案内人クロ
誰か一人でも見てくださっているのに感謝…(つд;*)
これから頑張ります。
「うむ、主の覚悟は受け取った。
今から向こうの世界に送るわい。
詳しいことは案内人をつけるでな、そやつに聞くとよい」
「わかった」
老人もとい神がこちらに手をかざすと、身体が金縛りにでもあったかのように動かせなくなり、徐々に身体のちからも入らなくなっていくのを感じた。
「…どうゆうことなの。」
視線だけで神を睨み付けて、必死に口を動かした。
「大丈夫じゃ、危害は加えん。
向こうに送るのに暴れられると困るでの、念のためじゃ」
もう、口すらも動かず薄れていく意識の中で、神の口車に乗った自分を呪った。
こんなやつの言うことを少しでも信じるなんて…
「では、いってきなさい
修羅の旅路へ」
土臭い匂いがする。
それに加えて草木の青臭い匂いも…。
覚醒し始めた脳はダイレクトに周りの情報を伝えてくる。
なんだろう、森かな…。
起き上がって辺りを見渡すと、周りは鬱蒼と茂った木々で囲まれており、地面も草や花に一面覆われていた。
良く耳を澄ませば辺りにいる鳥のさえずりや、獣の声が聞こえ、水の音まで聞こえてくる。
川があるのかな…
「深い森じゃなきゃいいけど…」
流石にサバイバル知識までは習得してない。
興味も必要もないし。
確か、川に沿って下ればいいんだっけ。
着の身着のまま、何も持たされてないからそのまま水の音を便りに歩きだした。
服装も学生服のままだ。
上着のブレザーが少々暑い。
一時は完全に動けなくされたからどうしようかと思ったが、こうやって意識も身体も一応は自由になったから、ひとまず安全を確保しなきゃね。
神の言う通り、異世界とやらに送られたかを確かめるのはそれからだ。
「おーい!
本郷秀生!どこだ!」
しばらく歩き続けると、ちょうどさっきまで自分の居た辺りで大声で名前を呼ぶ声が聞こえる。
声は妙に高くて、人の肉声とは思えない。
あ、そういえば案内人がいると言っていたかもしれない。
とりあえず待った方がいいのかな。
そんなことを思いながら、近くにあったそれなりに太い木の影に隠れて様子を窺う。
声の主も迷わず此方に向かっているようだ。
直感かな?こっちには川らしきものもあるし、確率でいえば確かに大半の人がそちらに歩くだろう。
僕も例外なくこちら側にきたし。
それとも、発信器のようなものでもつけられているのだろうか。
声との距離はもう10メートル前後。
相手はいまだに僕の名を呼びながら歩き続けている。
いくら鬱蒼とした森の中でも、そろそろ姿が見えるはずだ。
「いねーのか?
出てこい。案内人の俺を置いてくなんざ死ぬも同然だぜ?」
声との距離はそろそろ5メートルだ。
おかしいな、そろそろ人影くらい見えてもいいはずなのに…
あれ?
確かに人影はないけど小さくてふわふわした黒い物体が浮かんでいるのが見える。
あんなヘンテコな生物は始めてみたな。
「おーい、いねーのか!」
これまた不思議なことに変な生物は喋った。
しかも僕をずっと捜しているだろう人物の声で。
つまり、あの変な生物が案内人なのかな。
「…。」
なんか、やだな。
「おーい、…って
いるじゃねーか。」
あ、しまった。見つかってしまった。
ショックで固まって、隠れるのを忘れてしまっていた。
もとい、真剣に隠れる気力を削がれたのもある。
「どうも」
それだけ言うだけで、あとはなんだかどうでも良くなってしまった。
「どうもじゃねーよ。
なに隠れてやがんだ!
捜しちまったじゃねーか。」
黒いふわふわ物体した物体はこちらを見つけるなりその小さな身体には不釣り合いなほど大きな瞳をしかめた。
喋るたびに人の頭1つかじれそうなほど大きな口からは鋭い刃がちらりと見えていた。
先程の異様に高い声と彼の容姿には似合わない乱暴な喋り方は、なんとなくシュールだ。
「おい、聞いてるのか?
はぁ…。なんつーか読めないやつだな。
その無表情はなんとかならねーのか。」
「別にいいでしょ」
仲良くやるわけでもないし
お前のことを信用する理由なんて1つもない。
「…。これは予想以上に面倒くさそうなのが回ってきちまったな。
まぁ、いいか。
本題に入る。
俺が案内人だ。クロとでもよべ」
やっぱりこいつなんだ。
警戒する気も失せるけど、こいつも神のしもべだろうから信用ならない。
「…先に行っとくが俺は神の手下でもなんでもねぇぞ
俺は目的があってお前のサポートをするんだ。」
視線で警戒していることに勘づいたのかクロと名乗る生物はそう切り出した。
「目的?」
「そうだ、俺もお前も根本は一緒だ。
お前がなんの罪を犯してこんな試練を受けるのかはしらんが、俺もお前と同じように試練で案内人をしている。
俺の試練はお前の試練を見事完遂させること。
それが出来たなら俺の試練の刑期が縮む」
「…ふーん、そっか
でも刑期ってなに?
期間があるの?」
「あぁ、俺はあと200年分の刑期がある。
現世で犯した罪の分だけ試練は重くなる。
大概のやつが重くて100年200年ってところだろう。」
僕に刑期なんて話はなかったけどな…
王都を転覆させればそれで終わりだと言ってたはずだ。
「僕の試練は王都の転覆だと聞いたけど、なんだか他と状況が全然違うよね、僕に刑期はないの?」
「それは、お前のがイレギュラーなだけさ
刑期はないが、下手すればこの先一生このままだぜ?
普通の人間に王都転覆なんてこの先200年300年かけたって無理だ。
俺も手伝いはするが正直、早めに諦めた方が身のためかもな。
一体なにしたんだ?」
「さあ?詳しくは知らないよ。
ただ、神を一柱殺したからかもね」
まぁ、王都転覆なんて正直話し半分に聞いてたし。
あのときは錯乱状態に近いとこがあったし、まともに思考も出来ていなかったから安請け合いしてしまった。
あの狸じじい、上手いことばかり並べやがって。
結局は乗せられてしまっただけだ。
自分がアホすぎて泣けてくるな。
「神を殺した??
そりゃ、本当に殺したんだったらそのくらい罰があるのかもしれねーが…」
信じられないと言うような視線をこちらに向けてくる。
信じても信じなくてもどちらでもいい。
僕もあんな話まるごと信じる気なんて無いから。
「…まぁ、いいか
それが本当ならこちらとしても頼もしい限りだ
これからよろしく頼むぜ」
そういって口元をつり上げニカッと笑う。
別によろしくしなくてもいいんだけどな。
関係をこじらせる意味もないし、否定も賛同もしないけど。
「じゃ、本題に入るぜ、まず王都転覆計画の前に、この世界のことやお前の試練である人族の王都転覆がなぜ執行されようとしてるのかを説明させてもらう」
「まず、試練てのは罪人の罪を償うために行われるなんて聞かされてるとは思うが、実際は天界で処理しなけりゃならねぇ雑務をこなさせられてるだけだ。
つまりは天界での仕事が罪人に試練として回ってきてるわけだ。
今回の件も例に洩れねえ。
言わば、掃除だな
世界のゴミ掃除だ」
「掃除…ゴミ…」
ゴミかぁ…
「この世界の人族はなぁ、この世界の神にゴミ認定されちまったんだよ。
ところで、お前の世界はどんな世界だ?
魔法の技術は発達してるか?
人族以外の知的生命体はいるか?」
「僕の世界は魔法なんてないよ。
オカルトチックに言葉や意味は残ってるけど。
知的生命体は人間以外にはいないね。
その代わり科学技術が発達してたよ」
「そうか、それならまずこの世界の説明からしなきゃだな
この世界の名はセインス。
ここら辺はその時の世界の神の名がつけられてるんだ。
魔法と言う技術が発達していて、争いが絶えない世界だ。
人族以外にも種族がある。
大きく分ければ4種族あって獣人族、妖精族、魔族、人族がある。
獣人族と魔族は昔から好戦的で、魔族は飛び抜けで戦力が優れてるからどの種族からも恐れられている。
妖精族は魔族とは違った意味で厄介な存在だが、基本的にはどの種族とも不干渉だ。
そして、問題の人族だが、昔は数こそ多いが戦力になるようなやつはそう生まれないから、獣人族や魔族からは隠れるように生活してたんだ。
しかしだ、500年程前から魔法の技術が発達し初めてからはみるみる人族は強くなっていった。
獣人族とさしで勝負しても勝てる奴がいる程にな。
それからは、その持ち前の繁殖力と新たに得た力で更に勢力を増していった。
すると、土地と食糧が足りなくなっちまった人族は、ついに獣人族の土地を奪うために戦争を仕掛けようと画策した。
まず、古代文明から発掘した勇者召喚陣を使い、勇者を召喚し戦力増強を図った。
元々獣人族は数の多い種族でもなかったからそれからはあっけなく人族と勇者に負けちまった。
人族は一方的に獣人族から土地だけでなく命まで奪い取っていった。
それから人族の王は奪うことに酔っちまったみてえでな。
あろうことか魔族にまで牙を剥いた。
なまじ勇者なんてゆう強力な力を持っちまったせいで目が眩んだんだな。
そこで返り討ちにあっちまえば良かったんだが、思いの他善戦出来ちまったらしく、勢い付いた人族は欲が出た。
そこで手っ取り早く戦力が確保できる勇者召喚を魔族との戦争に使うために、大量に行ったんだ。
そうするとな、世界のバランスが崩れちまうんだとよ。
それで、人族は神の反感を買っちまったわけだ。
そして、人族の文明を破壊することを決定した。
で、それを遂行するパシリがお前ってわけだ。
わかったか?」
そうか、ならあんたはパシリのパシリってことだね。
「理解したよ。」
「なら良し、早速だがとりあえず森を抜けて近くの村まで歩こうぜ。この先の川を少し下れば森を抜けられる。
そこからは人の使う道があるからそれに沿って歩けば村に着く。
ざっと歩いて2、3時間ってとこだな。」
いきなり歩くのか、面倒だな。
でも仕方ないか、ここには食糧も身を守るものも何もないしね…
それに、いきなりサバイバルなんてゴメンだよ。
そう思いながらも気分はどんよりと沈んでいった。
読んでいただきありがとうございました。