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木ノ下が間宮さん?


「…… なんでここに居るの? ひょっとして僕の後とかつけてる?」

「そ、そんな事ありません! あの…… 会いたいなって思ったら西野君が現れたんです!」

「んな無茶な」

「本当に本当、今日は偶然なんです!」

「今日は? てことは偶然じゃないって事もあったんだよね?」

「あッ…… 違います、これは言葉の綾です!」



だっておかしいだろ? 今日は休日で僕は起きてコンビニに行こうとして玄関を出て1分もしないうちに偶然バッタリと木ノ下に会うなんて普通じゃないだろ。



「えっと…… そこが西野君の家なんですね?」



ギクッ…… よりにもよってこいつに家バレしてしまうとは。 



「今からどこ行くんですか? ご一緒して良いですか?」

「嫌だって言ったら?」

「あうう…… そんなの嫌です」

「…………」



僕は面倒になったので木ノ下を無視して歩き始めると木ノ下は僕の後ろからついてくる。 やっぱ怖いよこいつ……



「な、なんかストーキングされてるみたいで不気味だから横歩いてくれない?」

「え? は、はい!」



木ノ下はそう言うとウキウキといった感じで僕の隣に来た。



「はぁ〜、なんで見てんの? 僕見られるのって苦手なんだけど」

「ごめんなさい…… でも西野君って凄くカッコよくなったから。 会う度になんだか新鮮で」

「お世辞はいいよ、どうせこの格好も全部倉石が誂えたようなもんだし。 木ノ下も適当にイメチェンしてみれば?」



その時僕は佐伯が前に言っていた事を思い出した。 そんなに似てるなら間宮さんにしてみれば? という事を。



今まで間宮さんじゃないから意味はないって思ってた、だけどこのくそ面倒な木ノ下と付き合っていく中でストレスしか溜まらないって割に合わない。



こいつはどこまで行っても所詮紛い物のパチモンだ、だけどこいつを間宮さんにさせたら普段間宮さんから言ってもらえないような事を疑似体験出来るのではと? それなら幾分か気も紛れるんじゃないかと。



「…… イメチェンですか。 どんな風にしてみれば。 うーん」

「こういうのにしてみれば?」



僕は密かに隠し撮りしていた間宮さんの画像を見せた。



「うえッ!? えええ!! こ、これって間宮さんじゃないですか……」

「そうだけど?」

「いくらなんでもそれは……」

「だよな、まぁそうだと思った」



まぁダメ元だったのでこうなる事も予想済みだった。 どうせ言ってもやらないだろうと。



「…… でも間宮さんになればもうちょっと構って貰えます?」

「え?」

「髪の毛は切ろうと思ってたんです、流石に間宮さんと同じ髪型とかは失礼過ぎて出来ませんけどおさげやめて眼鏡外してコンタクトにしてお化粧真似てみれば」

「ま、マジで?」

「あ、あたしもイメチェンとやらしてみます…… それで西野君に喜んでもらえるなら」

「じゃあ次会う時……」

「今します! あたしコンタクトも一応常備してるので!」

「はぁ!? い、今?」



ダメ元で言ってみたのになんて事だ…… すっかり目論見通りになってしまった。 とりあえずコンビニで買い物を済ませて木ノ下は最初に薬局に寄りたいと言ったので薬局へ行く。



トイレへより木ノ下は眼鏡を外してコンタクトに変えた。 もとからそっくりなのでそれだけでちょっと感じは違うけどグッと間宮さんに近付いた。



「化粧品は持ってきてないのでお試しのを拝借しちゃいます」

「ああ、うん……」



ペタペタと化粧品を塗っていく木ノ下は手慣れている感じに見えた。



「慣れたんだな?」

「いえ…… 美術が得意なのでなんとなくこんな感じかなぁと」

「ふーん」

「出来ました!」

「お、おお!」



木ノ下はおさげを解いた。 間宮さんだ…… 木ノ下の方が髪が長く泣き黒子があるがそれ以外は完璧に間宮さんだ。



「ど、どうでしょう?」

「なんか想像以上に間宮さんだ……」

「本当ですか? う、嬉しいです?」



僕は言葉なくコクコクと頷くとパァーッと木ノ下が微笑むと間宮さんがそこに居て笑っているかのようだ。



「えっと…… もともとは髪を切りに行こうと思っていたので、も、もし良かったら一緒に来てもらっても宜しいでしょうか?」

「…… う、ん……」



なんて破壊力だ…… ここまでとは。 僕は目の前に間宮さんがいる錯覚に陥り言われるがままだった。



「じゃ、じゃあ僕が髪を切りに行った美容室あるけどそこに行く?」

「え? 西野君が切った所…… はい! そこがいいです!」



木ノ下は僕の目の前で二パッと笑う。 パチモンだ、紛い物だ、出がらしだとか思っていたのに目の前にするととんでもない。



本当に瓜二つなのだ、世の中3人くらいそっくりさんが居るってのは聞いた事あるけど本当そっくりだ。 しかもこいつは僕になぜか従順。



「ほら、ここだよ」

「ふぇーッ、ここなんですね。 あの…… 終わるまで待っててもらえます?」

「ああ」



僕はジーッと木ノ下を見ていた。 もう食い入るように…… そこでハッとした。 だからか!? だから間宮さんはあんなに木ノ下推しだったのか? 



僕は今不覚にも木ノ下に心奪われてしまった、それは間宮さん自身は僕の想いを受け取る事は出来ないけど自分そっくりな木ノ下ならと……



自分そっくりだから結果オーライ? いやいや、でもなんでそんなまわりくどい事する意味は? ていうか全部僕の勝手な憶測で全部が勘違い?



違う違う! そんなわけない。 てかそんな事してなんの意味があるんだ? 誰のためにもならないじゃないか? でも天使な間宮さんは僕のためになると思ってる? 



よくわからない思考スパイラルに陥っていると足元に影が掛かった。



「あの…… 終わりました」



見上げると本物の間宮さんより若干髪が長い間宮さん…… じゃなかった、木ノ下が立っていた。



間宮さんはウェーブが少し掛かったミディアムヘアだけど木ノ下はそれより少し長いストレートだ。 そこと泣き黒子くらいしか見分けがつかない。



「お待たせしちゃってごめんなさい、どこかお茶でもしていきませんか?」

「…… そうする」


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