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RILUDO  作者: 凍雲銀*
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人造少年3

「う・・・」


かすかにまだ頭が痛むが、リオはゆっくりと目を開けた。

目を開けるとそこは見慣れた研究室の天井で、俺は安心してふうとため息をついた。

あのまま死んでしまったのかと思ったくらい激しい頭痛だったが、今はほとんどおさまっている事からどうやら助かったらしい。


俺が気がついてぼうっとしていると、それもまた見慣れた、少し乱れた茶髪の男が視界に現れた。


「・・・アルフレド」


俺が小さく唸るように言うと、アルフレドはにっと口角をあげて笑う。

茶色の瞳は興奮したように輝き、勝利のいろに満ちていた。


「お早う、リオ。気分はどうだ?」


俺は眉をひそめる。その挨拶の声もいつもの気だるそうなものではなく、うきうきとしていて明るい。

・・・何がそんなに楽しいのだろう。俺にお早うと言う声は、本当にうきうきわくわくという表現がぴったりなほど。


「少し頭が痛いけど、それ以外は別に」


けれどとりあえず気にしないことにして俺はそう、単調に答える。

するとアルフレドは更に嬉しそうににやりとした。

もうここまで来ると気持ち悪いレベルで、どう考えてもいつもと様子が違っておかしい。

こいつ、確実に今日は変だ。俺は耐え切れず眉間に皺を寄せ、とうとう聞いた。


「おい、何をそんなににやにやしてるんだよ、アルフレド?」


するとアルフレドは一瞬ぽかんとしたのち、すぐにハハハと笑って俺の手に触れて、持ち上げながら言った。


「何って・・・成功したんだよ、リオ。これを見ろ」


俺は、持ち上げられた手を、見る。鋭い爪が鈍く光った。それは本来ないはずのものだ。けれど今の俺にはごく自然にあるはずのものになっている。


-…俺の手は、途中から獣のように変わっていた。


「なっ・・・」


俺は驚いて、ばっとアルフレドの手から自分のものとは思えないような手を払い、それからじっと見た。

その手は先刻までの俺の腕とはあきらかに違う。まさにそれは、リルドの-・・・・


「リオ、これも見ろ」


アルフレドはそう言い、鏡を俺に手渡す。

上手くこの大きな腕でつかめるものかと思ったが、案外使いやすいその手は小さな鏡をきちんと持てた。そこに映る、自分のようなものに再び絶句する。


「なんだこれ・・・」


俺はそんなわかりきったことを動揺したような震えた声で呟く。

鏡の中にはあの幻想でみた彼女と同じ美しい銀色の瞳と、銀色の髪に黒のツートンの髪の青年がいた。完全に、それは今までの俺じゃなかった。


「リルド・・・・。」


リオが呟くと、アルフレドは嬉しそうに何か言ったが俺は何も聞いていなかった。


-俺は今日、人間じゃなくなったんだ。


しばらくは鏡を離せなかった。恐怖なのか、何なのかわからないがその感情は押し寄せて俺を飲み込むように包んだ。

それを見たアルフレドは俺の頭をわしわしと撫でながら嬉しそうに言葉を紡ぐ。


「何ぽかんとしてるんだ。すごい成功だぞ。これで俺たち人間はもうリルドに怯えなくていい・・・。さっそく事を進めよう」


俺はされるがままに頭を撫でられながらアルフレドを見る。

ついに俺は、リルドの森に送られるのだ。


俺が造られた理由はただひとつ。

俺がリルドになって、リルドの森に行き、スパイをすることだ。人間は、リルドを完全にこの世から消そうとしているらしい。

もしくは捕らえて研究したり戦争に使ったりしようとしているのかもしれない。

・・・リルドが俺たち人間を皆殺しにしようとしているのと同じように。

俺がぼうっとしているうちにアルフレドはどこかにばたばたと出て行ってしまった。


きっと、隊の偉い人にでも報告に行ったのだろう。俺は、少し恐怖を感じていた。

・・・・もしこんなことが、リルドの一族に知られたら、俺は確実に殺されるからだ。


---

どれくらい時間が経っただろう。妙にアルフレドの帰りが遅かった。

暇を持て余した俺は、わしわしとその大きな手を動かしてみる。

到底自分のものには思えないようなそれも、やはり今は自分の手で自在に動く。

頭痛がすっかり消えているのをいいことに、俺はそれからベッドから降りるとその場でぴょんと跳ねてみた。

すると、人間のときとははるかに違う体の軽さを感じた。

運動能力は、大幅にあがっているらしい。すこしわくわくして俺はいろんなことをしてみた。


跳ねたり、走ったり。


動揺はすっかり消えていて、だんだんと体の勝手も判ってきた。

・・・思ったよりも、すごい。

遊んでいるような心境ではなかったのだが、まさに"うきうきわくわく"してしまうくらいに自分の生まれ変わった身体はすごかった。


そうして俺が身体を動かしていると、ガチャリと研究室の扉が開いた。


「アルフレド?遅かっ・・・・、!?」


そこまで言いかけたところで、人間のときよりよく効くようになった鼻に、ふわりと漂う鉄錆のようなにおいが、届く。これは、血のにおいだ。


俺ははっとして顔をあげた。


「アルフレド・・・!?」


扉には、傷だらけのアルフレドが寄りかかっていた。腕や顔などに複数切り傷があり、あちこちから出血してアルフレドはふらふらとしている。

リオは急いで、その軽い身体で一跳びでふわりとアルフレドの傍に行き、支えた。


近づいてよく見てみると大きな傷や深い傷はないようで俺はほっとして震えた。

少ない顔見知りに何かあるとさすがに辛い。しかしアルフレドは傷など気にもせずにリオを見て目を輝かす。


「おお、リオ!すごいなその跳躍力。素晴らしい」


俺は少し呆れたようにため息をつきながら、さっきまで自分が寝ていたベッドまでアルフレドを抱えてそこに座らせた。

アルフレドはありがとう、と短く言いすぐにポケットから首輪のようなものを出した。


「リオ。今外ではまたリルドが数体町に襲撃に来てる。おもに兵を狙ってるらしくて俺もとばっちり食らって少し攻撃を受けたんだが。」


リオは、目を見開く。

アルフレドは俺が何か言おうとすると手でさえぎり話を続けた。


「これは、GPSと通信機能がついた首輪だ。肌身欠かさずつけててくれ。俺や兵の指揮を取る騎士団隊長のいる騎士団本部へと連絡が入れられる」


俺は、細い一見ただのかざりのような首輪をみつめた。

心臓が、どくりとなる。

ここにつれてこられたとき以来、外に出るのははじめてだ。それに、ここからは一人でバレないようにうまくやっていかなければならないのだ。

俺が不安げにそれを見つめていると、アルフレドはいつものように笑った。


「だいじょうぶだ、リオ。何かあれば連絡しろ。俺がすぐに助けてやる。それにお前には、人間が救えるんだ。誇りに思え」


アルフレドは俺を撫で、それから首輪をつけてくれた。


「さあ、行け。俺がいつも教え込んでいた約束を守ればばれないし、リルドに混ざって森へ行ける!」


アルフレドが大きな声で叫ぶように言って一度俺を抱きしめると、すぐ離して俺の背中をドンと力強く押した。

俺は、その勢いに駆られるように研究室を駆け出していった。




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