自称妹の思惑
謎しかない
自称妹の行動も発言も存在すらも。
彼女の髪は金色で肩の下までかかっており容姿からして日本人ではない。
その一方で喋り方は外国の方特有の訛りは一切無くごく普通の日本語のネイティブスピーカー、今の時代なら特に珍しくもないが、恐らく日本で生まれて日本で育ってきたのであろうことが伺える。
そんな自称妹は本来ユラに食べられるはずだったアイスを食べ終わり、何を探しているのか狭い部屋を物色し始めた。
「相変わらず本当に何もないね」
ボソッと呟いた彼女はため息をつき、だらけたように床に寝転がった。
そんな光景を眺めながらユラは自分の身の振り方に頭を悩ませていた。
恐らく今の状況でユラの中で考えられる可能性は2つ、
この自称妹が何らかの目的で嘘をついている と
自称妹が誰かしらと自分を勘違いしている だ。
まぁ実際のところ後者ならば部屋に上がり込んだ時点で気づいているだろう。
SFチックにパラレルワールドでそっくりさんとどうのこうのと言い出したら必ずしも否定ができるわけではないが、ユラはそんなものを信じるほどロマンティックではない。
ならば前者なのだろう。
最も前者だとしてもこの行動の理由は皆目見当がつかないのだが。
どちらにせよ可能性は後者より前者の方が圧倒的に高い。
ユラは自称妹に疑心の目を向ることにした。
そもそも子供とはいえ急に見ず知らずの人間が、それも妹と名乗り部屋に上がり込んでいる状況。
子供でも見ず知らずの人間が家に上がり込んだ時点で近所の交番なりなんなり、
子供を連れて行くべきだったのだが、ユラは非現実的な自称妹の行動を前に少し冷静な判断力を失ってしまっていたのだろう。
どちらにせよ自称妹の行動の目的が分からない以上、下手に出れば何かとんでもないことに巻き込まれる気すらする。
そしてこのちゃんちゃらおかしい妹なら、何をしでかすか分かったものではない。
「…しかし子供の演技としては異常なまでに上手いな」
ユラは自称妹に聞こえない程度にだが声を漏らす。
…
ここでふとユラに、あるもうひとつの可能性が思い浮かぶ。
実はおかしいのは自分の方ではないのか。
自称妹は嘘をつきながらの演技だとしても、知らない人の家にあがっている様には見えないくらいに堂々と振る舞っており、それこそユラが自称妹の方が正常でおかしいのは自分だと言われても納得してしまいそうなほどだ。
よく考えてみれば自分には妹がいないと証明できる物を手元に持ってはいない。
確認するにしても市役所に行くか、親に聞くなり出来ればよいのだがユラの親は今の時間は電話を掛けても出れる状況になく、市役所に行くにしてもこの自称妹を自宅に一人にしておく訳にもいかないし、市役所に連れて行く方法も思い浮かばない。
しかしこうも考えても一切彼女が何を考えているか分からない。
いっそここは向こうが妹だと言い張る間は自分もその設定に合わせ、仮にでも兄を演じ
コミュニケーションを図って少しでも何かしらの手がかりを得るべきでは無いだろうか。
ユラはそうした結論にたどり着き
兄(仮)として自称妹に話しかけた。