天使現る
部屋から丁度150メートル、僕の部屋から望遠鏡のレンズでドンピシャの位置、今日も彼女は机に向かって勉強している。 僕の愛しの人……
ああ…… 机に向かっている貴女はなんて美しいんだろう。 それだけじゃない、ふとした挙動、その他の仕草全てが美しい。
僕が貴女に魅せられてからもうどれくらい経つだろう?
貴女とのファーストコンタクトはそう、2週間前……
◇◇◇
憂鬱だ、今日から高校生活が始まる。 僕はいじめられっ子だ、陰険な外見、そして性格、ジメジメという言葉が似合う僕は昔からいじめられていた。
小学生の頃からいじめられ中学生ともなればいじめは辛く不登校になりかける寸前だった。
誰も、誰も行かない知らない所へ行きたい…… そんな時、高校の受験前に僕は両親の都合で遠くへ行く事になった。
それは僕にとっては天の助けのようだった。 誰も知らない街へ行き全てをリセット出来る、僕はそう思った。
引越し先の高校を受け見事合格、これから僕は新しい僕になるんだ! なんてそう都合良いようには行かなかった。
根暗な僕は高校に入りクラスでも孤立、友達も出来ない。 いじめられてばかりだっから友達の作り方もわからない。 だから僕は自分の殻へと引き籠る。
誰にも相手にされない僕はいまだに教室の机で寂しくポツンと誰とも仲良くなれずにいたある日の事……
「ねぇ、落としたよ、これ君のでしょ?」
「え?」
振り向くとそこには天使のように美しい女の子が僕に向いて話し掛けていた。 僕は彼女を知っている、だけど僕にはどうせ無縁だ、知っているようで知らない未知の存在……
「ほら、生徒手帳」
「…………」
「うーん?」
言葉が出なかった。 絶対に話し掛けられるはずないと思っていた同じ学年で1番美人の間宮つかさ。
「あれ? もしかして君のじゃなかったかなぁ?」
「ぼ、ぼぼぼぼ僕のです!」
「あははッ、キョドリすぎでしょぉ〜? 西野 勉君!」
「え? え? そりぇは僕にょ名前……」
カミカミトークでキモいであろう反応の僕を見て彼女はニコッと微笑む。
「知ってるに決まってるじゃん? 同じクラスでしょ! でも西野君ちょっと暗いよねぇ? いつもぼっちだし。 ダメだよ、もっとシャキッとしなきゃ!」
「うえッ!」
バンと僕の背中を叩き彼女は生徒手帳を僕に返した。 触れられた…… 女の子に、しかもこんな美人に…………
「…………」
「そんな強く叩いてないのにもしかして痛かった?」
「………… ないです」
「え? あッ!」
滅相もないですと呟いて僕はこのシチュエーションに耐え切れず逃げ出してしまった。
だから僕は気持ち悪がられるんだ、こんなコミュ障な僕に彼女みたいな天使が話し掛けて良いわけないんだ、彼女が汚れてしまう。
少し走って息を整える。 彼女が触れた背中がじんわりと温かいような気がする。 なんだろうこのドキドキする気持ちは……
まさか…… 僕が彼女に恋をしてしまった? 普通の人でも手が届きそうにない間宮さんに?
ははは…… 酷い、酷い勘違い野郎だ僕は。 彼女だって僕みたいなキモい奴から好かれたってとんだ迷惑だろう。 汚すな彼女を。
だけどこんな僕に話し掛けてくれた。 なんの躊躇いもなく…… いや、そこはよくわからないけど。 とにかく鎮まれこの感情。
なら…… 密かに彼女を想うのはアリなのだろうか?
そう思った瞬間僕からゾワゾワと何か仄暗いようなものが噴き出す感覚に襲われる。
こんな事…… こんな事していいはずがない。 だけどそれがまた堪らなかった。 いけない事をしている、この僕が、こんな僕が!
僕はその日、学校が終わると彼女の後ろを歩いていた。