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倉石の失恋2


本降りになってきた雨の中、僕はそこら辺を走り回っていた。 



どこ行ったんだよあいつ? 僕も風邪引にさせる気か? 間宮さんも風邪で学校行けないしそれはそれでいいんだけど。



倉石は脚が長いので脚が速い。 女子に脚力で負けるとは…… 身長も負けてるけど。



あいつ傘とか持ってんのかな? 僕の携帯濡らしてないよな? 



ああ、こんなんじゃ間宮さんのお見舞いにも行けないずぶ濡れだ。 倉石を見つけて携帯返してもらってから…… あー、それにコンビニで買った商品も雨でびしょ濡れ…… 鞄にしまうの忘れて走ってた。 雨水に濡らした物を間宮さんに渡すわけにはいかないし買い直して。 



ああーッ! そんなモタモタしてたらお見舞いなんて行ってる時間じゃなくなるだろ! 余計倉石が居ないと間宮さんのご両親は僕を警戒するだろうし。 もしやお見舞いパァになった?



もう走り疲れたし風邪引きそうだし今日は間宮さんも居ないし厄日だ。 



大分走ったと思う。 広い道路に出て河川敷に入った所で目の前から雨に打たれながら歩いている女の子が…… きっとあれ倉石だ! なんかわかる。



俺が近付くより先に後ろからトラックが行き倉石を通り過ぎる時に盛大に泥水を倉石に浴びせた。 だがそんなの気にならないのかトボトボと歩いていた。



うわぁー、やられたい放題だなあいつ。 なんか話し掛けにくいなぁと思いつつ近付く。 あいつもコンテナハウスから飛び出した僕を追い掛けてる時そんなんだったのかな?



「倉石」



まだ雨で洗い流されてない泥水を被った倉石に声を掛けると倉石は振り返る。 



「は? 西野…… なんで?」



振り返った倉石の顔は今被った泥水で少し汚れている。 



「なんでって僕の携帯」

「あ……」



倉石はハッとしてびしょ濡れの鞄の中から僕の携帯を出した。 倉石は顔だけじゃなく当然服も泥だらけだった。 そして肌に張り付いたシャツが倉石の体を透かして見せていた。



いつもなら変態! 見るな! と罵られるんだろうけどそんな気力もなさそうだ。



「ごめん、私かなりテンパってたね。 わざわざこんなとこまであんたを来させてね……」

「ああ、びしょ濡れにもなった」

「あ…… 私傘持ってたんだ……」



倉石は鞄から折り畳み傘を出した。



「まぁもう遅いか。 何やってんだろ私」

「本当にな」

「ふふッ、何にも期待しちゃいないけどあんたってデリカシーないよね」

「僕に何を求めるんだよ?」

「もういいよ、つかさの所に行ってあげなよ?」

「こんな状態で行けると思うか? 帰って着替えたりいろいろやってたらそれこそお前が付いてこないと行きにくいだろ?」

「それもそうだね、ごめん。 本当ごめん。 私のせいだね、頼りになるどころか迷惑掛けちゃったね」



倉石はごめん、ごめんと何度か言って下を向いてしまう。 はぁ……



「元気出せよ?」

「うん」

「そんな事もあるって」

「うん」



ダメだこりゃ…… なんで僕が倉石を励まさなきゃいけないんだ? 友達って大変だ。 



「僕さ…… 中学生の頃女子のプールの時間にいじめられてた連中に素っ裸にされて放り込まれたんだ」

「は?」

「もう最悪だったよ。 キモいキモいが飛び交う阿鼻叫喚、それだけじゃない、こんな事もあった。 クラスの女子のリコーダーを同じくいじめられてた連中に無理矢理咥えさせられたんだ。 なのに僕がその女子にビンタされた」

「いきなり何言ってんの?」

「まだまだあるんだ、毎日のようにそれの繰り返しが僕の中学生時代の黒歴史。 そんな僕に比べたらなんて事ないだろ?」

「励ましてくれてるの? それ」

「さぁ? 僕そういう友達とかって呼べる奴居なかったしわかんない」

「………… ふふふッ、そっか。 確かにあんたと比べたら私の失恋なんて生温そうね」

「だろ? 僕クラスの同窓会とかあっても絶対行きたくないわ」

「あんたそんなにされても性格ねじ曲がって最悪な方に行っただけだもんね。 私だったらそんなん毎日のようにされたら死んでるかも」

「お前こそデリカシーないな」

「お互い様だね」



倉石は一歩僕から引いてニコッと微笑んだその顔にはもう泥が落ちて綺麗な顔になっていた。 



だがその瞬間またもトラックが来てしまう。 倉石が一歩引いたせいで危ないと思ってしまったので腕を引き倉石を僕の方へ引っ張った。



「え? あッ!」

「あ……」



勢いで引っ張った倉石を巻き込んで土手をゴロゴロと転がり落ちる。 運悪く僕の落ちた先にデカい石があって僕の後頭部にガツンと当たる。



「ーーーッ!!」



痛すぎて悶絶する、血は出てないけど確実にタンコブ確定だ。 



「西野! だ、大丈夫!?」

「めちゃくちゃ痛い」

「見せて?」



倉石が駆け寄り僕の頭を膝に置いた。 びしょ濡れだけど少し暖かい。



「良かった、タンコブ出来ただけね」

「良くない。 痛い」

「ぷッ…… あはははッ、大丈夫だよ。 でもあんたも泥だらけね。 てか危なかったね? 西野に助けられるなんて予想外だった、ここに来てくれたのも予想外」

「それはお前が僕の携帯持ってたから」

「はいはい、そーですね。 でもありがとう、なんかいろいろ元気出たよ」



え? は?



倉石の顔が近付いて来たので僕は何をされるのかと思ったら…… おでことおでこをコツンとくっつけた。



「…… 少しだけあんたがかっこよく思えちゃった。 転がり落ちてる間私が怪我しないように抱きしめてくれたでしょ」

「さぁ? 何も考える暇なかった」

「ちゃんと男らしい所もあるのね」



倉石は僕を起こすとすぐ側にあった橋の下へ行き僕に折り畳み傘を渡した。



「なんで僕に?」

「お礼のつもりなんだけど?」

「今更傘? 意味なくない?」

「…… うっさい! せめてものお礼よ。 今はそれくらいしか出来ないし……」

「ふぅん」

「つかさの事は…… ちゃんと埋め合わせするから」



傘に一瞬目を落とし倉石を見ると倉石は僕を見ていたが目が合うと倉石は慌てて逸らしたように見えた。



「何?」

「し、知らない! 見るんじゃないわよこの変態! ドスケベ!」



肌と下着が思い切り透けて見えているのに今頃気付いたのか倉石は真っ赤になって鞄で体を隠した。 あー、ようやくいつもの調子に戻ったか。



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