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RILUDO  作者: 凍雲銀*
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人造少年4

ほぼ初めて出る外には、人がたくさん居た。

なるほどアルフレドの言うとおり兵が町中を走り回り、リルドと戦っている。

はじめて見るリルドはどれもあの研究室にいたリルドと違い、恐ろしい獣のような殺意に満ちた銀色の目で人間を睨んでいて、その大きな獣の爪で風のように速く人間を殺して回っていた。

人間達は突然の奇襲に避難も戦闘も間に合っていないようだった。


見ていると、騎士団の兵達も繰り返しリルドを斬りつけたが、リルドたちは一瞬痛みに呻くだけですぐに体制を立て直した。

どうやら本当に、何をやっても死なないらしい。


「俺が、この人たちを助ける・・・。」


俺は小さくつぶやいた。

今、自分のおおきな腕はアルフレドが作ってくれたローブの下にすっぽり隠れている。


俺は素早くあたりを見渡した。すると一番近くに銀色がかった美しい空色の髪をした若い少女のリルドがいるのを発見した。

その美しい髪も、白い肌もおそろしい量の返り血で赤く染まっている。


俺は一瞬躊躇したがすぐに走り出し、そのリルドへと迫っていった。

まわりの人間はみんな殺されているので、動いているのは俺だけだ。

そのリルドは走ってくる俺にすぐに気がつくとおそろしく殺気のこもった銀色の瞳をすぐにむけた。


俺は一瞬、止まりそうになる。

返り血にまみれたツートンカラーの長い水色と黒の髪を持つリルドは美しくて、それ以上に恐ろしい。そのリルドは俺がたどりつくより早くふわりと舞い上がり俺の傍にきた。


さすが本物のリルドはもたもた走る俺とは別次元なのかもしれないと思うと恐怖で背筋が粟立った。

リルドは一瞬で俺の目の前まで来ると、一瞬にして腕をふりあげた。

リルドに改造されていなければ、その動きを視認す暇もなく殺されていただろう。

幸いそれを視認することができた俺はその一発目を間一髪でよこに逃れた。

リルドは煩わしそうに視線をすぐこちらに固定しなおした。


そして再び長い、爪が振り上げられる。


「ま、まって-・・・・」


俺が言うよりはやく、それは振り下げられた。今度は避ける余裕は、なかった。喉元に、生温かい血が伝う。けれど、俺は死んでいなかった。


「・・・・?」


目をおそるおそる開けると、目の前のリルドは銀色の目を不思議そうに見開いてぎりぎり俺の首をきりつける寸前で止まっていた。

俺は、首を落とされていたかもしれないという恐怖から何も言えずに、ただその瞳を見つめる。

するとリルドは、凛とした声で言った。


「お前、は・・・リルド・・・?」


俺はぽかんとしたのち、すぐにぶんぶん頷いた。

アルフレドの教えその1。自分がリルドだと言い張り、証明する事。

俺はすぐにローブのしたから腕を出して、獣のものであるその手を見えるようにした。するとリルドは更に驚いたように俺を見た。

銀色の瞳が戸惑ったようにゆらゆらする。


そして、リルドは俺の喉もとの爪をよけると俺の髪をまじまじと見つめてから顔をぐいっと近づけた。


「…!?」


整った白い肌が触れるくらいに傍まで寄られる。空色の髪が垂れ、息がかかり、俺は少し驚いて身を引きそうになってしまう。

けれど、ただにおいをかいでいるだけらしいと気がつき、俺は身を引くのやめた。


俺はただ、大人しくじっとしていた。

そのリルドの少女からは、返り血の生臭いにおいと温かい草花のにおいがしている。

…こんな血塗れた彼女たちも豊かな森で穏やかに過ごしている時間もあるということだろうか?


しばらくするとリルドは離れ、銀色の目を信じられないというふうに揺らして。それから小さな震える声で言った。


「ユリア・・・?」


ぽつんと呟かれた言葉に俺は、首を傾げてそのリルドと目をあわせた。

リルドの目は確かにこっちを見ているが、その目には自分は映っていないようで、何か別のものを見ているような表情を浮べている。


同時に銀色の瞳には何かを思い出すような表情と困惑がうかんでいた。

俺はリルドから目をそらすと、唸った。

"ルリア"という言葉は聞いたことがある。俺はそれを頭の中で何度も反復する。

・・・アルフレドに教えられた情報の中にあったような。


しばらくリルドと同じように身動きもせずリオはじっとしたまま思い出そうと思考をめぐらせていた。

記憶力も容量もいいほうじゃない俺は少し思い出すのに時間が要る。

けれどそれから、すぐにリオの頭にはアルフレドの言葉が思い出された。


ルリアは、あの捕らえたリルドの名前だ。


そしてリルドを騙し、信用させるための大事な作戦を思い出す。

この作戦はアルフレド曰くほぼ成功するとのことだった。

…俺が、ヘマをしなければ。

俺は少し震えながら息を吸い込むと、ぐっと吐き出すようにその言葉を言った。


「・・・ルリアは、俺の母さんだ」


「・・・え?」


リルドが、とたんに虚ろな目をやめてこっちをしっかりと銀色の瞳で見つめた。俺も下げていた視線をあげて再びリルドと自分の目をしっかりとあわせる。リルドの銀色の瞳はさっきとは比べ物にならないくらいに動揺したように揺れ、落ち着きなくそわそわし始めた。


うまく、騙されてくれるだろうか。不安に思っていると、一度リルドは目を逸らすとまた顔をあげて期待通りの言葉を吐いた。


「・・・っ、生きて、いたの?」


震える声。そして、再び俺を見つめた銀色の瞳は残酷なリルドの一族が浮べるものとは到底思えないような、喜びに満ちた瞳だった。


かかった!

俺は作戦の成功を喜びながらもそのあっけなさに少し驚いていた。

こうしてみると、リルドもまるで人間のようだ。騙され、喜び、不安げな顔をする。

・・・もちろんこいつ等は、人間とは似ても似つかぬ殺人鬼の一族だが。

俺はその感情をうまくかくして頷いて、それから小さな声で言った。


「人間のところで生まれて、育てられた。でも、逃げ出してきたんだ」


そう言うと、リルドは納得したように頷く。

このリルドは無表情な性質なのか、すぐに喜びの表情から無表情に戻ったが声は興奮したようにすこし上ずっている。


「そう・・・。でも、それじゃあ君の双子の妹は?生まれなかった・・・?」


俺はまた少し首を傾げる。双子の事なんか、アルフレドからはきいていなかった。俺がきいたのは、作戦だけ。アルフレドは、作戦を輝いた目で語っていたが、あの実験はようやく成功したものだから双子なんかは簡単にはできないだろう。


「ごめん、わからない」


俺は素直に疑われないうちにそう言う。

するとリルドの少女はそうか、と悲しげに目を伏せた。


俺はそのままじっとリルドの様子を伺う。

するとリルドは再び無表情の凛とした目をこちらに向け、こちらに獣の手を伸ばした。


「私の名前は、リウル。君は」


俺は立ち上がり、リルド-・・・リウルを見て、言う。


「俺の名前はリオ。」


俺が挨拶するとリウルはこくんと頷いた。


それから俺の同じように獣のものである手を取ると、くいっと引っ張っぱりながら言う。


「リオからはルリアの細胞を感じる。においを感じる・・・。リオがルリアの子供だということは疑いようがない。だから、リルドの森へ迎える」


俺は、少し驚いてリウルを見る。

こんなにも簡単に騙せて、森に行けるとは思っていなかった。

もちろんのことだが、俺は本当はルリアの子供なんかじゃない。


「・・・わかった」


俺は少し呆気なさを感じながらもうなずいて、おとなしく立ち上がったのだった。


そのあと、リウルはちらちらと何か言いたそうにこちらを期待をこめて見ていたが何も言わずにふわりふわりと飛ぶように走っていた。


普通の人間にはついていけないようなジャンプの高さと速さだが、リルドになったリオには不思議とたやすかった。


街を抜けきる前、俺はちらりと後ろを見る。


後ろには、たくさんの人間が死んでいてまだ人間を殺してまわっているほかのリルドの姿と人の悲鳴が感じられた。


俺は、ぐっと口を引き結ぶ。


どうか、俺の仲間-・・・アルフレドたちに危害が及んでいませんように。

あの研究所にはアルフレド以外にもたくさんの仲間がいるから。


俺は無理やり前を向いて、再びリウルについて行くことに集中した。


今俺がやるべきことは、リルドの弱点や奇襲をふせぐ手立てを騎士団に伝えて兵に上手く街を守ってもらうことだ。


悟られないように。やられないように。


俺がそうして考えているうちに徐々にリウルはスピードを弱めていき、やがてぴたりと動きをとめた。



「ここが、入り口」


そう言って、リウルの獣の手が指す方向には緑が生い茂る森があり、ぽっかりと空いたバラの花でかこわれた長いアーチがあった。



「ここが・・・・リルドの、森・・・。」


俺は小さくぼやくようにそう言った。


「さあ、行こう」


リウルはそう言うと迷い泣く薄暗いアーチの中に入っていく。

俺はその薄暗くてどこまでも続くように長いアーチを見ていると少し、足がすくんだ。


ここに入って今まで帰ってきた人は居ない。


-・・・もしこれが罠だったら?

本当は俺が人間だったという子とがリウルにばれていたら・・・・?

俺の頭の中にそんな疑問がよぎる。


俺が立ち止まっていると、リウルは無表情のまま振りむいて、首をかしげた。

リウルの腕で鈍く光る爪が妙におそろしいものに思えて俺はさらに一歩下がる。


するとリウルは進みかけていた足をこっちに戻して再び俺の前に立った。

俺は、リウルの銀色の瞳をおそるおそる見つめる。


「・・・・。」


リウルの目には、驚くほど敵意はなかった。

むしろ待ち望んでいた仲間が帰ってきたことを心底喜んでいるかのようにきらきらと輝いている。


「どうしたの。初めてだから、怖い?」


リウルがそう、聞く。

いつの間にか恐怖が吹き飛んでしまった俺は、すぐに首をよこにふった。


「大丈夫だ、行く」


「そう・・・じゃあ、行こう」


リウルはすぐに踵を返すと今度は後ろを振り向かずにそのまま薄暗いアーチの中を進んでいった。


俺は見失いそうなほどずんずん進んで行ってしまう水色の髪を追ってあわててアーチに入った。

アーチの中に入ると、ふんわりとバラの香りがリオを包む。


思ったよりも中は薄暗くて足場が見えにくいれど、アーチの中の足場はしっかりと踏みならされて道になっていて、躓くことはなさそうだ。


しばらくリウルのあとを付いていくと、突然ぱっと視界が開けた。

俺はまぶしくて一瞬目を細めて、首をすくめる。

けれどすぐに自分に突き刺さる複数の視線に俺はまだ少しなれない目を開いた。


「・・・・っ」


俺は、息を呑んで周りを見渡す。


そこは広場のようにバラの生垣に囲まれたぽっかりと空いた空間で、俺のすぐ前にはリウルが居て、広場にはたくさんの"リルド"が居た。

銀色の瞳が何対も、ものめずらしそうに俺を見ている。


全員が全員、ツートンカラーの髪をしていて獣のものである腕を有していた。

中にはローブや手袋などで覆われて腕が見えない服装をしているリルドも居るが、その目は銀色だ。


俺が固まっているとリウルがそのまわりのリルドを落ち着かせるように腕をあげた。

少しざわついていた広場が、静かになる。


「みんな・・・。この子は私たちと同じリルド。人間のところから逃げ出してきた、ルリアの子」


リウルは、凛とした声で言う。


次の瞬間周りに居たリルドたちの目が驚いたようにいっせいに丸くなる。

銀色の月のように輝くその瞳は伝説で伝えられるような不気味なものではなく、むしろ綺麗だった。


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