倉石雫は僕の友達?
コンテナハウスから飛び出して何故か僕は今倉石と一緒に帰っている。 なんでこんな奴に僕の心配なんかされなきゃいけないんだ。
こいつだって僕の事キモいとか無理とか言ってたくせに。
倉石とは今日まともに話したのでなまじ気不味い。 倉石もそうなのかそっぽを向いて歩いている。
何気にコンテナハウスからの道のりは遠いのでいつまでこの調子で歩かなきゃいけないんだと思うと気が重くなる。
倉石も勢いで飛び出したようなものなので一緒に帰るという選択をした事を後悔しているに違いない。
そうしてしばらく歩いていると……
「あんたさ……」
「?」
「あんたさっき真に何言われたの?」
その事か。 思い出したくもないな、あいつの言った事と顔は……
「別に話したくなきゃいいけどさ」
はぁ? なんだよそれ? 聞いておいてやっぱいいとか…… 腹が立ってきた。 こうなったら大城に言われた事を言って更に気不味くなれ、もうヤケだ。
「お前友達いないだろって」
「ふぅん」
「僕みたいなネチネチした奴は自分から関わるなオーラ出してそのくせ寂しがり屋で惨めな奴だって」
「そっか。 そんな事言われたんだ」
ほうら、悔しいけど当たっている所もあったかもしれなかったので僕は何も言えなかった。 いや、多分そうじゃなかったとしても何も言わなかったろうな。
「まぁそれはその通りじゃん?」
「…………」
…… やっぱりこいつも大城と同じく僕をバカにする存在だ。 何が見てらんないだ? 今もこうして心の中では惨めな奴って思って笑ってるに違いない。
「でもあんな風に笑い者にするってのはあいつらちょっと酷いよな、私もあんたの事キモいって思ったけどつかさの言う通り話してみると意外と悪くなかったし」
「え?」
「まぁつかさの隣であんたをしばらく見てたっていう事もあったからかな、慣れれば別にそこまでってほどじゃないよ、そういう意味じゃ私も了見狭かったね」
これって慰めてるつもりなのか?
「それにさ、つかさ達の事尾行してみないって言ったのは私だし私がヘマして見つかったのも私のせいだしそれで西野が嫌な思いしたのは悪いって思ってるよ。 ごめんね?」
「…… そう」
なんだろうこの調子狂う感じ…… まさか倉石からそんな言葉を聞くなんて。
「それにつかさだってあの場ではああだったけど明日になれば謝ってくるよ、あいつ浩人達に絡まれて忙しそうだったしさ。 好きなんでしょ? つかさの事」
「間宮さんと僕はそういう好きとか嫌いとかもう超えてるから……」
「何それ? どういう意味?」
普段とは違う倉石の態度のせいか僕はもうよくわからなくなっていた。 仮に間宮さんが明日謝りに来てくれたとしてもあの場で何もしてくれなかった、追いかけて来たのは間宮さんじゃなくてあろう事か倉石だった。 だから僕は……
「僕は間宮さんに構ってもらえて嬉しくて間宮さんが天使に見えてそんな間宮さんを僕のものにしたくて前から帰り道尾行したり家から望遠鏡で間宮さんの部屋を覗き見見てたんだ」
「え? それって…… 本当?」
「本当だよ。 それからしばらくして間宮さんにその事がバレたんだ」
「それで…… つかさは?」
「間宮さんは僕にとって天使なんだって言ったら間宮さんはじゃあ僕の天使になってあげるって言って……」
それを聞いて倉石は盛大な溜息を吐いた。
「あんたら一体何やってんのよ? 意味不明なんだけど? あんたはつかさの事が好きってわかるよ、やってる事は普通じゃないけど。 わからないのはつかさの方ね」
「僕もわからなくなった」
「てかよく話したね、私にそんな事」
「僕もそう思う」
なんでこんな僕にとっては路傍の石のような倉石に言ってるんだ? 僕は間宮さんに助けてもらえなくて拗ねてしまってるのか?
「うん、西野はキモい!」
倉石はいきなりそう言って僕の背中をバンと叩いた。
「でもそんな事ぶっちゃけてくれるって少しは私の事信用してるのかしら?」
「え?」
「まぁネチネチしたあんたにはわかんないだろうけど多分そういう事だよ。 私はそういう事にする。 つかさの前では私は今の話は聞いてない! そうした方が西野もいいでしょ?」
「それは…… まぁ、うん」
倉石は手を差し出してきた。 僕はなんだかわからず首を傾げる。
「もう、あんたって鈍チンなんだから! 私と西野は今腹を割って話したんだよ? もう友達だよ」
僕のブラリと下げていた手を倉石は取って自分の手に握らせた。
「つかさとはそういうんじゃないんなら私があんたの友達になってあげるって言ってるの! わかりなさいよ?」
「…… 友達」
「だから真の言った事は間違いね。 友達居るじゃん? 目の前に」
そんなもんなのか? 倉石と僕が友達?
「私ってつかさと違って口悪いけどさ、悩みとかあるなら聞いてあげるから頼っていいのよ」
そして倉石は何か思い出したような顔をした。
「さっきあんた自己紹介してたよね。 じゃあ私も。 私は倉石雫。 あんたの友達第一号、これからよろしくね」
ニッコリと笑って倉石は僕の手をさっきより強く握った。




