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魔法使いの失敗魔法

作者: 水科 空音

ラノベぽい設定で書きたかったが、力尽きたので導入部分だけ。



廊下を走る音と、教室の扉が勢いよく開けられてぶつかる音。

寝過ごして、気がつけば放課後。誰もいなくなった教室から帰ろうと席を立った時。そいつは突然、俺の前に現れた。


「間違った!!!」

「……は?」


俺の顔を見て膝から崩れ落ちた美少女は、この高校に1年半通っている俺が初めてみたヤツだった。




魔法使いの失敗魔法




「私としたことが…っ!」


教室の扉にもたれかかりながらぶつぶつと独り言を呟くのは、いくら見た目が美少女であっても不審者でしかない。

ここで下手に声をかけ、そこから更に面倒なことに巻き込まれ、あげく流されて後処理をしなければならなくなるのはごめんだ。

こういうのには関わらないに限る。ということで、未だ俯いて何やら考え込んでいるヤツは、教室の出口のひとつを塞いでいるので、俺は残された後ろの扉へ足を向けた。

別に俺が悪いことをした訳ではないし、彼女は俺とバッチリ目があった上で叫ばれたのだから俺の存在は知られているのだけれど、それでもなんとなく、足音を極力立てないようにし気配を薄めて歩いてしまう。

最後に出て行ったクラスメイトが適当なヤツだったのか、中途半端に開いたままになっている扉に、手を伸ばした――


「待って」


凛とした澄んだ声は、大きくはないがよく通る。少しの懇願が混じる声色に、仕方なく俺は上げていた手を下した。

顔だけを、彼女に向ける。動く気はない。


「…何?」


不審な色を隠さずに問う。

絶対に知り合いではないし、会ったこともない。これだけの容姿、一度見たら忘れるはずがない。

仮に俺に用事があったという線を考えても、第一声とその後の行動の説明がつかないから、やっぱり俺の中でこいつは不審者のままだ。


「あの……いきなりこんなことを言うと…変な人って思われるかもしれないんだけど…」


彼女は一度言葉を区切って、言いづらそうに両手の指を握り込む。

少し俯いた顔は、視線を彷徨わせながら真っ赤に染まっている。

この場面だけ見れば、俺は美少女に告白されているように見えるだろう。

しかし残念ながら、そんな青春があるはずない。

何より、自分で言ってるようにこいつは俺の中で「変な人」の括りなのだ。

思われるかも、じゃなく、すでに決定事項。


「私…あなたに…」


綺麗に色づいた下唇を一度歯噛みし、そろりとした上目遣いが少し長めの前髪の下で揺れる。

一度、大きく息を吸った。


「間違って魔法をかけてしまったんです!!」


ぎゅっと閉じられた瞳と、さらりと肩から落ちた髪。

確かに。確かにこれは告白だ。紛れもない。


「……は?」


だがこれは、俺の穏やかなる日常へ別れを告げる告白だった。






「なんで着いてくるんだよ」

「ですから!先ほども説明しました通り!」


通学路を帰宅中の俺の後ろを少し速足で追いかけてくる例の美少女は、青葉明菜というらしい。

教室での出来事以来、ずっと喋りかけながらついてきている。

陽は沈みかけているが、昼間の熱は未だに残っていて、纏わりつく暑さと湿気がうざったい。

よくもそんなに喋る元気があるなぁと、半ば関心してしまうほどにこいつは口を動かしている。


「私があなたに間違って魔法をかけてしまったんです」

「それは聞いた」

「なので私が一緒にいないと危険なんです!」

「危険って何が?」

「危ない目に遭ってしまうということです!」

「はぁー…」


さっきからこの繰り返しだ。具体的な話がみえてこない。

それもそうだろう、魔法なんて言ってる時点で…付きまとわれてるから仕方なく相手にしているけど。


「そういえば、元はどういう魔法だったんだ?」

「かけるつもりだったのは、あの教室にかける範囲魔法で、簡単に言えばあなたにかかってしまった、突拍子もないことがいろいろと起こる内容の魔法です」

「なんでそんな魔法を…」

「試練のためです!」

「試練?」

「私たち魔法使いは、試練を乗り越えて合格をもらい、初めて一人前の魔法使いになります。そのためにこの魔法を使っていろいろな不運を集め、対処するのです」

「…よくわかんねぇけど、じゃあなんで俺にかかったんだよ」

「教室にかけて、私がクラスメイトとして入り込み、誰にも気がつかれないように進めようと思っていたのですが…あなたが教室に残っていたために…」

「範囲魔法なのに?」

「不運とは、場所より人に付きやすいものなのです」


よくもまぁすらすらと答えられるもんだ。

日頃からそういう設定で過ごしてんのか?

どっちにしろ、そういうのは人を巻き込まないでやってほしいもんだ。

もしくはお友達とやってくれ。


「なので、こうなっては、あなたにかかってしまった試練用魔法の効果が切れるまで、私が傍で払い続けるしかないんです!」

「へー」

「お分かりいただけましたか?」

「あーうん。わかったわかった」

「それは何よりです」

「それじゃ、また明日な」

「え?」

「俺の家、ここだから」


どこにでもある一軒家が並ぶ住宅地の中、自宅への扉を開ける。

いくら付いて歩けたって、家の中までは入ってこないだろう。それはもう警察沙汰だ。

明日な、とは言ったものの、もうこいつとは関わりたくない。

制服は着ているが、見たことないヤツだし、外部のヤツがうちの学校の誰かから制服を借りて忍びこんだんだろう。

家を知られてしまったが、会うこともないと思えばどうということはない。


「ただいまー」


中に居る母さんに聞こえるように声を出す。

昔からこういうところにはうるさく、一種の反射のようなものになっている。


「おかえりー、洋平」


エプロン姿で顔を覗かせた母さんはいつも通りで、知らずにほっと息をついた。

大丈夫、さっきまで俺は変な夢を見ていただけだ・


「明菜ちゃん」

「…は?」


続いた母さんの言葉に、情けない音が口から飛び出た。

明菜、ちゃん…?その名前、今さっき聞いたような…


「只今帰りました、洋子さん」


横にいるのは、ずっと俺の後を付いてきながら魔法がどうとか言ってたあいつで…


「は?え?なん、はぁ?」


混乱しすぎてまともな言葉が出ない。

いや、この状態ででる訳がない。


「洋平どうしたの?」

「今日ちょっと、ショックなことがあったみたいです」

「あら、そうなの?とりあえずご飯出来るから、手洗ってきなさい」

「わかりました」


置いてけぼりの俺に構わず、2人は会話をしている。

何だその日常的な会話は。初対面のはずだろ?

立ち尽くした俺の横を通って靴を脱いだコイツは、靴を揃えるために振りかえる。

こちらを見て、小首を傾げると長い髪が揺れた。


「洋平、早く上がりなよ」


ニコリと笑った顔は、そりゃあ何も知らずに見れば可愛かっただろうけど。

今の俺には、不気味にしか思えなかった。






コンコン、ドアのノック音がするも、俺は何も答えない。

少しの間をおいて、もう一度なった。


「あの……少し、お話が…したいので…開けても、いいですか?」


ゆっくりと悩みながら言われたが、正直俺は話したくないし聞きたくない。

できることならこのまま寝て起きて、全て夢オチにしたい。

が、そんなに簡単にいかないこともわかっている。


「はぁ……。…ドウゾ」


ガチャリと音をたてた扉は、言葉と同じにゆっくりと開いた。

扉の先には、さっきまで飯を食べながら母さんと仲良さそうに話していた明菜というヤツがいる。


「あの…」

「入っていいよ」

「…失礼、します」


どこで着替えたのか、制服から見知らぬ服に着替えていた。

夏らしいワンピースは、大人しく彼女によく似合っている。


「どういうことになってんの」


率直な俺の心の中をそのまま口にした。

全てが今、この言葉通りだ。


「はい…。洋平さんの傍に私がいなければならないのは説明した通りです。それは何時でも例外がありません。そのため、魔法を使ってこの家にお邪魔させていただきました」

「…魔法って……」

「これで、信じていただけましたか?」

「……」

「私は、正真正銘、魔法が使えます」


この状況では、他に適当な表現が他に見当たらない。

仕方なく、それで一時的に受け入れることにする。

…決して、真剣な表情と泣きそうな瞳に絆された訳ではない。


「…わかった。じゃあとりあえず信じることにして。お前はどういう位置になってんだよ?母さんとよく話してたけど」

「従兄弟になっています。私の親が海外へ行ってしまったので、立野さんの家にお世話になっている、と。ちなみに部屋はお姉さんの部屋を借りています。すみません」

「…別に姉さんは滅多に帰ってこないからいいけどさ…」


社会人の姉さんは、遠い地で一人暮らししているため、なかなか家には帰ってこない。

最後に帰ってきたのは、いつだったか。


「洋平さんには、多大なご迷惑をおかけして…本当に…ごめんなさい…」

「…はぁ…」

「洋平さんにかけてしまった魔法の効力は、半年程です」

「半年…」

「それまでは!私が!この身に代えても洋平さんをお守りしますので!」


肝心のお前が、俺の平穏を乱してるんだけど。

なんて言っても今更、どうにもならない。

半年。その長いんだか短いんだかわからない間…耐えるしかない。


「…なるべく、平和でいさせてくれ…」


今の願いは、ただそれだけだ。

時には諦めも必要だ。

ため息交じりに言った俺に、明菜はパァっと顔を輝かせた。


「お任せください!」


嬉しそうな声とびっきりの笑顔に、一瞬面食らう。

そうしていれば、普通なのに。

釣られて、少しだけ口元が緩んでしまっていたのに気がついた。



滅多に書かない、恋愛的なものを唐突に書きたくなったので少しだけ。

導入のみという中途半端ですが、設定はあっても、文章として書くと長くなるためそんな気力はなかったです。

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