倉石と尾行
「いい? 気付かれないようにしなさいよ?」
「うん……」
「いやー、あんたが髪切ったのは大正解だわ。 前のままだったら一緒に歩きたくないもん」
こんな事でもなければこっちから願い下げだ。 なんで倉石なんかと……
くそ…… 佐伯の奴、間宮さんの肩に汚い手なんか起きやがって!
「うわぁ、浩人の奴露骨ーッ。 でも客観的に見ればあの2人お似合いよねぇ」
「そ、それはない」
「は? なんであんたがそんな事は言えるの?」
「…………」
間宮さんが僕の天使だからに決まってるだろ! こいつに言った所でキモッ! とか言われるのが目に見えているので言わないが。
「何話してるか聞こえないわねぇ。 まぁ予想はつくけど」
2人が立ち止まったので自販機の影に隠れる。 なんで立ち止まったんだ? ってこっち見てないか!?
「や、ヤバッ! こっち来るわよ!」
「ど、どこか隠れる所ッ!」
僕達は慌てて場所を探すがそういう時に限ってない……
「こ、ここよ!」
飛び込んだ先は自販機のすぐ隣の窪み…… 1人がギリで入れる所に僕と倉石が。 幸い僕は痩せ型、倉石も痩せているのでなんとか収まる。
「さ、最悪ッ…… よりにもよってあんたと密着状態とかなんの罰ゲーム? この変態ッ!」
「しーッ! 静かにしないとバレる」
僕だってお前となんか密着したいなんて思わんわ! と…… 間宮さんと佐伯は?
「ありがとー! ちょうど喉渇いてたんだ。 佐伯君優しい」
「いいっていいって。 俺も同じだったんだから。 何飲む?」
「あたしミルクティーがいいなぁ」
「わかった。 ほら」
はぁ? たかが飲み物如きで天狗になってんのか佐伯の奴…… 間宮さんはそんなんで餌付けされる程安い人間じゃないんだよ! 得意そうな態度取りやがって!
「ちょッ! どこに顔付けてんのよ!? このドスケベ!」
「え?」
2人を見ようと顔を少し出そうとしたら柔らかい感触…… 倉石の胸でした。
「ご、ごめん」
「こら! う、動くな!」
自意識過剰もいい加減にしろよ? お前なんかの胸じゃ僕はなんとも思わないんだよ!
「俺は何にしようかなぁー?」
佐伯は何を買うか迷っているようだ。 優柔不断な奴だ、間宮さんはすぐ決めたって言うのに。
「まだ決めかねてんのかよ浩人の奴。 勘弁してよ…… って人の胸でモゾモゾ顔動かすなよ、マジキモい!」
「だって息苦しいんだよ」
「ぜってーつかさに後でチクッてやる」
「そ、それだけは、それだけはやめて下さい!」
「ひゃあッ! 腰に触るな!」
くそ! 倉石のせいで冷静な思考が出来ない。 かくなる上は……
「んむッ!」
「これ以上騒ぐとバレる!」
倉石が暴れて今にも大声をあげそうなので手で口を塞いだ。
「俺はコーラかなぁ」
やっと佐伯はジュースを選んで2人は自販機から去って行く。
「んむぐぐッ! 離せ変態!」
「はぁ、ようやく行った」
「ああ?! ようやく行ったじゃないわよ! 何してくれてんのよ!?」
「し、静かにッ!」
だからこいつと尾行するの嫌だったんだよ……
そして間宮さんと佐伯は佐伯の友達らしきチャラい連中と合流する。 男子4人、女子3人の計7人。 考えたくはないけど間違いが起きてもおかしくないなこれは……
「あ、潤君も来てるんじゃん」
「潤君?」
「ほら、あのワイルドなの」
ああ、あれか。 あの世紀末から来ました的なガラの悪そうなのが倉石の好みなのか? ふん、程度が知れるな。
後は…… 安西先生みたいなのがいる。 なんで?
「あの太めの人は?」
「ああ。 あれ? 大吉君よ」
だ、大吉…… 縁起良さそうな奴だな。 でもなんであんな安西先生みたいなのが?
「あー、あんたなんで大吉みたいなのが?って思ってるでしょ? あんたと違ってコミュ力高くて面白いんだからあんたとじゃ比べ物にならないわ」
コミュ力…… ぼ、僕だって間宮さんから面白いって言われてるし!
「女子は麗華と琴かぁ。 つかさと琴の2強ね。 ほら、あの黒髪ロングの。 まぁ変な奴らは来てないようね。 安心しなよ西野」
あれか…… 本当だ、そう言うだけあって可愛いんだと思う。 でも僕の天使が1番だけど。 そうか、変な奴らは来てないのか。 だから間宮さんは今回行ったのかな?
「後は大吉君の家の土地にあるコンテナハウスに行くみたいね。 私らも行くわよ」
大吉だけあってお金持ちなのかな? そして間宮さん一行は倉石の言う通り少し歩いた所にあるコンテナハウスに入っていった。




