夢の夢
乗馬用の靴を履き、冬の寒さに耐えるよう上着を羽織った。窓の外ではたくさんの金に溺れた汚い人々が予想を立て夢を膨らませていた。別に嫌いなわけでは無い。奴らが予想することで俺に金が入り、そのおかげで政経を立てれる。学校にも通える。
今日は初めてのレースだ。今までは小さな所で一人、愛馬とただ走るだけだったが、今日からは目的を持って走ることが出来る。
つまりは新人である。本来ならば他の選手に挨拶やら差し入れやらをしなくてはいけないのだろうが、生憎そんな愛想は無いし本心以外のことをするのは嫌だった。どうせなら、レースが終わり新人に負けた悔しさに悶える所を、皮肉を込めて挨拶したい。レースに勝つ自信はある。バディとの繋がりは誰よりも深いと思う。何度も、数え切れない程、我が愛馬とは助け合って来た。言葉は無くとも通じる物があった。
そう思い出すと、愛馬が心配になって来た。初めて他の人に従い、不安になって居るだろう。それだけで暴れる馬では無いからそこまでは心配した居ないが、やはり心配は心配だ。レースの前、まだ時間はかなりある。様子を見に行こう。
そう思い、机の上にあるさっき淹れた好物のコーヒーの残りを飲み干すと、ドアがノックされた。
「トラオム君いるかい?」
この声は恐らく、ここの所悔しい結果にあったことが無いと言う要は負け知らず。煽っておくか。
「はい。居ます」
そう返事をすればドアを開けて部屋に入って来た。礼儀知らずめ。
「やぁ、初めまして。私の名は…って言う必要は無いかな」
自惚れてる奴は凄く堕落させたくなる。あと調子こいてる奴。
「えぇ、勿論です。負け知らずさん。まぁ、その名をも今日までですけどね。俺が抜きますから。今日のMVPは俺ですから。」
少しは逆なでできたか。あまりやりすぎると試合に出れなくなる可能性も出てくるからほどほどにしなくてはいけない。
「へぇ、すごい自身だね。初めてだよ。私にそんな口の聞き方する人。それでもし、ぼろ負けだったらどうするんだ?」
こいつ短気か。こんな挑発に乗っかりすぎだろ。しかし向こうはヤル気になっている。イケる。
「どうしてもどうぞ。なんでもしますよ。裸で走っても良い。」
そんな事は絶対無いがもし負けても、裸で走るくらい兄貴に比べたら…屁でもない。
「…素晴らしい覚悟だ。警備やマスコミに言っておこう。君が今日裸で走ると」
そう言うと強くドアを閉め出て行った。礼儀知らずめ。
俺もそろそろ愛馬が待っているだろうし。外へでようかな。
机の上に置いてあるヘルメットを被る前に何時もヘルメットの内側に挟んでいる、子供の時に屋根裏に落ちていた、俺と兄貴と両親の写真と、兄貴を抜いて弟をいれた家族写真を見て色々と思いを巡らす。兄貴にあって謝りたい。許されなくても良い。単純に、会いたい。レースに勝って金を稼ぎ見つけ出してやる。助けてやるからな。
ヘルメットを被りドアを開け空を見た。見事なまでの晴天である。雲ひとつない。世界が俺を応援してくれているのに違い無い。
愛馬に会うと、愛馬ば嬉しそうに声を上げた。そっと鼻筋を撫で今日は絶対勝とうなと言うと、また声を上げた。