木ノ下と……
「とりあえずここにしませんか?」
「ああ……」
木ノ下と僕はカフェスペースがあるケーキ屋に入った。 席に座り木ノ下と相対して改めて感じる。 本物にしか見えないと……
「間宮さん…… 」
「き、木ノ下です」
「そうだった」
くそ、こんなのバカげてるってわかってる。 目の前に居るのはガンガル、ガルダン、ドン・ホフマン、パチモンだ! と心ではそう思っていてもこうも似てるとそうはいかない。
「あの…… あたしやっぱりおかしいですか? やめた方が良かったですか?」
「あ! いやいや、もう少し……」
「? んふふッ」
「は?」
何笑ってんだこのクソアマ! なんていつもは思うのだが目の前のこいつを見ていると間宮さんなので可愛いなんて不覚にも思ってしまう。
「あ、ごめんなさい。 西野君なんだか今までと違うのでつい」
「そりゃあこんだけそっくりだとさ」
「そんなに似てます? 西野君にそう言ってもらえると嬉しいけどでもなんだか複雑です」
「…… ん? あれ? そういえば今更だけど木ノ下って何歳?」
「あはは、本当今更ですよぉ〜! 15歳です。 西野君と同い年です」
「え? 木ノ下と同い年なんか言ったっけ?」
「あ、いや、なんとなくわかりますよ」
「ん? そうかな?」
まぁこいつストーカーじみてるからわかわられててもおかしくないか。 おっと今のこいつは間宮さんのようなものだ、失礼な事はなかなか言いにくい。
「西野君……」
「!? は、はい」
「あたし…… 西野君と友達ですよね?」
「うん、そうだけど?」
「手……」
「手?」
「手を握ってもよろしいですか?」
木ノ下が真っ赤になってそう言うと今は間宮さんにそんな事を言われているようで僕はテーブルの上から木ノ下に手を伸ばすとゆっくりと木ノ下は僕の手の上に手を重ねて握った。
「ご注文のカプチーノを……」
「はッ!!」
その瞬間に店員が来てしまい僕は慌てて木ノ下から手を離した。 木ノ下もサッと手を引っ込めて平静を装う。
「び、ビックリしました」
「僕も……」
リア充みたいに人前でイチャイチャなんてひけらかす事なんて無理だ。 ていうかこいつに手を握らせてしまうなんて所詮外見だけだなんてのは……
「お前そんなに間宮さんにそっくりになったら来週から大変だな」
「え? なんでですか?」
「間宮さんになったんだぞ? モテまくるじゃん」
「ああ…… んふふッ」
笑われた…… でも間宮さんが笑ってるみたいだから許す。
「大丈夫です、また元に戻しますから」
「あ…… 」
元に戻すのか。 そしたらどうでもいいなこいつ……
「ガッカリしすぎです西野君…… 」
「う…… そんな事はいよ、ま…… 木ノ下」
「今また間宮さんって言おうとした……」
珍しく木ノ下はムスッとした、まぁ間宮さんにさせられて擬似体験させる方の身としてはさぞや気分は複雑だろうってのはわかるけどこのクオリティだし。
「初めて会った時あたしがこれだったらって考えちゃいます。 そうだったらもう少し西野君の気を引けたんでしょうか?」
うん、目の前にするとよくわかる、今もかなり僕の気を引いている。 偽物だけど。
手を握っていいですか? なんて潮らしく間宮さんから言われた日には僕は……
注文したケーキも来て食べ終えて次はどうしようかと考えていた。 いつもの木ノ下ならこのままはい、さよならなんだけど勿体ない。
「少し街の中歩きませんか? あたしあんまり来れないので」
? そういう割には来てるようか気がするけど住んでるとこはここじゃないようだし。
「いいけど?」
「本当ですか? やったぁ!」
「木ノ下ってここからどれくらい離れた所に住んでるの?」
「電車で1時間ちょっと掛かっちゃいますねぇ」
結構遠いんだな、それなのによく来るよな。 こっちの反対側にも街とかあるのに。
「なんでわざわざこんな所にちょくちょく来るの?」
「だって…… それは」
「言えない理由?」
「西野君が居るからです、西野君に会いたいから……」
「うぅ……」
「え!?」
いけないいけない、間宮さんにそんな事言われたような気がして嬉しくて目眩に襲われた。
「大丈夫ですか? どこかで休みます?」
「ッ!?」
更に僕の体を支える木ノ下を間宮さんが密着して支えているように思えて拍車が掛かる。
「ああ、うん…… 心臓に悪いからそこの満喫でちょっと休もう」
「え? は、はい」
何故そんな所? と木ノ下は思ったろうが人が多い所でこいつが間宮さんと脳内変換されて何か醜態晒すよりもいいと思った。




