。 これじゃあつかさとキスは遠いわね。 あ、でも待てよ。 つかさから…… いやいや、ああでもあいつだからこそわかんないか」
倉石はブツブツと言いなんか1人で考え出した。 そうだ、間宮さん先帰ったようだけど部屋に居るのかな? と思い覗いてみるが部屋には居なかった。 どこか寄っているのか?
「ねぇ、お腹とか空いてない?」
「え? ああ、ちょっと空いてるかな」
「じゃあ私お昼ご飯作るね!」
「またか。 人の家で当たり前のように料理作るなよな……」
「いいじゃん、誰も居ないし! 恋人らしい事してあげるわ」
「こ、恋人らしいって……」
「うふふッ、所謂お家デートだね」
なんだそれ? リア充はそんな事してるのか?
倉石はキッチンへ行き料理を作り始めた。 人の家の食材勝手に使いやがって……
「ふんふん〜♬」
鼻歌を歌いながら倉石が僕の家で料理している光景は不思議だなぁ。
「さぁ、出来たよ。 サンドイッチだけどいいよね?」
「まぁなんでもいいけどさ。 いただきます」
「ふふん、どうぞ」
ちくしょう、美味しく感じる…… でも倉石の事は嫌いじゃない。 嫌いじゃないけど僕にとってはヒロインは間宮さんなんだ、このままズルズルと倉石のペースでいいのか?
このサンドイッチを今すぐにでも投げ捨てて出て行けって言うべきだ。 じゃないと…… じゃないと……
「ん?」
倉石が穏やかな表情で僕を見ている。 僕にそんな顔を見せるな! 僕は間宮さんだけなんだ……
「あ、コーヒーもどうぞ」
「…… うん」
って僕は何がしたいんだよ!? 倉石がこんなに僕に優しくするから…… 僕は家族、間宮さん以外には優しくされ慣れていなかった、なのに倉石はこんな風に僕に接するから僕はブレブレだ。
「わお! 全部食べちゃったね、そんなに美味しかった?」
「まぁ……」
「嬉しいな、また作ってあげるよ」
倉石は後片付けをして今日は帰って行った。 倉石が先ほどまで居たキッチンを見つめる。
ダメだ、家に居ちゃ思い出す。 頭を冷やそう。
間宮さんも居ないし僕は街の方へと何をするわけでもなく出掛けた。
駅周辺をブラブラとしていると見覚えがある奴が居た。 そいつも僕に気付いた。
「西野君!? え? なんでここに?」
「木ノ下…… お前こそなんで?」
「あ、あたしはちょっと…… あのもし良かったらご一緒しませんか?」
「ご一緒って…… まぁいいよ、僕はここら辺ブラブラしてただけだし」
「本当ですか? やったぁ! でもどこ行きましょう?」
はぁ? ご一緒しませんかって言っておいてノープランかよ? こいつって適当だなぁ。
「ご一緒しませんかって言っておいて何も決めてなくてすみません」
「本当だよ、今日は別にいいけどさ」
それから駅周辺の店を見たり寄ったりして木ノ下とあてもなく歩いていた。
「そういえばさ、木ノ下の学校の女の子達がこの前間宮さんに話し掛けてたよ」
「ああ、聞きました。 何か変な事とか言ってなかったですか?」
「んー、どうだろ? あれって木ノ下の友達?」
「友達というか同じクラスメイトですね。 ファミレスで見られてたらしくて帰り際に声掛けられちゃったんですよ」
「ふぅん。 その子達って間宮さんとは遊んだ事あるの?」
「んん…… えっとそうならそうかもしれません」
なんか要領得ないな…… あれ? でもなんで間宮さんの真似した木ノ下を木ノ下だとわかったんだ?
「あ! あたしここまででいいですのですみません、付き合わせちゃって。 でも会えて良かったです。 今度はちゃんとした形で遊んで下さい! それとたまにはLINE返してくれたら嬉しいです。 じゃあこれで!」
「え? あ、そう……」
木ノ下はそう言ってそそくさとその場から立ち去った。 僕もそろそろ帰ろうかと思っていたのでちょうど良かったけど。




