相思相愛
クチャクチャと音がする。この音は決して卑猥なものでは無かったが、男を興奮させた。
男が48時間後にその部屋に入ると、そいつはぐっすりと眠っていた。足には足枷が付けられ、腕には手錠が付けられ更に首を鎖で繋がれていて完全に自由は無かった。強いて言うなら発言の自由はあった。男はそいつに近づくと、息を吸いそいつを平手打ちした。部屋にパチンッと音が響き、小さく唸りそいつは目覚めた。
「何寝ているんだ? お前は俺の犬なんだ、忠犬なんだ。忠犬が主人の帰りを待たずに寝るだなんて…仕置が必要だな」
そいつはヒッと言った後鎖の限度の範囲で暴れた。そして不可能なのに逃げようとした。だから私は鎖を手繰り寄せ、そいつの顔を自身に近づけ脅すように言った。
「ここから逃げて何処へ行くつもりだ?」
僕はそう言われて、全身の鳥肌が立つのを感じた。そうだ。僕みたいな奴が外へ出て、誰が助けてくれるんだ。僕に救いが無いのを忘れていた。でもここにいれば苦しい事もあるが生きてはいける。彼は僕を殺さない。時に、幸せを感じることさえある。彼に魅了されている僕がいる。
「何処にも…行か…ない…ずっ…と…君と…同じ時…同じ場所…に…居る…」
思わすフフフと笑い声が出る。人と言うのは簡単には変われない。こいつを私好みにするのに半年はかかった。いや、短いか。こいつは時に、とても幸せそうな顔をする。そうすると私は少し、本当に、少しだけ心がズキリと痛むのだった。だが最早そんな事はどうでも良い。私の物となったこいつは、私の好むよう、私が喜ぶよう懇願している。ゾクゾクする。私はこいつを殺せない。誰に言われても殺せない。私は彼の、手の上で既に滑稽にも踊らされているから。それを私が拒んでいないから。最もっとこいつが笑えるように、喜ぶように、己が罪悪感を感じないよう
「今日から毎日相手してやれる。喜べ。だから特別。お前の好きなところからだ」
僕は、彼さえいれば、彼の望むようにしてくれればそれで幸せなんだ。僕の望みなんか無い。叶わない望みなんてとうに捨てた。無駄な心は、無駄な思考は全て捨てた。全部、全部、全部捨てた。そうじゃ無くちゃ君は喜ばない。君の喜ぶ顔が見たい。それだけが僕が残した感情、心なのだから。でも、強いて、強いて望むなら
「優…しく…触っ…て…優し…く声…かけて…欲しい」
幸せそうな顔しやがって、触るだけでいいのか。どうせ結局、強く、ゆっくり、じっくり感じられるようにしてくれと頼むのだ。何故わざわざ遠回りをしたがる。時間を引き伸ばしたいのならそれは無駄だ。私はもう、四六時中お前に付き添い、私とお前が満足行くまで、虐めるのだ。最低私は満足しなくても良い。だが、お前が納得する満足するまでは絶対に休ませないが、お前が望むのならそうしようなんて声をかけてほしいのだ。我が子に声を掛けるようで良いのか。何が好みなのだ。教えてほしい。あぁ、こいつは耳元で囁くと大変喜んでいたな。
「今日は特別だ…そんな小さな望みで良いのか」
ゾクゾクする!心地良い声だ。彼は僕を知っている。とても良く知っている。まるで己のことのように。これが小さな望みなもんか、これ以上の望みは…とても頼める物じゃ無い。もし頼み実現でもされたら僕は、本当にダメになってしまう。今でももう怪しいのに!でも、でも、でも叶えて欲しい。例えもう、この僕が戻らなくてもそれでいい。僕は絶頂に立てる。こうやって悩んでいる間も、僕を見つめる彼の瞳がもどかしい。僕を適当にしか見ていないその目が凄くもどかしい。君の瞳をギラギラさせたい。そのためなら僕は自分を失っても構わない。
「…して…して…おっ…て…欲しい…痛い…ほ…しい…」
凄く興奮する。今までにないほど。ゾクゾクする。こいつの声は既に掠れて、私には一言一句聞き取れない。それでも何と無くで今までやって来た。こいつも満足していた。なら大丈夫。多分こいつは激しいのを求めてる。気が飛び2度と戻らないくらい激しい奴を。死んでもいいと思っている。私がやったことなら何でも受け入れる事が出来そうだ。またゾクリとする。改めて実感する。私はこいつにとことん底根なのだろう。ならばしてやる。この世とあの世の境を延々と行き来させてやる。