天罰
ああ、なんて楽しいんだ、楽しくて堪らないよ……
ずっとずっと見ていられる、間宮さんはなんて真面目な子なんだろう、そういえば頭が良いってのも聞こえてきたな。 完璧だ、まさに間宮さんは完璧だ! 間宮さんを観察してから1週間が過ぎた。
間宮さんに集中してしまうあまりに僕はここ3日ほど学校を休んでいた。 何故かって? こんな後ろめたい事をしているから間宮さんが居る同じクラスに顔を出しづらいって?
…… 違うな、今の状態だと間宮さんが僕が発する円の半径4メートル以内に入っただけでも僕はきょどってしまうだろう、悪目立ちするくらいに。
そんな状態にならないためにも今は、今は我慢だ! 何を我慢するかわからないが我慢だ。 でもそろそろ間宮さんが学校から帰ってくる時間だ、お迎えに行かなければ…… 僕の天使を!
パーカーを着てマスクで顔を覆う。 これで僕だとわからないはずだ。
よし! 待っててね間宮さん。 僕が君を危険から遠ざける!!
学校から少し離れた所で待ち伏せる。 こんな事をしている僕は側から見てどんな風に見えているんだろう?
浅はかな奴は僕をストーカーと罵るだろう嘲るだろう。 物事の本質が見えないバカどもだ。
だが僕はそんなんじゃない。 これは間宮さんのためなんだ。 間宮さんが安心して行き帰り出来るように僕はいつも気を遣っているんだ!
例えばそう…… あそこに小石がある。 危ない、もし間宮さんがあそこの小石を踏んでしまい足を挫いてしまったら大変だ。 撤去だ!
ふふふ…… まるで僕は間宮さんを守護る親衛隊のようだ。 そう、僕が間宮さんを守護らなければならない。
おっと、そろそろ身を隠さないと……
そして5分くらい経っただろうか? 間宮さんらしき人物が歩いて来た。 ああ、今日もお美しい。 …… ん? ああ!?
だ、誰だあの男は!? ま、間宮さんが男の人と歩いている。 間宮さんはそのどこの馬の骨とも知らない男と一緒に笑っている……
何故? 何故だ間宮さん…… 酷いよ酷過ぎる、僕に見せた天使のような優しさを他の人にも。 女の子同士なら構わない、だけど、だけど男になんて……
そ、そうか! 無理矢理だ! 僕に優しく接してくれる間宮さんは本当は嫌だけど優しい間宮さんは断れずにあの男と一緒に居るに違いない。 そして男に合わせて無理して笑顔を作っているんだ! そうに違いない。
そう思うと涙が出てきた。 な、なんて優しんだ間宮さん……
その優しさに付け込んで間宮さんの大切な時間を奪うなんてあの男は万死に値する。 それに間宮さんは清廉潔白でおられるんだ、お前如き俗物が手を出していい存在ではない。
だけど僕に何が出来る? いじめられっ子の僕が何を……
ハッキリ言って喧嘩なんて僕には無理だ、ヒョロガリだ。 喧嘩で勝てるようならいじめられてないし。
そ、そうだ! 間宮さんをお守護りしようとしてさっき撤去した小石があった。
小石を拾い僕は間宮さんの横にいる蛮族に狙いを定める。
ん? ちょっと待てよ。 僕ってちゃんと当てれるのだろうか? 僕ノーコンだったよな?
もしかするとこの小石が間宮さんに当たってしまうかもしれない、そんな事になったら僕は地獄に堕ちてしまうだろう、ここ数日間、いつか訪れるであろう約束の日に備えて間宮さんを守護り善行を重ね、きっと2人で楽園へ……
えへ、えへへへ…… ん? あれ!? 2人は? 2人はどこだ!?
間宮さんと2人で楽園に居る光景を想像して楽しんでいたら2人を見失ってしまった。
く…… 間宮さんのお美しさも時と場合によっては考えものだ、こんな所で裏目に出てしまうとは。
僕はふともしかするとあの公園に間宮さんとあの男が居るかもしれないと思い急いで向かった。
あの公園が失楽園と化してしかまうのか!? ダメだ、それだけは考えたくない! 間宮さん、僕の間宮さん! 待っててくれ!
現場に着くと僕の予感は的中して間宮さんと男は2人でブランコの方へ居た。
な、なんて光景だ…… 間宮さん、いくら演技でもその男とシーソーゲームなんてしちゃいけない! 角度によっては見えてしまいそうな間宮さんの秘境へとその男は誘っているんだ。 そいつは悪の使徒だ、それ以上一緒に居てはいけない!
もう、僕が塞を投げるしかない。 先程から握っていた小石を更に強く握った。
これは復讐ではない、復讐とは個人の感情が先行してしまい公平な判決にならない。 そう、これは制裁、天罰、天誅! 神が創りたもうたであろう神秘の造形美である間宮さんに出来損ないのヘカトンケイルが手を出していいはずがないのだ。
今なら当てれる。 間宮さんのためなら! ゼウスの怒りを知るがいい! 僕は今この場に置いてゼウス神なるぞ! 後悔するがいい!
僕は影から脚を踏ん張り構えを取って投げようとした。 だが僕は先日降った雨の泥濘に立っていたのでズルッと滑り小石は僕の頭上天高く舞い上がる。
泥濘にドシャッという音を立てて転けてしまいおまけに石まで頭に当たる。
「え? 何?」
「ん?」
その音に間宮さんと男が反応した。 ま、まずい! 僕は慌ててそこから逃げ出した。 ちくしょう! ちくしょう…… 僕はなんて間抜けなんだ。
結局あの男と間宮さんがどうなったのかはわからない仕舞いだ。 今日は帰ったらいつもより念入りに間宮さんを観察しなくては。